【不思議】心の声/HN:ニョロ

心の声/HN:ニョロ

前にも話したが、俺の実家は地方で老舗旅館を営んでおり、高校を卒業するまでの約18年間、家族や従業員たちとそこで仲良く(笑)暮らしていた。

言うまでもなく、旅館には様々な人間が泊まりに来る。893の親分さんが、子分を大勢引き連れて宿泊する事もある。

予約の時点では名字か会社名しか名乗らないから、超能力者でも無い限り、入れ墨の有無なんざ判りようが無いのである。

その筋の人間だと判明するのは大抵夕方。他の宿泊客の目撃証言による事が多い。

「ここの風呂は、龍がいて恐いねえ」

そんな時、女将である母親(現在会長)は、即座に部屋に赴き交渉を開始するのだ。

「お客様、本日は当館のご利用、誠にありがとうございます。ただ、大変申し上げ難いのですが、お身体に描かれた絵、これはもう、一般のお客様にとりましては恐怖以外の何物でもございませんで(微笑)。

やはり私どもと致しましては到底見過ごす訳には…、で、ひとつご提案でございますが…」

多分こんな感じで、逆鱗に触れぬよう気を配りながら、夜間大浴場を一時間貸し切りにしたり、朝食も別会場を設けたりして、他の宿泊客との接点を極力無くすよう最大限努力するのだ。

「当館は入れ墨お断りです。お聞き入れ頂けないようでしたらやむを得ません、警察に通報致します」なんて事、当事者にしてみたらとてもじゃないが口には出せないのである。

別の意味で難しいのが身障者のお客様。いつだったか、黒川温泉の某ホテルがハンセン氏病患者の宿泊を断って物議を醸した事がある。これもまた、施設側からしたら少々やっかいな問題なのだ。

これは俺がまだ小6だった頃の話。

少し肌寒かったから季節は秋だったと思う。学校から帰った俺は何かの用事で母親を探していた。館内をうろついていると、うちの浴衣を着た女性が乳母車を押しているのが見えた。

俺は赤ん坊になど興味なかったから普通に通り過ぎようとしたんだが、ふと何の気なしに乳母車の中を覗いてしまったんだ。

「……」

ぎょっとした。開口部一杯に禿げたおっさんの顔があったから(通常の大人の倍近い大きさ)。

子供とはいえサービス業界に身を置く身。ジロジロ見ちゃ失礼だと思い、すぐに視線を外しその場から離れたんだが、あの一瞬は間違いなく、夜道でいきなり落武者にでも遭遇したかのような顔をしたに違いない。

今ほど人権人権うるさくなかった時代。お断りしてもさほど問題にはならなかったと思われるが、うちは基本、身障者の宿泊を(表向きは)快く受け入れていた。

ヤ○ザ屋さんと同じで、風呂を貸し切りにしたり、食事を個室にしたりして何とか対処していたのである。そしてそれが、相手方には大変喜ばれていた。

しかし、今じゃそうやって区別する事自体差別だと訴えられてしまう。前述した厄介な問題とは、つまり、そういう事だ。

その晩何故か俺は、親にも兄弟にも乳母車の主(ぬし)について話さなかった。今にして思えば、錯覚で済まそうとしていたのかも知れない(笑)。

避けようと意識すればするほどバッタリ出くわすなんて事がよくある。

翌朝、いつもより早くランドセルを背負って家を出た俺だが、あろうことか前方から、おそらく散歩の帰りであろう例の乳母車が近付いて来たのだ。

狭い歩道だったから、あからさまに引き返すのは不自然な気がした。やむ無く、目を合わせないように視線を落としやり過ごそうとする。

視界の端に乳母車が入った時だった。

「驚かせてごめん」

小さな男の子の声がしたのだ。

思わず振り向く。既に乳母車は女性の背中に半分隠れていた。声を聞いた時、咄嗟に頭に浮かんだ言葉を俺は忘れない。

ばれてた…

その日の夜、さすがに黙っていられなくて母親にその事を話した。驚いた。おっさんだとばかり思っていたのにまだ十歳だというのだ。

「可哀想よねえ。命も、もってあと二年だそうよ。会話は出来ない筈。多分、その声は心の声が届いたのね。健ちゃん(俺)も心の中で謝っときなさい。通じたんだからきっと通じるわよ」

「……」

言葉なんか話せなくたって人間には心ってもんがある―その日から、徐々にではあるが俺の身障者を見る目が変わっていった。

一見知能が劣っているように見える人でも、心は正常で表現が出来ないだけなのかも知れない。

五体満足の俺なんかよりも遥かに物事の本質を見抜いているかも知れない。

もしも魂というものがあるならば、彼らは普通の何倍も速く進化しているかも知れない。

現在、俺はその考えを否定出来ないでいる。

性格までねじまがった身障者も中にはいるけどね…

この文章を読んで身障者を憐れんだ上から目線だとお怒りになる方がいらっしゃるかも知れない。本当に考えが変わったのはごく近い親戚に身障者が出てからだという事を一言付け加えておきたい。

最後まで読んでくれて有り難う。

2013年11月19日(火) 05:27
ニョロ ◆-
投稿広場より掲載

 
  • 匿名

    おにさん、コメントありがとうございます。例の、○し語りのサイトですか?(笑)見てみます。昨晩はボクシングやらフィギュアやらがあって全く書けなかった。今起きたので出社まで頑張ろうと思います。
    ○○に記憶力が鮫並みとか言ってたら(笑)、ふと思い付いた話なんですが、つまらないような気も…(泣)

     
  • 匿名

    久々に暴れてしまった…。林胡雨さん、カワカ・ミンスのお陰で話が書けそうです(笑)。今日中に投下できるかな?

     
  • ニョロ

    確かにね、演じるのも疲れます…てえ事でひとつ投下しましょうかね。演じるばかりで何も投稿しないよりマシでしょ?さあてと、、、何も浮かばない…(泣)
    ↓フォロー申し訳ないです。

     
  • 匿名

    ニョロさんて不思議な人。何か気になる。

     

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