根拠は無い。無いんだけどもね…

根拠は無い。無いんだけどもね…

俺は霊感など無いし幽霊目撃も皆無だけど、たった一度だけ不思議な体験をした事がある。

昔、他サイトに投下した話だが、その時はかなり創作してしまって、こっぴどく叩かれた記憶がある(笑)。ここでは有りのままを記す。聞いて欲しい。

まだ小学校低学年だった頃の話。その日の朝、まだふとんにくるまっている俺に母親が声を掛けた。

「ねえ、○○ちゃん、車に轢かれて死んじゃったんだって」

「○○ちゃんが?」

死というものがよく解っていなかった俺は、仲の良かったクラスの女の子が亡くなったというのに、別段哀しくもなくただキョトンとするばかり。

普通にごはんを腹一杯食べ「行って来まーす」と家を出る。そして二、三歩歩いた時、俺はそれを見たんだ。

見た事もない蝶。庭の玉砂利すれすれの所を飛んでいた。白い羽根に二本の黒い線が入っている。紋白蝶よりも若干大きく見えた。

その時はさほど気にも掛けず、友人達と合流し学校に向かう。その頃にはもう、蝶の事などすっかり忘れていた。

道中、当然のように○○ちゃんが話題の中心となるが、どの顔も特別悲しそうではなく、やはり皆もまだ、友人の死の実感など湧いていなかったんだろう。

しかし、机に花が活けてあったり、女子や担任が号泣したり、校長の長話があったりで、時が経つにつれ徐々にではあるが哀しみが込み上げてくる。

○○ちゃん、本当にいなくなっちゃったんだ…

俺の親父は漁師でその娘の父親は無類の釣り好き。仲も良かったんだろうが、せがまれると断われない性分の親父は漁の無い日にもよく沖に船を出した。

その度に俺と彼女はお互いあまり興味のない釣りに付き合わされる。だから、俺達はいわば両家公認の仲だった。無論、色気など入る余地のない幼いカップルではあったが。

後日知ったんだが、その事故、むごいとしか言い様の無い悲惨なものだった。

夜中の10時頃、徒歩で2分しか離れていない友人の家からの帰宅途中、酒飲み運転の車が歩道に乗り上げ彼女に接触、その際あろうことか、何かの拍子で車体の一部と彼女の衣服が絡まったというのだ。

あちこちぶつかりながら何百メートルも引きずられたその身体はもはや人間の名残すら失われていたという。

「くれぐれも車には気を付けてね」

放課後、担任の教師に見送られ校舎を出た時だった。俺は心底驚いた。

頭上にいたんだ。間違いなく、朝見たのと同じ蝶だった。

友人達もそれに気付く。

「何あれ」

「変な蝶々」

口々に叫ぶ。それほど、その蝶は珍しかったのだ。

それに、思い返すとその羽根の模様、上から見ても下から見ても全く同じだった気がする。しかも、逆光の中飛んでいるのに影にならず、普通に、白地に二本の黒い線がはっきり見えていたとしか思えないんだ。

何故か俺は、朝それを見た事を皆に言えずにいた。ただ何となく口にするのが憚られたのだ。今にして思えば、絶対に有り得ない事象を肯定する事で生ずる忌まわしき臭いを子供心に嗅ぎ取っていたのかも知れない。

そして、作り話だと笑われるのを承知の上で敢えて書くが、なんとそれは俺達に付いて来たのだ。距離にして何と2km(実際は6kmなんだがそれは後で話す)。

「何で付いてくるん?」

「気持ち悪い」

その場にいた誰もが騒ぎ立てる。とにかく不気味だった。それは明らかに何らかの意志を持って追って来ているように見えた。

皆が妙に殺気だち、棒で叩き落とそうとしたり石を投げつけたり。それは、大人なら手の届きそうな、頭上すぐの所を、2kmに渡ってヒラヒラ舞い続けたのだ。

たまに旧友と会うが、その時の体験は20年近く経った今でも「あれは不思議だった」と話題になる。

車の往来が激しい道で、蝶ばかり見ている訳にもいかず。ふと気付いた時には、その、異様な生物は消え去っていた。

川べりに下り、もずく蟹を捕まえたり、薄っぺらい石を拾っては水面で何回跳ねるかを競いあったりしている内に日も暮れかけてきた。

「じゃあね」

「また明日」

友人に別れを告げ家路を急ぐ。俺の家は海沿いの一番奥にあり、クラスの誰よりも帰りが遅くなるんだ。

いまだに思い出すとゾッとする。

「ただいまー」

玄関に入りドアを閉めようとしたまさにその時、ほんの10cm程の隙間から、あの蝶が眼前に飛び込んで来たんだ。

あまりの恐怖で全身が一瞬硬直する。

「何、こいつ…」

直後、半ばパニックの俺を支配したのは猛烈な殺意だった。

そばに立て掛けてあった虫取り網を夢中で掴むと蝶目掛けて振り下ろす。瞬時にそれは視界から消えた。確実に網に掛かった筈だった。

俺は見たくもない対象から目を逸らしながら、床に横たわる網を、ただただ闇雲に何度も何度も踏んづけた。

「あんた、何してんの!?」

母親の声でハッと我に返る。網の下には屍の、一片のかけらさえ落ちてはいなかった。

あれはきっと、○○ちゃんが会いに来たんだ…。悪い事したなあ…。

俺は長いことそう考えていた。

でも最近ふと思うんだ。

もしも本能というものがあるなら、そして、あれがいつも笑顔だった優しい彼女の化身だとしたら、俺はあれほどの恐怖を覚えただろうかと。

ライオンの群れにでも囲まれたかのような、絶体絶命の恐怖。

違うんじゃないか?

もしかしたらあれは死神で、○○ちゃんの次に俺を狙ってたんじゃないか?

○○ちゃんも、あれに付きまとわれてたんじゃないか?

そんな事が頭をよぎるんだよね。

根拠は無いよ。無いんだけどもね…。

 

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