【不思議】鍋物語-ナベモノガタリ-/HN:こげ

鍋物語-ナベモノガタリ-/HN:こげ

大きな仕事を任されて三ヶ月間、
休日も昼夜も関係無しの働き詰めで
月平均の残業が200時間を軽く突破してしまい、
納品終了と同時に会社から代休をとるよう命じられ、
有給と合わせて1週間の休暇を頂くことになりました。

働き詰めだったことと
大きな仕事をやり遂げて気が抜けたからでしょうか、
体調を崩し、
高熱を出して寝込んでしまいました。

それでも大事には至らず二日ほどで床払いできまして
休暇三日目の夕方、
家の中でゴロゴロしているのも飽きて
用事も無しにぶらぶらと…
強いて言えば…散歩?でしょうか…
サンダルにジャージという
ラフな格好で外に出ました。
なんかもの凄い夕焼け…
東の空の方まで赤く染まって…
大気中の水分が……多いとか少ないとか?

西の彼方に沈み行く夕日を見ながら
自宅から200mほど離れた所にあります
私鉄の踏切へ差し掛かった時
前方からこちらへ向かって歩いてくる人の姿が目に入りました。
ううう、
お風呂に二日も入ってないし、お化粧もしてないし髪も洗えてないし、
年頃の女子としましては人には
絶対会いたくない有様です。
ジャージだし…サンダルだし…

楊大眼率いる北魏の軍団を見た梁の兵士みたいに
踵を返して逃げ出したかったのですが…

近づいてくる、その人の相貌を見てみると
誰かは忘れちゃいましたけど
確かに見覚えのあるお婆さん…
知り合いだとしたら
挨拶も無しに逃げちゃうなんてできませんよ

そんなことしたら、

あそこの娘さんは挨拶すら出来ないとか、
そんなだから年頃なのに誰もお嫁に貰ってくれないとか
そんなだから生まれてこの方、男の気配がひとつもないとか…
バレンタインデーにチョコ渡すのはお父さんだけとか…

不本意な噂を立てられてしまうこと絶対ですよ!


「sauve qui peut」

沈み行く船と運命を共にする船長さんな気持ちでお婆さんを迎えました。
でも、どこの家のお婆さんでしたっけ?
眼前のお婆さんを誰と特定できぬまま挨拶します。

それはもう、お婆さんの事は
私が小さい頃からもちろん知ってますよぉ♪という風に。
愛想たっぷりに♪
お婆さんはにっこり笑って

あらあら、ずいぶん見ないうちに大きくなったわねぇ、
ちょっと前に中学生になったと思ったらこんな素敵なお嬢さんになってぇ。

あらあらまぁまぁと
お婆さんの方は私を小さい頃から御存知といった具合ですよ。
友人の孫娘って感じで親しげに話しかけてきたじゃないですか!?
私の方は、いまだ思い出せてないのですが…

お婆さんとの話題は私の家族に及びまして
それはもう父と母の近況とか
父の仕事がどうとか
私は嫁に行ったのかとか
いろいろ根掘り葉掘り訊ねたりしてきて、

ということは…このお婆さん

最近は我が家との交流が疎遠になっている…と、捉えて良いということですよね?
それで、
その場でいつ化けの皮を剥がされて尻尾丸見えになっちゃうかドキドキな感じで
10分ほど立ち話をしていたのですが
別れ際にお婆さんが、
畑の白菜が出来たから明日でも取りに来なさいって。

ついに、私へ向けて
『バルス(滅びの言葉)』を唱えてしまったんです。

万事休す…
そこで仕方なく、もう本当に進退窮まりまして

「申し訳ございません、私…お婆さんがどちらの方なのか思い出せないのです」

ってビル・クリ……いえ、ジョージ・ワシントン並みの正直さで白状しますと、
お婆さんはにこにこ笑いながら家を教えてくれまして
ああ、あそこかぁ♪それなら分かりますから
明日、母と一緒にお伺いしますって約束してお別れしたんです。

おばあさんは私の家を訪ねるところだったから手間が省けたと
今来た道を引き返していかれました。
小さくなっていく後姿を見守りながら
確かに見たことあるのですけど…
あの家…
お婆さん…
でも…あそこの家…
あんなお婆さんいたっけ?
それにどうせなら白菜持ってきてくれたら良いのに…
お婆さん、重くて持てないからかな…
ま、いっか
家に戻ったらお母さんに訊いてみよっと♪

それで
晩御飯時にお婆さんと会った話を家族にしたところ
父も母もなぜか首を傾げちゃったんです。
そんなお婆さんはあの家にいないよって…

異口同音に…

それから、病み上がりだと言っても
あんな汚い格好のまま外を出歩くなんて…
嫁入り前なんだからどんな時でも身奇麗にしてなさいって
いつ、お見合いの話が転がり込んでくるか分からないんだからと
母にお小言を貰ってしまいました。
ああもう、やぶへびですよぉ。

次の日の午後、
母と一緒に白菜の話は話半分にして、
言われた家に行ってみることにしたんです。

お婆さんから教えてもらった家へ…

ちょうど庭に出て洗濯物を取り込んでいる最中の奥さんに
お茶や生け花のお稽古事で修行を積んだ
一分の隙もない見事なご挨拶を披露しまして。

それから私から聞いたおばあさんの話を母が掻い摘んで説明。

私が見たお婆さんの背格好や特徴を補足しますと、

「それ、間違いなくお義母さんだわ…」

やっぱりこの家で正解でした。
ちょっと待ってねと奥さんが断りを入れて一度家の中に消え、
額縁に入った写真を手に戻ってきました。

「このお婆ちゃんで間違いない?」

「そうです、このお婆さんです!」

それは遺影で…私達家族がここへ引っ越してきて二年ほどで亡くなられた方でした。
越してきたばかりの私達をなにかれつけて面倒をみてくださった…
私が中学生の頃…

でも、確かに
昨日…このおばあさんと踏み切りで会ったんだよ私…
夕日の中で出会った笑顔…
生前、私へ向けてくれた優しい笑顔…
古い、忘れてしまっていた記憶が甦り
今、完全に一致しました。
ごめんなさい、
おばあさん…

せっかく訪ねてきてくれたのだからと
家の中に招じ入れられてお茶を頂くことになりました。
母と仏壇に線香あげて手を合わせたあと
奥さんと女三人で世間話…いえ、メインは奥さんと母で
延々と…
私の結婚相手いないかとか余計な話まで出て
太陽が西に傾き…残光が一条になるまで…
かしましいなんて超越してますよ!

舩坂弘(異能生存体)やシモ・ヘイヘ(白い死神)やハンス・ウルリッヒ・ルーデル(ソ連人民最大の敵)だって
同席してれば勘弁してつかあさい家に帰らせてつかぁさいと
土下座して許しを乞うレベルですよ!

それでもまぁ、
地球に自転があったお陰により
母が晩御飯の仕度しないといけないと人の世の営みを思い出してくれまして

やっとお暇することができました。

正直、ホッとしましたよ。

この家で紅白観て新年迎えるかもと半ば諦めてましたし…
それで靴を履いて玄関の土間へ下りたところ
立派な白菜が二つ新聞紙に包んだ上に紐をかけられ置いてあるのが
目に入りました。

来た時、そこにそんなものはなかったんです。

「いつの間に!?」

私も母も…この家の奥さんまでもが顔を見合わせ
それから首をかしげ…
家には私達を含めて三人しかいなかったのに…
誰が…何時の間に…
白菜を包んで置いたのか…

「お義母さんの話…信じるしかないわ…」

それで、奥さんから白菜を貰い受け、
家に帰りました。
本当に立派で美味しい白菜でした。
ちょうど
兄が奥さん子供を連れて久しぶりに帰って来たので
お鍋にしました。

父も兄も白菜を美味しい美味しいって

それで、お婆さんと白菜の話をすると
兄が軟骨の入ったつくねをぱくつきながら

「夕方に当てられる『たそがれ時』というのは暗くなって人の顔がわからなくなり
 『誰そ彼(誰ですかあなたは)』とたずねる頃合いという意味だからな、逢魔時とも言う。
 常世と現世が交わってあちらの人と遭遇しても不思議じゃない時間帯ということだ
 本当にお婆さんだったのだろう」

と、教えてくれました。

「逢魔時かぁ…たしかに、辺り一面が真っ赤に染まって
 まるで夕日の中に身を置いてるみたいだったな」

「こんな美味いものをいただいたんだ、みんなで礼を言おう」

食事の途中でしたけど、
家族全員でお婆さんに手を合わせました。

ええと、
それでなんですけど…ね…
あれからまた…
暫く経ってから…
あのお婆さんに踏み切りで
また会ったんです…
今度は

さつまいも…
二度目はちょっと…と、遠慮して行きそびれていたら
自宅に届けてくれました。

「あんまり自然に玄関から入ってきたものだから
 お茶出して暫く世間話しちゃったわよ!」

応対した母、大興奮でした。

(おしまい)

2013年10月04日(金) 00:10
こげ ◆.s16F9bY
投稿広場より掲載

 
  • 匿名

    新鮮な野菜を分けてくれる気前の良い霊だな

     
  • にゃんこ

    感謝の気持ちは大切にしなきゃですよねっ♪

    にゃんこだけでなく、…ってあたしのことじゃないですが(笑) 動物や幽霊さんでも優しさや感謝の気持ちを表すって。

    素敵な作家さんからお返事いただけるだけでもとっても嬉しいですね。

    文章から滲み出るものですよ、教養や人柄とか、とても素敵な方と思います。謙遜なさらなくても…。って、また、作品待ってますね。

    ではまた次回作で♪

     
  • こげ

    こんばんは♪にゃんこさん感想書いてくださってありがとうございます♪
    いっぱい書いてもらっちゃいました♪
    Σ( ̄□ ̄;)教養ないです全然…歴なだけなのです歴

    私の家にいたにゃんこも朝起きるとよく枕元にねずみやスズメがぴくぴくしてる状態で…
    (T_T)毎回、食べる真似して「おいしかったよ♪」って褒めながら
    十枚重ねのティッシュに包んでごめんなさいしてました。
    生活力の無い飼い主の為に獲って来るとか訊きまして…
    私ってねこたんにも心配されちゃうくらいダメな人なのかなって心配になりました。

    感想ありがとうございました。
    なんかダメなお返事でごめんなさい

     
  • 匿名

    こちらこそ失礼した。そういうことなら
    俺からは何も言えないが、投稿広場の心霊・不思議に入ってみると何か分かるかもしれない。

     
  • 匿名

    大変、失礼を致しました。
    他意や悪意ではなく、純粋に作者様だと嬉しいなぁという意味合いで、書き込み致しました。
    不快に思われた方、作者様、すいませんでした。

     
  • 匿名

    訊ねる意図を書かなければサイトにも作者にも失礼になると思うぞ
    盗作を疑っているのかと邪推されかねないし、次の人間が感想を書きづらくなる。

    俺に牛肉のサーロインあたり持ってきてくれないかなお婆ちゃん
    ほっこりした

     
  • 匿名

    このお話、別のサイトで見た記憶があるんですが…
    作者様ですか?

     
  • にゃんこ

    書き出しから、何となく男性かなと思って読んでたら、主人公は女性?!驚きました。

    凄く、教養がある方だなって、文章や使用されてる言葉にニヤリッってパニクらさせられましたよ。

    って、前置き長くなりましたが、わたしも仕事でよく、顔わかるのに、どこであったのか?わからずその場凌ぎで会話することありますので、うちにとりおいで、なんて言われたら、素直にどなたか聞き返すことができないだろうなって思ってしまいました。

    白菜やサツマイモは実在するものは、ほんと不思議ですね。きっと以前なんらかの出来事があったお礼なんかも知れませんね。

    うちはにゃんこがお土産に玄関先に鼠の死骸を置いてたことはありますが、あんまり嬉しくなかったです。

    ほのぼのほんわか雰囲気ありがとうございました。

    次回作楽しみにしています。

     

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