【怪異】丼物語り-ドンモノカタリ-/HN:こげ

丼物語り-ドンモノカタリ-/HN:こげ

知り合いのAさんは某企業の配送業務担当で、東京の顧客を主な配達先としている。
ある週末、理由は忘れたが都内は厳重な交通規制が布かれた所為で渋滞が起きて
納品を終えての帰り道…最寄のICで常磐道を下りた時には午後十時を過ぎていたそうだ。
市街地を走っている間は良かったが、
国道から外れると、車の通りは途絶え、明かりも無く周囲は暗闇…
Aさん以外で道行く車は本気で無くなってしまった。
長時間の運転で疲れが出た為か、会社へ戻る時に必ず曲がる交差点を気付かず通り過ぎてしまう。
Uターンしようにもトラックでは無理な道幅…
かなり遠回りとなるが…そのまま直進して迂回路を使い、会社へ戻ることにした。
道幅が極端に狭くなり、両脇には背の高いブロック塀が並ぶ見通しの良くない集落の中を進む。
対向車が今、出て来たらアウトだな…祈りながらAさんは慎重にトラックを走らせる。
ブロック塀の並びが途切れて集落の外れまで来た。
トラックは竹林の中を進む。
煌々とした月明かり、竹林の枯れ葉が薄く積もった路面を青白く照らしている。
「夜の竹林って…なんだか不気味だな」
不安から口に出してしまったAさんの耳に入ってきたのは
カッカッカッカという木を硬い物で強く叩きつけるような音…
運転中であるAさんの耳へ鮮明に届いた。
真後ろから…何も積んでいない筈の荷台から…
気になった、というより責任感からAさんは車を停め…下りた。
木を叩くような音は車外へ出てもAさんの耳に聞こえている。
後ろから…高い位置から…トラックの荷台から
しかし、よく聞いてみれば…あれは木を叩く音ではなかった…
笑い声…
誰かが立てる甲高い笑い声…
恐る恐る振り向けば…
好奇心からでもなく
これ以上怖いことにならない為に
恐る恐る振り向けば…
背を弓形に反らして哄笑する…
浴衣を着た一人の老婆…
青白い月光に照らされたトラックの荷台の上…
「ヤバいなんてもんじゃねえぞアレは!!」
トラックを守る責任を放棄し、Aさんは今来た道を走って
竹林から一番近くにある民家へ逃げ込んだ。
笑い声はAさんの後を追ってきたという。
必死で玄関の呼び鈴を押し、出てきた家人に
今、体験したばかりのことを説明しようとしたが…説明する必要は無かった。
門の外から聞こえてくる哄笑を家人達も認め、Aさんを慌てて家の中へ入れてくれた。
「ここらはハァ昔から狐狸狢とがタチがよぐねぇのが出る噂があったがんなぁハァ
 まぁ、朝になるまで家ん中にいれば安心だがら」
その民家で一晩泊めてもらうことになったAさんに今年、95歳を迎えるご隠居さんが
眠れるようにと酒が入った湯呑みを手渡し、教えてくれたそうだ。
笑い声は…家の外で明け方まで続いた。


土曜日…休日で絶対に昼まで寝てる筈だった早朝…
携帯が大音量で『ニュルンベルクのマイスタージンガーより第一幕への前奏曲』を奏で
俺は夢の世界から叩き出された。
なんで休日の早朝に電話してくるような奴からの着信音にド派手なワーグナーを設定したんだ俺…
深酒して頭が痛いし…眠り足りなくて目がショボショボするし…
手に取った携帯で相手がAさんであることを確認…
「Aさんからの着信音はパッヘルベルのカノンかカッチーニのアヴェ・マリアにしよう」
あんたにはガッカリだよと通話ボタンを押せば…
寝ていた俺への気遣い遠慮一切無し、
大興奮の大音声で昨晩起こった恐怖体験を一方的に喚き散らしてくれた。
「俺が幽霊とかオカルト大好きなのを知ってわざわざ早朝に連絡ありがとう」
礼を言って通話を切ろうとすると、Aさんは慌てて呼びとめ…
恐いからトラックを取りに行くの付き合ってくれ…と懇願してきた。
俺は心霊スポット探検を趣味とし、知人の幽霊関係な相談に乗ってやったりしている。
以前、Aさんの知り合いを視てやったこともあり、頼ってきたのだ。
とは言っても所詮、素人だからな…本格的なものへの対処となると俺では無理だ。
「太陽は顔を出しているし大丈夫だ。泊めてもらった家の人に随伴頼んでもらってください。
 では、良い週末を!!」
今度こそ通話を切って昼まで起きるものかと誓い、枕を手繰り寄せると…
Aさん…泣きを入れてきた…
他人の家で情けない…
それでも嫌だと断ると
来てくれないと俺の名前を呼びながら捨てないでって号泣する…と自爆覚悟の脅迫してきやがった。
せっかくの休日なのに…渋々、俺は布団を抜け出し…
シャワー、朝食、トイレを済ませてAさんが待っているという民家へ向かった。
50分…
Aさんが匿われているとか言う集落へ行くまで50分も掛かった…
土曜日なのに…昨夜は残業で午前様で一人で飲んでたら深酒して現在二日酔い中だっつぅのに…
貴重な休日を…
電話で教えて貰った家まで行ってAさんを回収、
本来なら俺が言う必要などどこにもない礼を家人に述べて、トラックを置き去りにした場所へ向かう。
親切心からなのか物見遊山の好奇心からなのか
Aさんを泊めてくれた家の人達…ご隠居さんまで…家族総出でご一緒してくれることになり…
俺達は水戸黄門御一行様より多い人数でぞろぞろと家の敷地を出た。
落ち葉が積もる道路を進むと、
Aさんのトラックはすぐ見えてきた。
道を塞ぐ様に車体の横側を見せて止まっている。
「あれ!?」
Aさんが首を傾げた。
「道路に止めたまま乗り捨ててきたトラックの向きが変わってる…」
どういう事だ?
「はぁ?~だいだっぺよぉ~ほんたなとめがだしておめはなにやってんであよぉ!?」
ご隠居さんがトラックの有様を見て怒りだした。
北関東特有の尻上がりで翻訳を必要とする見事な方言。
だめじゃないか、そのような止め方をして何を考えているのですか…と言ってるのだろう。
あんな非常識な止め方をされたら怒るのはもっともだし
道を外れて竹林の中にまでトラックが立派な竹を何本も薙ぎ倒して突っ込んでいるのではな…
「違う!確かに俺は道の上に停めた!」
「んなごど言われだっでこうなっちゃっちゃってんじゃ言い訳でぎめ、あよ!?」
ネイティブな生きた方言は今日ではなかなか聞くことなどできない。
そんな事を言われてもこういう様になってるのでは言い訳できないであろう…と、言ってるのだろう。
昨夜、Aさんと一緒に聞いた老婆の笑い声の記憶など、どこかへ飛んで行ってしまったようだ。
Aさんは道路に停めたと連呼するだけ…ご隠居さんはあよあよ言うだけ…
彼らから得られる情報はこれ以上、期待できまい…
俺は…彼等の会話には口を挟まず、現場検証を開始した。
道路に対してほぼ90度、竹林に頭を突っ込んだ状態で止まるトラック…
ハンドルを何度も切り返ししながら方向転換…それは無理だな。
道幅よりも車体が長いのだから竹林の地面にそのようなタイヤ痕が残っている筈…
それが無い…この状況を作るとするなら大型のクレーンでも使わなければ不可能だ。
クレーンをここへ持ってくるのだって一苦労…
ならば…これは人間技ではない…
いくら考えても納得のいくトラックの移動方法を合理的に導き出すのは無理…
では、どうしてこういう形でトラックが止まっていなければならないのか…だ。
心霊、怪談系の本は今までに何十冊も読んだ。
その中に類似した話がいくつもある…
それを踏まえて、あちらの意図を考えてみることにしよう。

1.示威行動
2.この先へ進ませない為
3.トラックの向きが何かを伝える為のものである
4.意味はなし、単なる愉快犯の類

今回に限って『4』は無いな…Aさんから聞いた話から考えると…
Aさんに対して逃げた先まで追ってきた上に、彼のトラックの向きを変えている…
Aさんが戻ってきた時の為にメッセージを残したと考えるのが妥当…だよな。
『2』も無い。トラックが壊れているわけではない。
Aさんは自力で車の向きを変えて移動することが可能だ。
よって、この先へ進ませない為ということでは無い。
『1』の示威行動は己の実力や主張、意思、活動の勢いなどを他に示す…
Aさんを対象とするのであれば…偶然に通りかかった相手にする行動ではない…
などと消去法を用いるまでもなく、これって怪談によくあるパターンだよな?
車が停めたはずの場所に無い…運転者本人が知らない間に移動されている…
ということは…この車を停めた位置がなんらかのメッセージになっていると考えるのがセオリー
俺は竹林の中へ突っ込んでいるトラックの運転席側…
トラックの前方へまわった。
すると、幾本もの竹をなぎ倒した割りに傷ひとつ無い綺麗なトラックの鼻先に…
竹を編んだもので蓋がしてある井戸があった。
蓋は半分ずれている。

そういうことか…
怪談はこれで終わりだ。
そして、現実…面倒臭い話に移行する事になった訳だな…
休日が台無しになる…

丼か…

俺は井戸の前に一同を集めて言った。
「この井戸の底に出来立ての死体がある…老婆と魚の」
俺を見る全員がぽかーんとした表情をしたあと、苦笑いに転じた。
「またまたぁ」
ここの竹林は元々民家があったのだが住む人がいなくなり、家を壊して更地にしたあと
竹が生えるに任せていたそうだ。
それで井戸だけが残った。
井戸は一度、掘ったら埋めることは出来ないからな。
そして、この井戸水は今も澄み、十分な量を湛えているということ…
そこへまるで予定調和のように…
町内の各所に設置されたスピーカーから女性の声で
この場所から2kmほど離れた所にある特別養護老人ホームで
昨晩から87歳の老婦人が姿を消したので見つけた方は連絡して欲しいとの放送が入った。
Aさんがトラックに備え付けられた懐中電灯を慌てて持ち出し
蓋をどかして井戸の中を照らしてみれば
底で横たわって動かない寝巻き姿の人を発見…集落をあげて大騒ぎとなった。
パトカーやら救急車やら消防車が駆けつけ、近隣の住民が野次馬となって押し寄せた。
引き上げられた老婆の下には体長80cmを越す鯉の死骸があった。
落ちてきた老婆に押しつぶされて死んだものと見られる。
底に溜まっていた水がそれほど多くなく逃げられなかったようだ。
現場にいた全員が警察から事情聴取を受ける羽目になった。
もちろん俺も…
その後、トラックをAさんが勤める会社まで戻すのも付き合い…
疲労困憊で帰宅した時、
太陽は切ないほど西に傾いてた。

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