【怪異】丼物語り-ドンモノカタリ-②/HN:こげ

前回までの話を読む

あれからしばらく経った休日、昼飯を食おうとAさんに誘われ入った定食屋で
Aさんが乗っていた件のトラックが下取りに出された話を聞いた。
Aさんはあの事件以来、乗車拒否して別のトラックを使ってたんだとか
例のトラックは新人専用として用いられるようになり…担当になった運転手は
一週間もしないうちに老婆の幽霊が出るとの理由で辞めていくんだ、と…
まるで他人事の様にAさんは語った。
運転手以外でも深夜、トラックが停めてある駐車場周辺で
笑い狂う寝巻き姿の老婆の幽霊が夜勤の社員によって頻繁に目撃され、
酷いときには定時退社時間の午後5時からも出たそうだ。
怪異に遭遇した社員達が我慢の限界と揃ってトラックをどうにかしてくれと会社へ直訴…
普通なら一笑に付す会社運営側が…その願いをあっさりと受け入れたのだと…
なにか…上層部すら認めざるをえない決定的な何かが起こったに違いないとAさんは断言した。
結局、会社側は一切、そのことに関しては口を閉ざしたままだったという。
「ところで、なんで婆さんの死体と一緒に魚の骸も出てくると分かってたんだ?」
Aさんがカツ丼の蓋を取らず真顔で俺に質問してきた。
「曖昧になった後期高齢の婆さんが死んだとして凡人がなる幽霊に
 トラックを移動させるだけの力はありませんよ。元が凡人なんですから」
俺の頼んだしょうが焼き定食がアルバイトの女の子によって運ばれてきた。
良い香り…豚肉も良いものを使っているな。
この辺で普通に食えるとすればトウキョウXか茨城ローズポークか…
「じゃあ、何なら出来るっていうんだ?」
「井戸の神として祀られている弥都波能売神(みづはのめのかみ)ならば…」
「神様かよ!?」
日本神話に登場する弥都波能売神は淤加美神(おかみのかみ)と共に日本における代表的な水の神だ。
『古事記』に記される神産みの段において、火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)を生んだ為に
陰部を火傷し苦しむ伊耶那美(いざなみ)の流した尿から和久産巣日神(わくむすび)と共に
生まれたとしている。
「井戸の中で鯉などの魚を飼っている家がある。魚が棲める程、水が清いということで
 井の中の魚は水の神…弥都波能売神と同一視され害を与えてはならないとされています」
千切りキャベツにソースをかけるか…それとも肉で包んで食うか…
それを決めるのは味付けの濃さ…それですべての運命が決まる!
「井戸とは生活に不可欠なもので、家の中で使う水と火はそれぞれ信仰の対象となってました。
 それだけに禁忌も多く、刃物や金属類を井戸に投げ込むこと、大声を井戸に向かって発する等
 厳に戒められています。井戸を埋めるのは、その最たるものですね。
 それから井戸は異界へ通じる入り口とされてきました。
 例えば平安時代前期の文人、小野篁は井戸を通って地獄へ行く話がありますし、
 盆の前にする井戸浚いは、帰ってくる死者の道を整備する意味があります」
「なるほど、禁忌を冒した者がいるぞとの警告、婆さんと魚の救助要請、
 婆さんに殺された恨みやらが一度に爆発したとでもいうのか」
味噌汁は豆腐とわかめ…定番すぎるし面白みも無い…
「たぶん、そんなところでしょう。
 家も住人も無くなり、井戸だけが残り…水の神は存在を忘れられ…
 信仰も、毎年行われたはずの神事も途絶え、調律の狂った神さびが出来上がりました…
 百鬼夜行に登場する人に禍をもたらす付喪神みたいなものでしょうか…
 欠けたまま放置された茶碗、片一方だけ残った箸、廃屋の壁に掛けられた面などが
 長い年月を掛けて変生するように…」
「落ちてきた婆さんは死んだのだから怨みは向けようもないんじゃないのか?」
飯は新米か…つやがいいな。漬物は自家製だな…発色にわざとらしさがない…
これ以上、話を長引かせたらせっかくの飯が冷めてしまう。
「即死ではなかったのでしょう…落ちてからしばらく息があり
 亡くなるまで曖昧と正気の境を繰り返し行き来して、哄笑と泣き言を聞きながら
 鯉は怨みを増大させられたのでしょう。
 結果、見つけて欲しい、助けて欲しいと願った老婆と、彼女が頼ったものへ向けられた。
 しかし、井戸の中では怨みを象る対象物がない。
 それで、老婆の姿を借りた。
 不幸は老婆も神さびも曖昧ですでに狂っていたこと…
 トラックが怨みを受ける対象となり、長く残ってしまう事になったのかもしれません」
話はひとまずそこで終わらせて飯を食うことにした。
箸袋から柾目美しい杉の天削七寸をすらりと抜き放つ俺の対面で、
Aさんがどんぶりの蓋を取った。
その時、
甲高い何者かの笑い声が店中に響き渡る。
店員や客が驚いて周囲を見回した。
カッカッカッという硬質な木材を木材とで叩き合わせたような…
Aさんが驚いて手に持ったどんぶりをテーブルの上に放り出し
汁を吸ったとんかつや飯がぶちまけられた。
なぜAさんがそんなことをしたのか…
哄笑は転がる空のどんぶりから聞こえてきたのだ。
老婆の笑い声が…
「終わってなかったのか!?」
震え上がるAさん…
「丼…」
『丼』という文字の由来…丼(たん)は井(せい)の本字で、字面から井戸の中に物を投げ込んだ
音をあらわす字として用いられた。
それが擬音語の『どんぶり』に当てられ、さらに『どんぶり鉢』を表すようになったと言う。
『井』の底で横たわる老婆…『丼』に見立て…繋がった…か…
トラックだけでなく…Aさんにも井戸神の怨みは降りかかっていたのだな。
店を出た俺はAさんを連れて最寄の神社へ向かった。

(了)

2013年11月10日(日) 02:07
こげ ◆.s16F9bY
投稿広場より掲載

 
  • 匿名

    次回作は、簡潔でウンチク披露は少なめ、主菜(怖い部分)大盛りでお願いします。

     
  • こげ

    【1670】天通の七不思議様
    語シリーズ♪お名前付けてくださってありがとうございます♪
    なんとか御期待に沿えるように頑張ります♪
    ありがとうございました

     
  • こげ

    【1671】天通の七不思議様
    一番好きって言ってくださりましてありがとうございます♪
    仰る通り、Aさんの年齢を書きませんでしたが年上の人から頼られる人間ということで、
    少ない機会で主人公が特殊能力を用いず雑多な知識のみで怪異に立ち向かうということを
    出したかったのです。
    本当に文章長いですね(TT)できるだけ短くしたいのですが…
    応援ありがとうございます♪

    【1673】天通の七不思議様
    ありがとうございます♪全部当たりです。
    検索かけて、それを咀嚼して文章を仕立て上げてます。でっち上げ?
    元ネタからお話を組み立てていく中で、この辺は自由になるなぁというところに色々と
    手を加えたりしてて…全部バレバレですね♪
    その分、お話が長くなっちゃう訳で…でももっと短くしないととか思ってたり
    無駄ぱっかり多くてごめんなさい
    それから嬉しいお言葉をたくさんありがとうございます♪

    【1676】天通の七不思議様
    私もそう思います。あ、でも私は師匠シリーズ好きですw漫画化されるそうですよね
    楽しみだったり
    ありがとうございます♪

    皆様、お話途中で割り込んでしまいまして申し訳ございませんでした。
    ごめんなさい

     
  • こげ

    管理人様、お忙しい中、無理なお願いをして申し訳ございませんでした。
    早速の御対応、ありがとうございます。
    本掲載していただけたこと、重ねて御礼申し上げます。

     
  • 匿名

    ワルキューレといえば地獄の黙示録って発想でwいっぱいはやしまくるのが一番恥ずかしいよ。ね、こげさん!

     
  • 匿名

    地獄の黙示録で初めてワルキューレの騎行知った人が何か喚いてるw…こ怖いw

     
  • 匿名

    確かに賛否あっていいよ。嫌いなもの好きになれって無理あるもんね。師匠シリーズも俺嫌いだし。

     
  • 匿名

    こげさんのハンネを見ただけでスルーしているものです。皆さんのコメントを読んで苦手ながら作品を読んでみました。
    やはり、クラッシック音楽のくだり、箸のくだり、作品にとっては不要な知識の披露全開には苛つきますし、肝心な話までの展開が長すぎて飽きてしまいました。文章力、表現力は、抜群だと思いますが、文章の端々に、どこかしら読み手を小馬鹿にしている感が漂っているのが、はなにつきます。

    どうせ、利休箸とか知らねぇだろ?的な……。

    たまに出てくるユーモラスな表現も、小難しいことばっかじゃなくて、どうよ、この面白文章。ウケるべ?的な……。な~んか人を見下してる感満載なのが目障りです。

    別に賛否あってもいいでしょ?

    ここで触れたので他のこげさんの作品のコメント欄では書きませんよ。もう読まないし。

     
  • 匿名

    ちょw作者のこと叩いて、自分もクラシックが好きとかアピールしてるのいるけど
    ワーグナーのワルキューレが最高ってw
    どんだけ俄かだよwww
    クラシック好きならワルキューレとか普通恥ずかしくて言わねーよw
    地獄の黙示録だろwww
    クラシックに精通アピールってwカノンなんかそこら中で流れてるし、知ってても誰もすげえとか言わねーからw
    自分の無知がスルーできないくらい気に障ったみたいだな

     

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