【怪談】火葬場と女の子/HN:ロビンM

火葬場と女の子/HN:ロビンM


「ほんまは他に女がいるんやろ?」

「なんでやねん!そんなわけないやろ。俺はもうお前と別れたいだけや…!」

もう一昔前の話になるが、先ほどから降り出した雨がフロントガラスを打ちつける車の中で俺たちは別れ話をしていた。

時間は夜10時を回っていただろうか。彼女が運転する横で別れ話を切り出した俺は、3年間に及ぶ彼女との思い出にふけって黙りこんでいた。

彼女を見ると微かに肩を震わせている。泣いているのだろうか? 相手が男だろうが年上だろうが、ましてやヤ◯ザだろうが、平気で言いたい事を言ってのけるほど気の強い彼女が、今、目の前で肩を震わせている。

初めて見る彼女の涙に少し面食らいながらも、俺の気持ちは決して揺らぐ事はなかった。

そして車は走りなれた国道◯号線をあてもなく市内に向かって北上していたが、沈黙の中彼女が鼻をすすりながら、トイレに行きたいと言った。

ロ「じゃあこの先のコンビニでも行くか?」

「ううん、コッチでいい…」

彼女は何を思ったのか、橋の手前の交差点を右折して山道へと続く坂を登り始めた。

その道は昼間でこそトラックや地元民の抜け道としてそこそこ交通量もあるが、夜ともなると殆ど車どころか人も通らない寂しい山道である。街頭もポツポツとあるだけで、両側は山で囲まれており、砕石場や資材置き場などがある程度だ。

勿論コンビニもないし、駅も民家すらもない。

ロ「おい、こんなとこ上がってってもトイレなんかないやろ?」
         
「大丈夫…」

車は5分ほど雨に濡れたくねくね道を走っていたが、あるカーブにさしかかった所で止まった。そのカーブは少し広くなっていて、車3台ぐらいは止まれそうな路肩になっている。

俺は仕事柄その場所をよく車で通る為、その路肩に随分前から白いワンボックスの廃車が捨てられている事を知っていた。やはりその時もその車は停まっており、暗い街頭にボンヤリと白い姿が浮かび上がっていた。

車の裏手はフェンスで覆われていて山になっているが、昔は人1人が通れるぐらいの道があったらしい。しかし今ではなにかしらの理由で封鎖されていると後に知り合いから聞いた。

廃ワンボックスの斜め後ろあたりに車を止めた彼女は、しばらくボンヤリとその廃車を眺めていたが、視線はそのままに

「ちょっとオシッコしてくるね」と言い、車を降りて雨の降る中その廃車の方に近づいて行った。

ロ「いくら人がいないからって女のくせに立ちションかよ~」と呆れながら彼女を目で追っていると、廃車の後ろまで行った所で一瞬躊躇したように立ち止まりチラッとこちらの方を見ていた。

10秒ほどこちらを見ていただろうか。意を決したかのように、彼女は廃車とフェンスの隙間に姿を消した。

彼女の姿が車に隠れて見えなくなってからほんの数秒、多分5.6秒ぐらいかな? 彼女が消えたあたりからスッと人影が出てきた。

彼女か? 雨が降ってる上に薄暗い。俺は目を凝らしてその動く人影をよく見た。彼女じゃない。小さすぎる…

多分幼稚園、もしくは小学校低学年くらいの女の子…街頭との逆光で顔はよくわからないが、明らかに幼い女の子がこちらに向かって歩いてきている。

俺は何が起きたのかよく分からずに呆然と目で追っていた。

ガチャ! 運転席のドアが開いた。

ロ「うわっ」

情けない声を出してしまった俺の目に映ったのは… 彼女だった。

「えっ?」

確かに今し方、幼い女の子がこっちに向かって歩いてきていたはずだ。俺は確かに見ていた。

近づいてくるにつれはっきりしてくる姿、おかっぱの髪型で半袖のシャツにスカート姿の女の子… あのタイミングからしてこのドアを開けられるのはその女の子しかいないはずだ! 見間違いか?

声も出せずにそんな事を考えている俺に向かって彼女はにこやかに微笑んでいる。先ほどの涙は雨が洗い流してくれたのか、彼女の顔には悲しみの欠片もないように見えた。しかしその時彼女の笑顔に?なにか違和感をおぼえた。何だろう?

運転席に乗り込んでからもにこやかに俺の顔を眺めている彼女。室内灯が消え始めた時に分かった。焦点だ…目の焦点が全く合っていないんだ。顔は俺に向けているのだが、いわゆるロ◯パリというやつか? 左右の目が俺を見ていないんだ。

しかしそんな事よりも、先程の女の子の事の方が気になる。俺はもう一度先ほどの廃車へと視線を移し考え込んだ。さっきのは一体なんだったんだ? 目の錯覚なのか? 俺は自分の中で納得の行く答えを必死で探していた。

車内には回しっぱなしのワイパーと、より激しさを増した雨のフロントガラスを叩く音だけが喧しく響いている。納得した答えの出ないまま彼女に視線を戻すと、ハンドルを両手で握りしめて前方を見ながらニヤニヤしている彼女がいた。

ロ「オシッコするん止めたんか? さすがにこの場所は気持ち悪いやろ~ 戻ってコンビニいこか?」

「……」

ロ「なぁ、聞こえてるんやろ? はよ戻ろうや!」

「‥‥‥」

彼女は何を話しかけても一切答えずに、前を見ながらただニタニタと笑っている。俺はだんだんイライラしてきて、強い口調で

ロ「おい無視すんなや!からかってるんか!早よ車動かせや!!」

と怒鳴った途端、彼女は無言で車を発進させた。しかし元来た道ではなく直進、つまり更に山を上がって走り出した。

俺はその時、無視された事で腹が立っていたからなのか不思議と恐怖は感じていなかった。

薄暗い山道を走り続ける車の周りはおろか、対向車すらもなく、長い間隔を開けた街灯だけが路面を照らしており、彼女は相変わらずニタニタと怪しい笑みを浮かべたまま無言で運転を続けている。

俺はあの後も何度か話しかけたのだが、全て無視された事でふてくされて窓の外を見ていた。

しばらくしてだんだん減速してきた事に気づいて彼女を見てみると、先ほどの笑みはなく怒りに満ちたような顔で、ブツブツ… ブツブツ…何かを呟いているように見えた。

すると車は突然左折して、狭い道へと入って行った。その道は車がすれ違うのがやっとなぐらいの狭い道で、先ほどまであった街頭などはなく、ヘッドライト以外の灯りが全く無い暗黒の闇に包まれていた。

しかし俺は見た。曲がる時に一瞬ライトに照らされた小さな看板。

『◯◯斉場 この先500m』

この先に抜け道は無い。突き当たりには墓場と火葬場しかないんだ。

俺はこの時初めて気付いた。今ってもしかしてかなりヤバイ状況なんかな? そう感じたとたん、急にゾワゾワゾワゾワっと恐怖にかられて、

ロ「おい!お前マジか!これどこ向かってんねん!ヤバいって!はよ引き返えせや!」

と彼女に叫んだ。が… やはり無視。

するとまた彼女は不気味な笑みを浮かべて、首を縦に振ったり横に振ったりと変な動きをし出した。

ロ「もう人生終わった…」

と思ったのだが、人間極限まで追い詰められると不思議なもので、兎に角コイツを大人しくさせて、俺が運転して逃げなければいけないと冷静に考えているもう一人の自分がいた。

そこから彼女との熾烈な時間無制限の一本勝負が始まった。

まず最初にしなければいけないのはとりあえず車を止める事だ。AT車なので助手席からでも止められるはずだ。シフトレバーをDからNに入れて、サイドブレーキを思いっきり引いた。

キィーー!! と車が急停止する。その瞬間ハンドルに頭を打ちつけた彼女が

『ギャーー!! 』

と悲鳴とも絶叫ともつかない声をあげた。

俺を睨みつけた彼女の顔は彼女のようで彼女じゃないように見えた。彼女の左手がシフトレバーを掴む。再びDに入れられた車はまたフラフラと走りだした。

俺はもう一度止めようと両手で彼女の左手ごと掴み、再びNへ… のつもりだったのだが、全く動かない。 ビクともしない。凄い力!!

俺は自慢じゃないが、高校一年の時にクラスで二番目に腕相撲が強かったはずだ。力には多少自信があったのだが、女に、ましてや相手は左手一本、俺は両手!全く動かない!?

俺は前のダッシュボードに両足を着けて、思いっきり踏ん張りながら全ての力を使ってNの方へとグイグイ押し続けた。

『全宇宙のみんな、オラにほんの少しだけ気を分けてくれ!』

そんな事を考えていたような考えていなかったような… その時フッと彼女の力が少し緩んだ。

ロ「よし! 今だ!」

Nに入れた後再びサイドブレーキを引く!

キィーー!! 車が止まった。

ブイーーン! ブイーーン! ブイーーン ! ブイーーン!ブイーーン!

車は止まったが、高回転するエンジン音だけがけたたましく鳴り響いた。彼女は体をむちゃくちゃに振りながらアクセルを踏み続けているようだった。

『焼かれてん!おばあちゃんが!焼かれてん!おばあちゃんが!焼かれてん!おばあちゃんが!焼かれてん!おばあちゃん!おばあちゃん!おばあちゃーーん!!』

彼女は天井を見上げながらそう叫び続けた。その声はすでに彼女のものではなかった…

俺は自分で霊感はないと思っているのでなんの根拠もないのだが、今車を降りれば何者かに取り囲まれている!ただではすまない!という気持ちにかられていた。ヘッドライト以外に全く灯りのない異様な空間がそう思わせたのかもしれないが。

俺は子供のような声で泣き叫び大暴れしている彼女を、とりあえず後部座席へ移す事にした。

『俺にできるか?』

冷静な自分がいる。一瞬考えたがやるしかない!

まず俺が後部座席に行って後ろからヘッドロックをきめ、後部座席に引きずり込む作戦を考えた。まず自分が… ヤバい下半身に力が…恥ずかしながら腰が抜けてしまっているようだ(照)

アチコチに体をぶつけながら時間をかけてやっと後ろへ移動完了。彼女はブンブン手を振り回しながらまだ発狂して泣き叫んでいる。

ロ「はぁ~俺が泣きたいよ…」

そこから予定通りヘッドロックを決めて後ろへ引っ張る! 案の定、物凄い力で抵抗してくる。しかし先ほどよりは大した事ないようだ。

そこからは無我夢中だった。ふと気づいたら2人後部座席で揉みあっていた。

『あれ?ここまでの記憶が無い… 俺一瞬気絶したんかな?』

まぁいい後から考えよう。すると彼女は俺の手をすり抜けあろう事か、

『バーーン!!』

ドアを開けたのだ。

ロ「ヤバいヤバいヤバ~い!」

俺はすぐさま彼女を捕まえてドアを閉めた! 喉大丈夫か?ってぐらい叫び続ける彼女らしき女。隙をつかれてまたドアを開けられてしまった。

もう外は本当に真っ暗闇でなんにも見えない…墨を塗ったような黒。いま出たら必ず何かいるという確信が俺にはあった。慌ててドアを閉める。

その繰り返しが何回も続いた。もう必死で回数までは覚えていないが…

そして俺は恥ずかしながらとうとう泣いてしまっていた。泣きながら叫んでいた。何回も 何回も 何回も

ロ「助けてください! 許して下さい! お願いします!お願いします! 助けてください!許してください!勘弁してください!」

何回も何回も何回も繰り返し、彼女を抑えつけながら闇に向かって叫び続けた…

ふと気付くと彼女の叫び声が消えていた。グッタリとして落ち着いているようだった。

『今だ!! 』

ここがチャンスと必死で運転席に移ろうとするが、足がもつれて中々いうことをきいてくれない。それでもなんとか必死にたどり着いて、ギアをバックに入れる。もうこれ以上1ミリも前には進みたくなかった。

後ろを振り返ると光るバックランプに道路がぼんやりと映しだされている。そこに立っていた。

2人…

首から上までは光が届かず見えなかったが、間違いなくさっき見た女の子…間違いない 同じ服だ。隣りには白い着物のようなものを着たおばあさんらしき姿。手を繋いでジッと立っている。

ロ「わーーーー!!」

俺は叫びながらアクセルを踏んだ!

俺は必死でバックした。かなりフラついていただろう。ぶつけたり溝にはまらなかったのは奇跡としか言いようがない。

2人を轢いてしまったかもしれない…当たる寸前で消えたような気もする。

兎に角俺は、無我夢中で山を降り、最寄りの駅を目指して車を走らせた。その道中は何も変わった事は起こらず、後部座席の彼女も大人しく眠っているようだった。

ようやく◯◯駅に着いた時には終電も出た後だった。しかし駅の照明と向かいのコンビニの明かり、駅前でタムロっている何人かのDQN達が俺に安心感を与えてくれた。

ロ「もう大丈夫だ…」

「何が?」

ビクっとして振り返ると、彼女がキョトンとした顔で俺を見つめていた。いつもの彼女の顔だ。声も…多分彼女のものだと思う…

ロ「えっ? もしかして何にも覚えてへんの?」

「何が~?」

ロ「う、嘘やろ~?」

「ていうか、なんか腕とかめっちゃ痛いねんけど! あんた私になんかしたやろ?!」

ロ「……えっ?」

「あっそうそう!なんか私変な夢見とってんけど!」

ロ「ど、どんな夢?」

「それがほんま変な夢でさぁ…

周りが凄い火事みたいに燃えてて、熱くはないねんけど凄く息ぐるしくて、逃げたいけど全然動かれへんねん! そしたらなんか女の子みたいな声が聞こえて来て、おばーちゃーん!おばーちゃーん!って泣き叫んでるんよ。

そしたら私なんか凄く悲しくなってきてずっと泣いててん…」

ロ「………」

「ちょっとあんた、私の話聞いてんの?! ほんまに怖い夢やってんから!」

ロ「………」

気付くとすっかり雨はあがったようで、綺麗な星空が顔を覗かせていた。

【了】

後日談的な話を一つ。

その後、例の彼女は3日間に渡って同じ夢を見てしまった。炎の中で女の子がおばあちゃんと叫び続ける夢。

俺から聞いた話とその夢のせいで、彼女も参ってしまったようで、知り合いを通じて、その筋ではかなりの力を持っている霊能者的な人に視てもらったそうだ。

するとやはり女の子… 8歳の女の子がみえたと云う。しかしながら全然悪意は無く、どちらかといえば感謝されていると。

女の子は話に出てきた霊園に眠るおばあちゃんに会いたかったそうで、彼女に取り憑いて思いを果たそうとしたらしい。

多分女の子の願いは叶ったと思う。俺がバックランプ越しに見た2人の姿… シッカリと手を繋いでいたから。

霊能者は言ったそうだ。感情が乱れていたり、泣いていたりしている時は特別憑依されやすいから気をつけてと…

それともう一つ。

廃車のワンボックスがとまってた場所の封鎖された道の話。

そこは歩行者道路のような道で、山登りやハイキングなどに使ったりする道だったそうだ。が…もう一つ、例の火葬場と霊園にまで繋がってる道でもあったそうである。

しかしある時からその道で、首吊りや焼身自殺する事件が相次いだ為、封鎖という事になった。

夜は絶対に近づいてはいけない場所… 俺は地元にも拘わらず全く知らなかった。

すでに白いワンボックスカーは撤去されているが、それ以来昼間でもそのカーブを通る時そちらを直視する事ができなくなった。

俺は実質、これが初めての不思議体験だった。これが霊の仕業であると断言は出来ない。

しかし世の中には俺の知らない世界が確実に存在すると痛感した一日だった事は間違いない…

※ (セリフが関西弁なのは気にしないでくれ)

2013年12月16日(月) 21:30
ロビンM ◆eBcs6aYE
投稿広場より掲載

 
  • ロビンM

    やあロビンミッシェルだ。
    最高の褒め言葉だよ。
    だが残念だったな、
    俺は只者だ!ww…ひひ…

     
  • 匿名

    ロビンM、ただ者ではないなオヌシ…

     

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