頭腐語-トウフガタリ-②/HN:こげ

頭腐語-トウフガタリ-①/HN:こげの続き

残業を済ませて帰ったその夜も…
眠りについた俺の元に
あの女はまた姿を現した…

次の夜も…
それで俺はマンションに帰るのをやめることにした。
車の中へ布団を持ち込み寝ることに決めた。

たぶん…Yさんも…アレを…見て…

寝不足と疲労で朦朧とする頭の中で…
布団を取りに一度、マンションに戻らないと…
俺は仕事をしながら布団のことばかりを考えていた。
残業を終えてマンションに着いたのは午前2時を少し過ぎた頃。

明日が納期の仕事をなんとか終わらせることが出来た…
提出書類一式を仕上げ、
コピーを済ませたらこんな時間になっていた。

明日…すでに今日となってしまったが
次の仕事に余裕があるからと
あちらの課長が
仕事を追えて伸びをする俺に
有給を使って休んで良いと言ってくれた。

気持ちが楽になったからだろう
そんな危険な時間に
マンションへ入ることが出来たのは。

Oは既に寝ているだろう。
鍵をあけ音を立てないように中へ入る。

照明の落ちた廊下の先…
リビングの
ベランダへ出る大きな窓…
黒々とざわめく木立
今日も月が出ているのだろう
青白い光が差し込んでいた。
早く布団を取ってこないとな…
部屋のドアノブに手をかけた時
視界の端で何かが動いた…ような…
気がした。

何か…が、

下からせり上がってくる…

心拍数が一気に跳ね上がる

俺はドアノブに手をかけたまま

リビング…

いや、窓の外…

ベランダへ目をやった。

数千の蛇を乗せたかのように宙を舞い蠢く髪…

逆光で闇を湛えた相貌…

筒のような…肩幅の無い…

細く…薄い

上半身…

人だった…

人じゃない…

人の形をした何かがいた…

見えないエレベータか窓掃除用のゴンドラにでも乗っているが如く

ベランダの外…

何もあるはずの無い空間を…

音も無く

浮上してくる…

俺のいる5階までくると…

ベランダの手摺に降り立つと

窓ガラスも割らず…摺り抜け…

リビングへ入ってきた。

宙に浮いている…

廊下の照明が瞬く。

消えていた筈が…なぜ…

ざんばらに伸ばし放題の汚らしい黒い髪…

紫斑の浮く青白い陶器のような肌…

帯は無く、

羽織った着物のようなボロボロの装束…

明るく照らされた廊下を

ゆっくりとこちらへ向かってくる。

魅入られた…

俺の目が極限まで大きく開く…

ひた…ひた…ひた…

床を素足で進む

足音…

ひた…

身体はまだ動く!

いまならまだ…

逃げようと玄関のドアに飛びつき

ドアノブを握って捻る!

「なんでだ!?」

すぐ出て行くからと

施錠した覚えは無い!

ドアチェーンをした覚えも無い!

なのに…

力をどんなに込めてもドアノブは

固まったように動かない。

無駄なのは分かってるが力いっぱいドアを押す。

が、動かない…

単に時間を浪費しただけだ。

腰が砕け諦めたくなる状況…

己で己を叱咤する。

右を見た…

Oの部屋…

恐ろしくて後ろは振り返ることが出来ない。

ただ、確実にこちらへかなり迫ってきている…

それだけは分かる。

Oに助けを求める。

部屋へ入れてもらう為、

ドアを

力の限り乱打した。

「O!O!開けてくれ!頼むO!!」

一秒が…刹那の時間経過がとても長く感じられた。

ドアが開く。

レオンに助けられたマチルダの気持ちはこんなだっただろうか。

「煩いな!どうしたんだ一体?」

すごく不機嫌だったO…寝ていたところを無理矢理起こされたら…

「とにかく中へ入れてくれ!!」

「ちょ、ちょっと待て!!」

脚を開いたドアの隙間に入れ…膝と肘で人ひとり入れるスペースが出来るまで

押し開く…

そのままの格好で部屋の中へ飛び込む!

靠…ほとんど体当たりだ。

Oを突き飛ばして部屋主の許可も無しにドアをロックする。

「Yさんがおかしくなった理由がわかったぞ!
 そ、そして…俺が今、その理由に狙われているんだ!!」

「頼むから落ち着いて静かに喋ってくれ!時間を考えて」

気が動転して声量の調整が出来てなかったらしく、俺はドアを押さえながらOに謝罪した。

「すぐそこにいる!あれはヤヴァい!」

「俺の方もかなりヤヴァい!」

Oは大特急でゲーム機の電源を落としてモニタも消す。
しかし、俺はパニックになりながらも見ちまった。
記憶もちゃんとした。
Oは寝不足と引き換えに当時有名だった
恋愛シミュレーションゲームをプレイ中だったようだ。
そこはツッコまぬが花だろう…
しらじらしく証拠隠滅を謀った後、Oは
ドア前に張り付く俺にクッションを指差し座るよう促した。

「なんだそのYさんが辞めた理由っていうのは?」

「シッ!ちょっと静かに…廊下の方に聞き耳を立ててみろ!!」

「あ?ここに住んでるのは俺とお前だけだろ?誰が廊下にいるって?」

訝しげな顔をするO。
まぁ、それが普通なのだろうが…
俺が真剣な顔をして聞き耳を立ててるので…
Oもドアの向うへ意識を傾ける。

ひた…ひた…ひた…

Oにもあの足音が聞こえたらしく
真っ青な顔をして俺に振り返った。

「な、ななななななななな!?」

「分からん!確かなことはここに来てからずっとYさんはアレを見ていた…
 そしてYさんが辞めたあと二ヶ月して…俺の所へ出た」

ドアのすぐ向うから
溜息のようなものが聞こえた。

「そ、そのタイムラグが何を指すのかはわからな…ひぃ!」

ゆっくりとドアが開いていく…

ロックしたはずの…
声にならない悲鳴。
たまらず部屋の奥へ逃げようとした俺に
何を思ったかOがしがみついてきた。
いいタックルだ。
こらえようとOの奥襟を掴んだが突進力が勝り、俺は背中から床に倒れこむ。

「ぐあ!」

まさか、この技は…あの伝説の…
柔道の神様『三船久蔵』先生が編み出した『球車』!?

「ぐぼぉ!!」

そこへOが落ちてきた…お前は天空×字拳の使い手ナムさんかよ…
痛がってる場合じゃないのでOを振りほどいて逃げようとしたが
Oは涙目で追いすがってくる…
その背後でドアがどんどん開いていく…
こ、こんなマウントを巡る寝技の攻防戦している暇など無いのに…
俺の意識がドアへ向いた隙を衝いてO…
完璧にしがみつかれてしまった。

「O!後見ろ!後ろ!!」

開いたドアの隙間から
女が顔を出した…
俺は面識が幾度かあったが
Oは初対面…
その取り乱し方といったら説明不能なタコ踊りだ。
俺を乗り越えてどこかへ行こうとしてるのか!?
滑稽さ満タンなのに全然笑えない!
照明でその全貌が明らかとなった女の顔…
ここで漏らさなかったのは奇跡といえよう。
Oは奇声をあげながら俺に抱きつき…俺もあまりの怖さにOにしがみついた。

半狂乱に陥った俺達…

女の口の端が吊りあがり
笑みの表情になった。

不気味で凄惨な笑み…
獲物を前にし弄うかのように舌なめずりをする大型肉食動物みたいな…

もうだめだ!

時間稼ぎの為にしたのか分からないが
手近にあるものを掴んでは女に向かって
力一杯投げつけた。

Oもだ。

ゲーム機からマグカップ、今まで尻に敷いていたクッション
花咲か爺さんのようにティッシュを一枚一枚引き抜いては投げつける!
これが江戸の吉原だったらどれだけの散財か!?ってほど投げつける!
空になったら箱を投げつける!
タオル、耳かき、爪切り、ホッチキス
マトリョーシカに水飲み人形、鳴子のこけしに赤べこ、ちゃぐちゃぐ馬コ、翁の面
手当たり次第に投げつける。
効果があるのかないのか分からない。

涙で視界が霞み
恐怖が恐怖を増幅させる。

投げるものがついになくなった。

二十歳を過ぎた男二人がドアに向かって
来るな来るなと
恐れ戦き狂ったように泣き喚いている。

どれくらい時間が経ったのか…

気がつくと

ドアから覗き込む女の顔が消えていた。

お互い顔を見合わせ
抱き合ってるという状況…
それを認めて
うわっと叫び、慌てて離れる。

怖いとはいえ、
男と抱き合うなど生まれてはじめての事だった。

それで、怖くてこんな所にいられないと
Oに毛布を借りて車へ運び
マンションから離れた建設中の分乗住宅地に車を乗り入れて二人で寝た。

Oに今まで起きたことを説明し
マンションから出ようと言ったのだが
一夜だけの恐怖体験では納得できないのか
もう出ないかもしれないなどと能天気なことをのたまい
マンションへ帰っていった。
なんていうか
Oに…そんな男前な行動に出られてしまうと
負けず嫌いに火がついてしまうものでな…

Oが残るなら俺も残ると…
言っちまった。

怖い!怖いさ…
でも、怖いと分かっていても逃げてはならない時もある…

男って悲しいよな…
せっかくの有給だから日帰りで温泉に行ったりして
夜はマンションへ戻った。

もちろん、外でOが帰ってくるのを見計らい、
偶然を装ってOと一緒に中へ入った。

それで、

今夜はどんな怪異が待ち受けているか…と、身構えていたのだが…

その晩は何も起きなかった。

次の晩も…
あのOの部屋で見た
一件以来…
怪異は鳴りを潜めてしまった。

と、いうより完全に止まってしまった。

何が理由で終わったのか
俺にもOにも皆目見当がつかない。

それで残りの日数をこなし…
不思議な事に工場は出向期間の延長を申し出ることなく

予定していた1年で俺達は本社へ戻ってくることが出来た。

俺の話はそれでお終いだ。

私が作ったウーロンハイのグラスを受け取ると部長は美味しそうに飲んでくれました。
らしくもなく語ったから喉が乾いたみたいですね。

部長が体験した怖い話…

社員旅行の二日目、函館の夜…
全社員参加の大宴会が終わって二次会へ雪崩れ込む人たちを尻目に
函館の夜景を見に出かけた私達間接部門の女性社員有志…
ホテルへ戻る途中でラーメン屋さんから出てきた部長達設計部門の男子と偶然会って
二次会へ繰り出してまだ戻らぬ男子部屋に集まって飲もうってことになりまして
しばらく、わいわい楽しくやってたのですが…
いつの間にかはじまった
アルコールの力が変な角度に入ったらしく…
怖い話…誰が言い出したのか忘れましたが
百には届かない王様百物語が始まってしまいました。
王様になった人が二人指名してどちらかが怖い話を語り…
終わるとその二人がポッキーゲーム開始…酔っ払いだから成立する遊びですね。
それで私と部長が指名されまして
「俺がやる!」
と、日本語版スター●ォーズのダース●ーダー卿みたいなことをのたまいまして
部長が新入社員時代、
実際に出向先で起こった恐怖体験…を語り始めたのでした。
いろいろ脚色してそうな…
特に奥さんの…奥さんが彼女だった頃の…
ちょっとガハラさんっぽいとこあるけど…あそこまで酷くないから!

「武道やってて鬼みたいに強い部長が半狂乱になってびびるって…なんか想像できないな」

「なんだったんでしょうね、急に出なくなったなんて…理由は絶対あるはずですよね」

「それなら、なんで出てきたかも謎じゃね?」

「Yさんが出て行ってからどうしたのかな…部屋でYさん帰るの待ってたとか…」

「それで帰ってこないから廊下へ出たら部長を見つけて…部屋に…か」

「五階のベランダから侵入してくるっていうのもなんか…」

みんな口々に感想述べてます。

「ベランダの向う…な、
 俺もOもその時まで気がつかなかったのだが…寺だった。
 それもすぐ真下が墓地…だった」

「う、うわぁ~」

どんなマンションの立地ですか…下見にきた段階で入居希望者…
どん引き間違いないですよ!

「幽霊出てもおかしくないシチュエーションですか…」

「いや、墓地に埋葬されている死者はお骨になってるし
 葬式あげて成仏してるから化けてでないだろ」

「古いお寺なら無縁仏とか…あるんじゃないかな」

「毎日、念仏聴いてるんだからいい加減成仏すんだろ無縁仏でも」

話がお寺の方に流れちゃったなぁ

「あ、あの…もしかしてなんですけど」

私、ちょっと閃いたかも…

「どうしたんだ?」

「なんで…部長とOさん二人で目撃した次の晩から
 お化けが出なくなった理由なんですが…成仏…しちゃったから…だと思うのです」

「なんだそりゃ?」

「成仏って勝手にできるものなのか?」

「無理だろう!いきなり成仏って」

「で~そりゃまたどんな理由なんだ?」

名探偵、皆を集めてさて…と言い

「えっとですね、部長と…今の技術部の副部長のOさん…
 二人が抱き合ってるの見て…天にも昇る気持ちで萌え…成仏しちゃったんじゃ…」

「その女性はホ●好きの幽霊だったってこと!?」

「目の前でそんな素敵動画見せられたら…私だって昇天しちゃいますもの♪」

それだけは胸を張って断言できます!

「てことは…ホ●が見たくて死んでも成仏できない女性が墓に眠ってた…」

「そうか!幽霊はホ●好きか!!」

なんか皆さん食いついてきましたよ♪

「男子三人で部屋を借りていると知ったら寝てなんかいられないじゃないですか!
 ホ●好きとして!!」

「ちょ、ちょっと待てお前等!」

「エ□同人みたいな展開期待して夜にお邪魔するんですよYさんの部屋に!」

「わたし~すっごいホ●見たいな~って?」

「そうそう!!」

「それだ!それしかない!あらゆる可能性を消去していき、
 どんなに起こりそうにもないことでも最後に残ったものが真実だと
 シャーロックホームズが言ってるしな」

「ホ●好き幽霊決定!笑える~!!」

「そうか!部長とO副部長は幽霊にホ●と勘違いされたんだ!!」

「そして念願の!二十代前半の青年が抱き合うホ●をついに!!」

皆がホ●を連呼して笑い転げてます。

「部長とOさんの愛が奇跡を呼んだ!」

「ナ●シカか俺達は!?」

「親方ぁ!下から女の子がぁ!!」

「ラ●ュタ…」

「お前ん家!おっばけや~しきぃ~!!」

「カン太ぁ!!」

それで、その場にいた人…全員一致で
ホ●好き幽霊に二人が●モと誤解されて成仏して出てこなくなったことに決まりました。

「お前等!俺の数少ない貴重な心霊体験を勝手に穢してんじゃねーよ!
 くっそぉ!思い出台無しだろうが!!」

言い出しっぺの私は
体験者である部長とO副部長にしばらく恨まれることになります。

なんか、幽霊がどっか行っちゃって
二人はホ●って…話が勝手に一人歩き始めちゃって…

(おしまい)

2013年08月18日(日) 23:42
こげ ◆.s16F9bY

投稿広場より本掲載

 
  • こげ

    m(_ _)m ごめんなさい、気がつきませんでした。
    こちらへ掲載していただけていたのに(T_T)
    ありがとうございます♪これを励みにできるだけお話を
    どんどん書いていこうと思います♪

     
  • 天通管理者

    [85] はじめまして♪
     こんばんは♪こげと申します。
     昨日はお話を投下したまま逃げちゃってごめんなさい。
    御挨拶しないとと思ったのですが疲れて寝てしまいました。

    あんまり怖くなくて
    だらだら長いだけのお話でごめんなさい

    こんなのしか書けませんが
    書くことが大好きで
    また是非、お話書かせてください! m(_ _)m

    皆様、よろしくお願いします

    2013年08月20日(火) 02:03
    こげ ◆.s16F9bY

    [87] 頭腐語
    率直に言って面白かったです。

    いや、勿論怖い部分はちゃんと怖かったですけど。

    オチがびっくり!

    2013年08月21日(水) 00:08
    道化師 ◆RFphBmaY

    [88] 感想ありがとうございます♪
    ※87宛
    道化師様、面白いと仰っていただきましてありがとうございます♪
    読み直していろいろ手直しとかしたりしてて
    やっぱり長いなぁ~(T_T)と、批評とか批判とかされちゃうかなと
    びくびくしてました。

    あは、オチは…

    大変お粗末様でした
    ありがとうございます

    2013年08月22日(木) 21:32
    こげ ◆.s16F9bY

     

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