【怖い話】深夜のダム湖/HN:ニック

深夜のダム湖/HN:ニック

去年の一二月初旬の話。

唯一の釣り仲間である健太と俺は二人で夜釣りに出掛けた。真冬のダム湖は想像を絶する寒さで、かなりの防寒対策をしたにも関わらず手が凍りつきそうだった。

近くの駐車場に車を停め、両側から威圧してくる雑木林の間を抜けて湖の護岸を目指して歩く。真っ直ぐ続く真っ暗な砂利道、残念ながら月も雲が遮り、健太の持つ懐中電灯だけが頼りだった。

『今日は釣れるかな~?』

『ん、少ないチャンスをモノに出来たら釣れるだろうな…』

無愛想に健太が呟く。山から吹き下ろす風を受けて、ザワザワと周りの木々が鳴る。まるで大きなトンネルか何かををくぐっているような孤独感に襲われた。

いつ来てもこの道は気持ちのいいものではない。そんなビビりな俺とは違い、そんな事に全く動じない健太はいつも通り心強い。

時おり後ろを振り返りながら、真っ暗な闇におののきながらも歩き続けると…突然道が開け、壮大な水溜まりが現れた。

『ついた♪ついた♪』

視界全体に広がるシンと静まり返った紫色の湖、対岸までは二百メートルはあるだろうか?

俺はこの光景を見るといつも心が和む。と同時に、絶対大物を釣り上げてやろうという闘志に火がつきニヤけてしまうのだ…

ピチャンと岩場辺りで魚が跳ねた。

『よしよし今釣ってやるから待ってろ♪』

俺は早速釣りの準備に取りかかった。

屈んだ状態でふと健太を見ると、先ほど魚が跳ねた岩場とは反対側の森の方を見て押し黙っている。俺もつられて見てみたが、暗くてなんにも見えなかった。

『健太?どした?』

『…いや、なんでもない』

健太は何かを振り払うような仕草をした後、釣りの準備に取りかかった。多分何もない事はないんだろう…

健太は自他共に認める霊感体質で、いままでも一緒にいて数々の怖い目に遭ってきたから。用意をしながらもチラチラと森を盗み見る健太に気づかないフリをして、俺は釣りを開始した。

今日はなかなか調子がいい。俺は三十分そこそこで二匹のバスを釣り上げた。どちらも良型で嬉しさから自然と口元が緩む。

しかしそんな俺とは対照的に健太の様子がおかしい。全く釣りに集中出来ないみたいで、買ってきたビールにも手をつけずにじっと森の方を見ている。

気づかないフリも疲れたので聞いてみた。

『健太、大丈夫か?やっぱりあそこになんかいるの…?』

すると健太はコクンとあごを縦に振った。

『あちゃーやっぱりか…』

俺はすぐにでも逃げ出せるように、道具を一つにまとめる作業に取りかかった。こういう事は一度や二度ではないので俺も慣れたもんだ。

『優人見えるか?あそこ…水面から顔出してるやつ』

『ちょ、ちょっと待って!』

一通り後片付けを終えてから、健太の言うそちらを見てみた。が、そんなものは俺には見えなかった。

『そうか、じゃあこの音も聞こえないか?』

『音?』

耳を澄ませてみると、なんか聞こえた。

りーーん…

りーーん…

それはよく仏壇の前にある凛?(漢字間違ってたら勘弁)を鳴らしているような音だった。

『あ、聞こえた!』

健太はシィーと口元に指を当てて、更にその薄暗い森の前の水面をめちゃ怖い顔で凝視しだした。

『あの顔出してるやつはどうって事ないんだけど、この音鳴らしてるやつがちょっとやべーかも…』

『そ、そうなの!?逃げた方がいい?』

俺は両脇に荷物を抱えて、いつでもダッシュよろしくポーズをとった。しかし健太は更に顔を険しくして、何か悩んでいる様子を見せた。

そんな膠着状態が一分程続いた時、

『ヤバ!優人逃げんぞ!!』

突然健太は俺の腕を掴み走りだした。その突然の衝撃で、両脇に抱えていた道具を落としてしまった。

しかし二、三歩駆け出した所で、健太の体が一瞬宙に浮き、バタン!と後ろにひっくり返ってしまった。

『ち…畜生!ダマされた!』

健太は両手両足をバタつかせながら、必死に起き上がろうとしている。俺はうろたえながらも、健太の手を懸命に引っ張った。

『だ、ダメだ、優人!塩! 俺の鞄に塩入ってるだろ!! そいつを俺に渡せ!』

『は…は、はい!』

健太の大きなバッグをまさぐっていると、足元に懐中電灯が転がっていた。俺は考えるより先にそのスイッチを入れて健太を照らした。

すると、引きつる健太の肩からダラリと伸びる白い手が見えた。しかもその手は、健太の胸のあたりをがっしりと掴んでいた。

焦った俺はライトを落としそうになった。慌てて掴んでまたそちらを照らしてみると、健太の右後ろにある岩の上に裸足の足が見えた。

震えながら光を上げてみると、そこには男が三人、(いやもっといたかも)立っていた。たしかみんな住職さんが着るような服を着ていたと思う(無知でスマない)。

で、一番前に立ってる男が胸の辺りに両手で何かを持っていた。

りーーん…

りーーん…

この音の正体だと思った。

『畜生!騙しやがって!!この野郎!』

健太の声で我にかえり、鞄の中から大きな袋に入った塩らしき物を取り出し健太に手渡した。

気づくと、あの不気味な雑木林の中を健太と二人で走っていた。健太を見ると上半身が裸になっている。

『健太、服!服!』

『おー!あれぐらいアイツらにくれてやるよ!はっはー!』

ケタケタ笑いながら走る健太は本当に心強い…

先ほどの恐怖はもう遠い過去の事のようだ。俺もつられて笑いながら暗い夜道を全速力で駆け抜けた。

自殺で有名なダムには、間違っても夜中に近寄ってはいけなかった。その後さすがの健太も高熱を出して苦しんでた…

やっと元気を取り戻した健太は、あの時の事を語りだした。

水面から頭を出してた女?は多分水死者。顔がパンパンで目玉なんかも無かったらしい。

で、そのすぐ近くの森の辺りに子供が何人かいたそうで、こちらには全く興味がないって感じで水面の女を覗き込んでいたって。

それが突然、健太の頭の中へと直接流れ込んで来るようなお経が鳴り出して、今まで無関心だった子供達がこっちに向かって走ってきたんだって。

慌てて逃げようとした時、突然後ろから現れたって。最初見てた現象はダミーだって健太は言ってた。

俺が見た住職達を健太は見ていないが、子供達が姿を変えたもの、見る人によって見え方が違う場合もあるとの事。

『アイツらちょうどあん時、あの死んだ女を迎えに来てたんじゃねぇかな?』

俺達お邪魔だったみたいです。

(終わり)

 
  • 匿名

    怖いですね。
    読んでいて吐き気がしてくるほどでした。
    最後のお邪魔虫はよかったです(笑)

     
  • 道化師

    健太さん、逞しいですね!

    他の話も宜しくお願いしますm(_ _)m

     

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