【怪談】二鬼語り-ニモノガタリ-②/HN:こげ

前編を読む

たぶん、疲れきった私をこれ以上…動かすことは無理だろうと
A君がこんな場所で休憩を取ってくれてるのだと思います。
男子全員がポーチやバックパックから塩やお札を取り出し補充しています。
更にD君はペットボトルへ詰めてきた井戸水…
朝日を十分に浴びさせて作った略式の若水で私達を囲むように撒いて結界を張ってます。

「飲めるなら若水飲んでおけ。あと荒塩をひとつまみも忘れずにな。
 奴らの呪圏…憑依が解けたか、まだ分からないからな」

A君が私にペットボトルを持たせてくれました。

「私、霊なんかに憑依されるなんてこと…一度だってなかったんですけど?」

「俺達だって無かったさ」

このチームに入って数十を超える心霊スポットを探検して例がなかったことです。
幽霊なんてものは脆弱で軽薄な存在、そう思ってました。
どんなに怨念が強くても所詮は人が成ったものでしか無いのですから。

「だが、アレは霊なんてものを軽く突破してる…と、さっき言ったろ?
 半ば鬼と化しているって」

「鬼…ですか…」

日本で言う鬼(おに)の語源は隠(おぬ)が転じたもので、
元来は姿の見えないもの、この世ならざるものであることを意味したそうです。
そこから人の力を超えた存在の意となり、人に災いをもたらす人間型の異形が定着しました。
そこへ更に陰陽思想や浄土思想と習合し、
地獄における閻魔大王配下の獄卒という設定まで生まれます。
また、もっと古く…奈良時代や平安時代初期は鬼を『もの』と呼んでいたそうでして、
『もの』を怨恨を持った霊=怨霊で、邪悪な存在という意味で用いました。
古代日本語の音韻、表記、語彙、文法、日本語の起源、
日本人の思考様式など幅広い業績を残した大野晋によれば
『もの』の由来はタミル語にあるそうで…タミル語で言う鬼は殆どが女性が成るもの…
中国の道教が伝播し広まる以前の弥生時代に
南インドにおける鬼(モノ)を恐れる観念=御霊信仰が伝わり、日本の鬼成立の由来になったと
指摘しています。

と、するなら…怨恨や憤怒によって人を超えた鬼への変貌は有り得るのかも…
だんだん息が整ってきました。

「で、どうする?俺達はアレを間近に捉えたし、軽く運動なんかしちまってお腹一杯だ。
 これでお開きにしたいが…アレを見てなかった二人の意見を聞きたい」

A君が私とC君に訊ねてきました。私が動けるようになったと判断したのでしょう。

「見てないけど俺はお腹いっぱい」

「私も十分に雰囲気味わえたから帰りでいいです」

だって、そんな怖い女性が鬼と化した上、二人も待ち構えてる建物へなんて
絶対に戻りたくないです。
全身血まみれで手に包丁を持って殺し合ってるとか…

「じゃあ、建物の外をまわって帰るとするか」

そうですよ!今回はこれでお終いってことで♪

「あ…ごめん、その前に俺…
 ちょっと、そこでションベンしてくら」

しょ…なんですかもう!いきなり緩みすぎですよA君!
もう、ここは安全だと判断したのでしょうけど…

『それなら、俺も付き合うわ』

男子全員…若水の結界を跨いで行ってしまいました。
女の子がここにいるのに…それも視界内でおしっこする気満々です…

う…ジョボジョボジョボジョボという…

「み、耳が腐ります!」

『生理現象♪生理現象♪』

じゃばじゃばじゃばじゃばじゃば…

私は出来るだけそちらを見ないように…

「末森城主奥村助右衛門の小便鉄砲をくらいやがれぇ!」

「わっはっはっは!助右衛門も傾くかぁ!」

「たぁらららららららあ!!」

「わぁっはっはっは!捨丸も傾くかぁ!」

な、なんか凄く楽しそうですね皆…

「じゃあ、俺は四井主馬で」

「なぁ、知ってるか?四井主馬って実在の人物なんだぜ!」

「何!?知らんかった!!」

馬鹿話に花咲かせてますよ。
お月様が放尿する変態四人を静かに照らしてます。
さっきの恐怖体験が嘘みたいな…
ここが心霊スポットではないみたいな…晩秋の穏やかな夜がありました。
きれいに晴れ渡った星空…

「おふうも一緒にやらないか?」

「してたまりますか変態!ぶち殺しますわよ!?」

誰がおふうですか!?
まったく、このメンバーではロマンティックな気分に浸ることすら出来ませんね…
四人を睨みつけてやろうとしたら

「?」

排尿している情けない後姿はそのまま…どうしたんですか?
首だけこっちに向け…私を凝視するなんて…
月下に佇む私があんまり可憐で美しいから思わず見入っちゃった!?とか…
あ…違いますね…視線が私を飛び越えちゃってますもん。
ですよね~
なにかあるのでしょうか?振り返って見てみようとしたところ…
すぐ後ろでアスファルト上にこぼれた砂を踏む…足音…
全身の毛が逆立ちました。
靴音…
だ、誰かが後にいます…

「そんな…ずっと警戒していて周囲に人の姿なんて…無かっ…」

あり得ません!ここまで人の接近を許すなんて…人の気配なんてなかったのに…
吹いていた風が急に止みました。

「ちょ…あ、あれ…」

B君…やめてよね!

「おい、振り向くなよ!絶対に振り向くなよ!?」

「絶対にだ!頼むから絶対に振り向くな!!」

な、なんですか!?いきなりそんな事言われたって…
A君とB君の会話が脳裏に甦りました。
まさか…三人が…建物の二階で見たという…
全身が恐怖で強張り…
四肢が言う事を利かず
身動きが…
A君達が必死の形相で私を手招きしています。

「こ、こっちへ来い!」

「に、逃げるんだ!こっちへ逃げて来い!」

だめ、身体が言う事きいてくんないよ…

「A君…B君…た、たすけて……」

声だって喉がひりつくくらいに乾いてしまって思うように出せません…
また一歩…
背後にいる何者かが私に向かって足を踏み出しました。

「くそ、今になってやっと分かった!
 こっちのはまだ死体が発見されてなかったんだ!!」

「誰か!助けてやってくれ!!」

「ダメだ!見た瞬間に金縛りにされた!!」

「俺も迂闊にも見ちまった!
 頼む!逃げろ!はやく逃げてくれ!!」

どうしよう!どうしよう!どうにもなんないよ!!
焦って混乱して、あまりの恐怖に足掻くことすら…
男子全員がおしっこする格好のまま…私を見つめています。

足音が止まりません。
そして、

「ひやぁ!!」

だ、誰かが…誰かが私を…
真後ろから…若水の結界ごと…私の身体をすり抜けていきました!
長い黒髪が目の前で翻り…
ゆっくりとこちらへ振り返ります。
異様に長い首…青白い肌に絡みつく…索状痕?…
凶相が…私を見下ろし…
顔に凄惨な笑みを貼りつけ…
包丁を持っていない左手を私に差し出し…

「別れた癖に!今さら妊娠したなんて言って邪魔をする…
 だから、ほら…掻き出してあげたから…
 中にはもう、誰もいませんよ?」

「な…なに?」

どす黒く染まった掌の上…血まみれの肉塊みたいなのって…
女性の掌にあるものって…

「これで心置きなく彼と式が挙げられます…」

彼女は大きく背を仰け反らせ…狂ったような笑い声をあげました。
そして、右手に持つ包丁で…自分の左掌ごと…
ザクザクと突き刺し…
哄笑をあげながら肉塊を切り刻むのです…

目の前で起きている…
あまりに凄惨でおぞましい光景に…
腰が抜けて…私は地面に尻餅をついてしまいます。
思考が麻痺して何も思いつきません。
ただ…ただ、自分の掌ごと切り刻む…彼女の姿を呆然と…

「返して!!」

別の女性と思われる声が聞こえました。
哄笑をあげる女性の肩越しで
何か動いてます…
さっき私達が探索した教習所二階…手前階段から二番目の部屋…
あの殺人事件が起きた部屋…
誰かいました…
窓のひとつから身を乗り出し、こちらへ向かって叫んでいます。
全身から燐光を放ち…浮かび上がる女性の姿…

「私と彼の赤ちゃんを返して!」

やっぱり、目の前で女性が切り刻んでるのって…

「胎児…」

私の精神は限界を超え…
視界が暗転…意識が遠のいていきます…
私の脳は…気絶と言う手段を用いて
異常で狂った現実から逃避を図ったのでした。

(おしまい)

2014年01月01日(水) 16:52
こげ ◆.s16F9bY
投稿広場より掲載

 
  • 紫姫

    かなり話に のめり込みました。 また 話を投函 して下さい。 楽しみです。

     
  • やまっち妻

    こげさん、すごく、面白かったです。でも、ちょっと鼻につくのは、こう、ミステリー少女雑誌とかの作品を、文にしたみたいだから。絵がついたら一気に映えそう!原作持ち込みで漫画編集部行かれてみられたら。ところで鬼子母神ハリティも、インド系鬼女でしたよね…、膨らみそう。次回作も楽しみです。

     
  • ロビンM

    やあロビンミッシェルだ。
    タイトルはこっちの方がいいな!
    その後は屈強で霊感が強く文武両道なA氏に担がれて帰ったのかな?
    コゲ氏今年も恐ろしい怪談を期待している。
    …ひひ…

     

世にも奇妙な怖い話や都市伝説から不思議体験スピリチュアルまで…オカルト小説投稿/2chまとめサイト。1万3千話超えの厳選物語を貴方に★