証明/HN:たゆたう

証明/HN:たゆたう

※奇妙掲示板より移転

私には物理学者の父がいた。職場は某国立大学、物静かな人で独り娘の私を溺愛していた。

父はまだ私が幼い頃、強盗に襲われこめかみの部分を至近距離から拳銃で打ち抜かれた。居合わせた母はあまりの出来事に言葉を失った。それは、

「銃弾がこめかみの部分でぴたりと静止している」

ことに我が目を疑った。

父は何事も無かったようにムクッと立ち上がり、こめかみの静止した奇妙な銃弾について説明した。

父が言うには、銃弾とこめかみまでの距離を銃弾が半分まで進んだ時、残りの距離をまた半分にする。そこまで銃弾が進んだ時、また残りの距離を半分にする……と繰り返すと銃弾は決してこめかみには届かない。

それを脳の50%の能力で特殊な時間を作りだし、銃弾より速く高速演算している、と。

それからの父はこめかみを隠す為に長髪にし、日常に戻った。変わった事があるとすれば眠らなくなった事くらいだ。

――時が経つ

大学生になった私は、親元を離れ一人暮らしをしていた。父は悪い虫が付くから駄目だと一人暮らしは猛反対していた。半ば押し切る形で部屋を借りた。たまに電話がくると「男はまだ早い」の一点張りで次第に、私から距離をとるようになった。

そんなある日、母から一本の電話が入る。

「お父さんが倒れた」

病院に駆け付けると父はチューブで繋がれてベッドに横たわっていた。医者が言うには今夜がヤマということだ。泣き叫ぶ母。言葉にならない言葉。

そんな中、病室の外にはなにやら人だかりが。父のこめかみのアレについて学者やらな何やらが集まっていた。私は説明を求められ事情を話した。

「ということは、意識が無くなった時、銃弾が動き出す可能性があるという事ですね」

父は至急、特別室に移された。

その部屋は、ビニールで覆われ、父の銃弾のあるこめかみの反対側に銃弾受けの為の板が設置されている。

最期に父は薄れ行く意識の中で私と母に「ありがとう」と告げる。私と母は、これから起こると予想されること、つまり破裂する父の頭部を見たくないので部屋を出た。

――2時間後

医者や学者がゾロゾロと特別室から出て来た。担当の医師の口から父の死を告げられた。特別室に入室した私は意外にも父の綺麗で安らかな死に顔と、

『こめかみに静止しながら残る銃弾』

を見た。

医師が言うには確かに亡くなったのでもう意識はないはずです、と。それなのにアレは静止し続けている?

父の遺体は研究の為に暫く低温保存される事になった。

あれから一年、父のこめかみにはまだアレが鈍い光りを放ちながら静止し続けている。

父は証明してしまったのかもしれない……。

そして、私は常に得体の知れない視線を今もこの時でさえも感じている。


 

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