『怪しい果実』/HN:ビワシンセイキ

『怪しい果実』/HN:ビワシンセイキ

◇ みかん

家路を辿る細い路地を、Mさんは歩いていた。

自分の家の入口まで、あと少し、というところで、自宅のブロック塀の上に蜜柑が等間隔に9つ置いてあるのを見た。

Mさんの家の庭はもちろん、近隣の家の庭木にも蜜柑の木なんて無かったはずだ。だとしたら、わざわざ何処かから調達して置いたのだろうか。

子供のいたずら……と考えるには、ブロック塀は大人の背丈程もある。

訝しく思いながら、Mさんが蜜柑を眺めていると「食え!」と背後で大きな怒鳴り声がした。

振り返ったが、誰も居ない。

気味が悪くなったMさんは、そのまま家に飛び込んだ。

部屋に入って、ホッとしたのも束の間、テーブルの上を見て、身が竦んだ。

そこには、蜜柑がひとつ。

家族に柑橘類が苦手な者がいるMさん宅では、蜜柑を買う事はあまりない。

反射的に、蜜柑をゴミ箱に捨てた。そうして顔をあげれば、又、同じ場所に蜜柑。

仕方なく、ゴミ箱に捨てた方も拾いあげ、塩と共に紙にくるんで、再び捨てた。

それきり、蜜柑は現れなかった。

念の為に外に出て塀の上を見たら、蜜柑はすべて消えていた。

「あれ、食べていたらどうなったんでしょうかね?」

Mさんは、眉をひそめてそう呟いた。

◇ いちご

「苺だけ無くなったんですよぉ!」

Iさんは言う。

「どこかに落ちているのかテーブルの下を見ても、どこにも無かったし、第一、部屋には私1人だったし」

Ⅰさんは無類の甘い物好きだ。

その日も、近所の洋菓子店で苺のショートケーキを買ってきたという。

「ケーキをお皿に移して、お茶を入れて、さぁ、食べるぞ、とケーキを見たんです。そしたら……」

苺だけ無かったという。

「苺のショートケーキなのに苺が無かったら、ただのスポンジ生地とクリームじゃないですか! でも、仕方ないから、食べました。ちょっと、不満でしたけれど」

結局、いくら探しても、苺は見つからなかったとの事だ。

別の日、Iさんはデパ地下で惣菜を買った。

家に帰り、それを食卓に並べた。

「そうしたら、ご飯をよそう僅かな間に、海老焼売の上に乗っている海老が消えていたんですよ!」

当然ながら、探したが見つからないし、部屋にはIさんの他には居なかった。

「でも、今度は、まだアッサリと諦めがついたんです。グリンピースの乗った焼売なら、もっとどうでも良かったかも。やっぱり、許せないのは苺ですよ。苺が無いのは腹が立ちますよね」

Iさんは語気を強くした。

◇ 秋の味

庭の柿が赤く熟せば、Kさんはまず、最初のひとつを仏壇に供える。

幾年前に他界したKさんの父親は、果実が好きだったが、とりわけ柿は好物で、秋になると、庭の実が赤く色付くのを楽しみにしていた。

だから、最初のひとつは父親に……

「そうしたら、毎年なんですよ、柿にひとくち齧った後が残るんです。
家は私と、あとは母しかいなくて、そんな事する者は居ないんですよ。ただ一人しか……」

毎年、Kさんは柿の実を供え、齧り跡を見ては、「ああ、お父さん今年も喜んでくれたんだな……」と、なんとなくホッとした気分になるそうだ。


 

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