頭腐語-トウフガタリ-①/HN:こげ

頭腐語-トウフガタリ-/HN:こげ

「1年間だが、我が社の為に他の企業へ出向してくれないかね」

俺がこの会社に入った初日のことだ。
それも入社式が終わってすぐに、同じ新入社員であるOと会議室へ呼び出され、
社長直々に得意先である某有名企業の地方工場で働いてくれと要請をされた。

地方と行っても東京近県などではなく、
温泉が有名な観光地のある山が目の前にズドーンとそびえるそんな場所だ。

技能も資格も不要、業務内容はほとんど雑用…

仕事の依頼先を選ぶ決定権を持つ部署が人員を募集しているから
生贄を差し出し、恩を売っておこうという魂胆らしい。

業務に支障が出ない人間が適当ということで
設計部へ配属が決まった新入社員である俺とO、中途採用で入った技術部のYさんの三人に
白羽の矢が立った。

なんなんだ!?
新入社員に対しこの逃げ道を完全に塞ぎ首根っこを掴んだ無理矢理な人事は…

行くか…嫌なら辞めろの二択ってことだろ?

真っ先に考えたのは次の職探しの事。

大学から付き合ってる彼女の顔が浮かんだ。

地方へ出向とか…
会社の人事で1年と言えばそれは2年以上を意味する…

離れて暮らす…遠恋…かなりの努力と忍耐と信頼が必要とされる…
それが出来るか俺と彼女!?

いやいやいやいや!

無理だから…
アレが1年とか、まったく辛抱ならんから…

愛してるなんてほんの些細な心の変化でごめんなさい…寂しさに耐えられなくて
つい縋っちゃったのよ彼とっても優しくて…魔が差したのよ彼とは何でもないの
絶対許してもらえないよね本当に好きな男性ができちゃったさようなら…みんな
私が全部悪いの…でもあなただって悪いのよ…私達縁がなかったのかも…神様が
きっと神様が…私達を引き裂くの…私の気持ちにまるで気づいてくれないから…
憎みあう前にお別れしましょ…そして、友達だった頃に戻りましょ。

そんな定番悲劇な轍を踏みたくなければ

辞めるしかない…

だが、しかし!

企業は新年度を迎えて社員確保は済んでしまっている。
就職難のご時世…職安を頼ってもめぼしい仕事など残ってる筈が無い。
再就職…この道は絶対に避けねばならん!
我慢するしかない…我慢するしか…

だが、断わる!

プーになって職安通う生活に陥ろうとも
俺は彼女の傍にいたい!

それで彼女に会社を辞めるという意思とか決心とか伝えた訳だが

「ふ~ん、私の気持ち…疑うんだ?」

ゆらりと立ち上がりクローゼットをガサゴソやったあと、
名状しがたきモザイク無しでは見せられないブツを右手に持ち…
激怒した人斬り抜●斎みたいな殺気を纏い俺の前で仁王立ちになった。

「行きなさい…行ってきなさい、2年くらい平気で待ってあげるから」

いやぁ、日本人ってすごいよな。
激怒している相手を目の前に
正視せずにひたすら謝ることができる

『土下座』という素晴らしい謝罪方法を生み出したんだからな。

「この下衆野郎が、ゴミ虫の分際で私を疑うなど身の程を弁えなさい」

後頭部を踏まれ、額を床に同化してしまえとばかりにぐりぐり躙られ…
上官を撃ち殺した後、トイレで便器に座ったまま自殺したくなるような罵声を
彼女が満足するまで延々と…日が変わるまで浴びせられ続けた。

まぁそういうことで、
俺は辞令を受けて見知らぬ勤務地へ赴いた。

見送りにきてくれた彼女、別れの抱擁を済ませた離れ際…俺に一枚の念書を渡した。

『もし、私があなたを裏切って他の男性と交際をはじめた場合、
 出向を終えて帰ってきたあなたに拉致され監禁され正気を失うほどの
 酷い陵辱と暴行を受けた末に殺され、
 身体をミンチ状に細かく切断され豚の餌に混ぜられ食わされたとしても
 私は絶対にあなたを恨みません』

涙をハンカチで吸い取り、
行ってらっしゃいと泣き腫らした顔ではにかむ彼女に

俺は本気で戦慄したよ。

最初の予定では
某有名大企業の社員寮に住まわせてもらう筈だったのだが
俺達三人みたいな出向組は人事、派遣社員は資材と受け入れが別なこともあり

同じ工場内の癖に横の連携まったくなしで

子会社やら協力会社やらから手当たり次第に人員を集めまくった挙句…

気が付いたら寮に入れない人間が多数いることが発覚したんだとさ。

そのあぶれた中に俺達がいた。

なんにもない土地にどーんと新工場が建った訳で、
周囲にはアパート、マンションなど数える程しか無く
殿様商売の大企業とウチの上司達がすったもんだの紆余曲折を経て
5月の連休過ぎになって
やっと、
工場への受け入れる日時と俺達が寝泊りする場所が決まった。

工場から車で30分程のところにある隣市の地上7階地下1階が駐車場という
新築マンション…
『アパート』じゃなくて『マンション』!
その5階…3LDKでトイレと風呂はちゃんと別れていて浴槽も広い。
家賃もそれに見合ってお高いものだったが、
全額会社が負担してくれると言う…

ただし、俺とOとYさんの三人でそこを借りるの決定…

三人一緒かよ…

とか言いながらマンションに住めるって俺達、大喜びだった。
住めば都…野郎の三人暮らしでもマンション。
通勤に車で30分かかったり、
スーパーや外食産業が同じくらい離れた場所にあったりと
立地的に不便なところは色々あったが…ものすごくあったが
1ヶ月も経てば、
その生活に慣れて楽しさも見出すようになっていた。
無人の野菜販売所とかあったりして
自炊とかする俺には大助かりどころか天国だ。
500円で山ほど野菜が買えた。
それから近くの蕎麦屋のおやじが裏山で獲ったと鹿肉をくれたり…
秋くらいまでは仕事も薄くて優雅な生活を送ってたな。

さて、マンションの間取りだが
玄関から入ってすぐ右側の6畳洋間が俺の部屋、
その反対、左側の6畳洋間がOの部屋
短い廊下があって右側に洗面所と風呂場、トイレ、物置の順に並んでいる。
左側がダイニングとキッチンで、
一番奥が10畳程あるリビング…その右側に6畳和室、これがYさんの部屋。
リビングからベランダに出られるようになっていて、
これが必要以上に広い。
その向うは林にでもなってるらしく背の高い木が密集して生えている。
緑と自然に恵まれた地方都市の高級マンションという売りなのだろうか…
怪しい外国語の歌が日常流れ、喧騒が絶えない小便と吐瀉物の香り漂う
俺が大学時代に暮らしていた格安アパートとは雲泥の差だ。
セーフハウス代わりにする奴がいるのかと疑いたくなる。
各部屋のドアには鍵もかけられプライベートが確実に守られるし…
夏冬は水循環型の冷暖房が室内に設置されてて無料で使えるし
不満と言えば風呂の追い炊きが出来ないことだが…
先に野郎が入った湯船に浸かるのはノーサンキュー
お湯を張りなおしてから入るの決定だから
気にすることでもなかった。

7月に入ってYさんの様子がおかしいと思うようになった。

口数が極端に減って、なんだか暗い…思い悩んでいるような印象…
たまに三人で飯を食いに出掛けたり
酒を飲みに行ったりしていたが…
なんでも相談しあえる信頼関係は全く築けていなくて
なにか問題でも…心配事でもあるのかと訊けない情け無さだったりする。
それで1ヵ月に1度、伝票を持ってやってくる人事課長に報告はしたのだが…
改善は見られず、
Yさんは日を追うごとにやつれ、荒んでいった。

盆を過ぎて、Yさんの帰宅がかなり遅くなった。
午前0時過ぎ、荒々しくドアが開閉、乱暴に玄関で靴を脱ぎ捨て…
壁に手をつき身体を支えながら
ふらふらと廊下を抜けて自室へ入っていく。

相当、飲んでるな…
なんというか…
ここに帰ることが忌々しい…
ここに住んでいることが苦痛
無理に帰ってきてるというか…
俺は部屋のドアを僅かに開け
そんなYさんの後姿を部屋に入るまで見送ったことが何度もある。

大酔して帰ってきて風呂も入らず就寝、
朝にシャワーを浴びて朝食を取らず出社する…
Yさん、それが毎日になった。

一度だけ、
帰宅したYさんが玄関で倒れたまま動かなくなったことがある。

ベロベロに酔っぱらっていて
放っておけばその場で寝てしまいそうな按配だ。

物音で気付いた俺とOで肩を貸し
部屋までYさんを運んだのだが…

その間、
お前等はなんで平気なのかとか
あれを見ていないのか
俺だけなのか
毎晩毎晩
このマンションを出てどこかアパートを借りて一人暮らしがしたい
人事課長にマンションを出たいと頼んだら1年契約だから無理と一蹴されたとか、
あとは訳のわからないうわ言みたいなのを
繰り返してた。

10月の社員旅行が終わって、
Yさんは会社を辞めた。
9月に辞表を出していたそうだ。

理由は一身上の都合…

代わりの者が見つかるまではいて欲しいと会社が頼んだのだが
頑なに拒否したとか…
それを知るのは俺が一年の年季が明けて本社へ帰ってからのことだった。
俺とOにはYさんが辞めるいきさつは絶対に知らせてはならないと
社長が緘口令を布いたのだとか。
そんな事は知らない俺達…
辞める直前のYさんの酔乱ぶりに悩まされていたので、

いなくなってホッとしたところもあったりする。

Yさんの後釜が入る話だが…
都合良く工場近くのアパートが見つかったということで、
そちらへ住むことになった。
6畳の和室は荷物の多いOが物置として使うことにした。

12月に入って仕事が忙しくなり、
帰宅時間は…午前0時より早く帰れることはなかった。
土曜日も休日出勤しないと間に合わず…
マンションは寝るだけの存在に成り下がる。
生活してるという気がしない。

朝飯は抜き、昼は社員食堂、晩飯は夕方に売店で買っておいたパン

もしくは閉店時間ギリギリで飛び込んだ飲み屋で食うツマミ程度でな。

牛丼、ファミレス、ファストフードとか、
24時間営業なんて便利なもんはまだ少なかったし…
田舎で野郎の一人暮らしは晩飯を食いっぱぐれる可能性…
高かったんだよな、
あの有名な24時間営業のコンビニだってこっちじゃ名前の由来にもなった11時で
営業終わってた。
割と…
缶の汁粉が晩飯って事もあったわ。

少し足を延ばせばドライブインの自販機コーナーとかあって
紙の箱に入ったハンバーガーやチャーハンなんか食えたけど
売り切れてる確率の方が高くて
無駄足踏むくらいなら汁粉飲んで寝たほうがマシって…な。

そんなんで身体も精神も限界寸前のヘロヘロになって帰宅した晩…
12月も半になって忙しさがピークになっていた時のことだ。
半分寝ながらお湯を溜めて風呂に入り、
敷きっ放しの布団にもぐりこんだのが2時過ぎ…

目ぇ瞑った瞬間に深い眠りに落ちた…の●太も真っ青な寝つきの早さだ…『1』…で寝た。

それから、

どれくらい時間が経過したか…

物音で目が覚めた。

部屋の外…

廊下…だな…

誰かが歩いている…

Yさんが出ていって二人暮らしになったから

俺がここで寝ているならば、足音の主はOしかいない。

こんな夜中も夜中に廊下を歩くとすれば…

用足し…しか思い浮かばん…

いや、足音は

トイレよりも先の方から聞こえてくる…

リビングとかもっと奥の方…

ならばOが物置に使ってる和室に用があってそちらに…

足音…

妙に意識が研ぎ澄まされ…眠気は完全に消えていた。

一歩…一歩…

確かめるように…

ひた…ひた…ひた…

ゆっくりとこちらへ…

玄関の方に向かって歩いてくる。

妙に威圧感のある…

肌が粟立つような…

ひた…ひた…ひた…

素足か…12月半ばだというのに靴下もスリッパも履かずに…

足音でだいたいの位置は掴める。

現在、トイレの前を通過中…

ひた…ひた…ひた…

Oなんかじゃない!

半年以上共同生活送ってるんだOの歩き方とはまるで違う!

なんで今頃それに気付くんだ俺?

俺の部屋…

部屋の前まで来たそんな時に!

廊下の何者か…

歩みが止まった。

歩みを止めた…

いる…

ドアの向うにOの可能性は捨てきれないが

誰か立っている…

こちらを見ている…

見えてはいないが

すぐドアの向う…

分かる気がする。

首を巡らせ出入口のドアを見ようとした…

どういう訳か…

身体が

動かなかった。

おかしい…
手足…四肢ばかりか
指一本動かすことができない…

呼吸も怪しい。
息を吐こうとすると…
同時に呻き声のようなものが喉から漏れた。
俺の…声…なのだろうか…
疑いたくなるほどしわがれた…

息を吸う時も…

どういう事だ!?

その時の俺には金縛りという言葉が

まるで…思い浮かばなかった。

身体が動かない…

ドアの向うには何者か…得体の知れないモノが

中を様子を伺うかのように

立っている…

もしも…

もしも、

俺が身動き取れないと分かったら…

それが部屋に入ってきたとしたら…

カチリと留め金が外れる…

本当に…本当に来た…

金属音

冷気が流れ込んでくる…

ドアは内側からロックしていた筈なのに…

部屋の凍てついた空気が動き出す。

ドアが…

蝶番が…

擦れ…軋む…

開いていく。

ひた…

足音…

一歩、踏み入れた…

ひた…

二歩目…

これで…得体の知れない何者か…

完全に室内へ身体が入った…

どうする!?

どうすることもならんが…

身動きもとれず、

ただ…布団で仰向けのまま…

考えようとしても…

思考が満足に働かない…

結構、焦ってるよ俺…

耳鳴りがする…

瞬きも出来ないみたいで

目の表面が乾いていくのが分かる…

何も出来ず…

時間が過ぎていく。

「?」

闇に目が慣れてきた。

何かいる…

ピリピリと痛む視界の左側…

窓から…

カーテン越しに差しこむ月明かり…

完全な闇ではない闇の中…

黒い…

黒い塊…

完全な闇が蝕のように

俺の視界を埋めていく…

ゆっくりと俺に近づいてくる。

見上げるしかできない俺に…

さらさらと音を立て

妖しく蠢く

黒い影

それが

人の形を…象って

下りてくる。

濃く湿った土の匂い…

頬を撫でる脂気の抜けた黒髪…

青白く皺のない…斑の浮いた陶器の様な肌…

薄い血の通わぬ黒い唇

垂れた前髪の隙間から覗く。

感情が綺麗に消え去ったガラス玉のような

二つの瞳…

鼻と鼻が触れそうなくらいに

迫ってくる…

生気のない…

女の顔が

腐臭…

目元から…鼻腔から…閉じた唇から

黒い液体が

滲んで溢れ

糸を引き

滴り落ちてくる。

頬に垂れ伝う…

氷の様に冷たく…

粘りある…

その不快たるや

動かす事ができなかった下顎が…

鋭い痛みを伴い大きく開き

絶叫の形をとった。

喉から迸る俺のものとは思えぬ

断末魔の如き咆哮。

恐怖のあまり

上半身が撥条の様に跳ね起きた。

動いた!?

いつの間にか

身体は自由を取り戻していた。

立ち上がり様

闇の中

周囲を見渡すと女の姿は無かった。

照明を点け

部屋の外…廊下を確かめたが

やはり…誰もいない…

Oの部屋…は、行きたくない…

こんな取り乱した姿で…

幽霊を見ただなんて…

言えるはずがない。

夢だったのかもしれない…

脂汗でべっとりする顔を手で拭う。

顔に滴り落ちた粘液は…

どこにも痕跡が残っていなかった。

肌に残る不快感

鼻腔に残る腐敗臭

しかし…

朝日が昇るまで

俺は照明を点けたままにし

眠る事ができなかった。

また…アレが来るかもしれないと思うと…

部屋の中心…

ドアからも壁からも均等に離れた位置で

武の基本である自然体をとったまま

朝を迎えた。

そして、

一睡もできぬまま出勤した。

なんだったんだあれは…

頭腐語-トウフガタリ-②/HN:こげに続く

 
  • 名無し

    紅の豚まんさん。
    気になるも何も、最初のページの最初の部分でウンザリして残りは飛ばしましたので最後はどうなってるのか知らないですよ

     
  • 紅の豚まん

    なにこれ?さん、コメントした時点で気になってる証拠でしょうよ(笑)。おいらも投稿すっから感想欲しいな。

     
  • ななし

    俺も幽霊の正体は彼女の生き霊だと思った。
    作者が彼女の話にかなりの分量を割いて本題に入ったところから、そう読み取った。
    落ちは正解とは言ってないから、落ちこそがミスリードなのかもしれない。

     
  • 匿名

    読み応えあって楽しめました。
    途中まで女?は彼女の生霊だと思ってたf^^;
    次回作にも期待してます。

     

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