【怪異】寒天語-カンテンガタリ-③/HN:こげ

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「サンゲイとは中国の伝説上の生物で、姿は獅子に似る
 明代に編まれた『升庵外集』に登場する
『竜生九子不成竜』…竜が産んだ竜にならなかった九匹いる内の八番目の子供の名前だ」

竜が産んだ…竜にならなかった子供…

「八番目って他にもいるんだよね」

「中国の伝説とか知ってる人間には有名どころが名を連ねてるぞ
 亀に似た贔屓(ひいき) 、四凶の一角である饕餮(とうてつ)…」

「ちょ、ちょっと待って!
 四凶の饕餮って…左伝にある混沌(こんとん)窮奇(きゅうき)檮?(とうこつ)の……」

『左伝』とは『春秋左氏伝』の事で、
孔子の編纂と伝えられる歴史書『春秋』の代表的な注釈書のひとつです。
紀元前700年頃から約250年間の歴史が書かれてまして通称『左伝』(さでん)て言われてます。
もしくは『春秋左伝』とか『左氏伝』…著者は魯の左丘明といわれてますが決定ではないみたいです。
『春秋』と『書経』は共に孔子が編纂したというのですが…
四凶の内容がなぜか違っていて書経は『共工』『驩兜』『鯀』『三苗』となってます。
四凶といいますのは古代中国神話に登場します聖王舜によって
中原の四方へ流された四柱の悪神のことです。

「そういう訳で、竜の子だからサンゲイなら川の神だっておかしくない結論」

「俺は狛犬とか獅子舞の獅子かと思ったけどな」

「俺はキングシーサーかと思った」

「キングシーサーか…ゴジラ対メカゴジラに登場した…懐かしいな」

「『大空に黒い山が現れる時、大いなる怪獣が現れ、この世を滅ぼさんとする。
 しかし赤い月が沈み、西から日が昇る時、2頭の怪獣が現れ人々を救う』
 と沖縄玉泉洞内の壁画から予言を解読した…
 沖縄県八重瀬町富盛にあるシーサーの元祖と言うべき守護神像『富盛の石彫大獅子』がモデルとか」

「なぁ…Aよ、なんでお前はあれと川の神=サンゲイを結び付ける仮説を立てたんだ?」

「サンゲイの事は分かったけど、それは私も是非聞きたいです」

「俺も」

この状況であるにも関わらず、私達はA君に説明を求めます。

「まず、この川の歴史というのが面白い。
 その源は群馬県利根郡みなかみ町にある三国山脈の一つ、大水上山で、
 江戸時代以前は埼玉県行田市付近で東と南の二股に分かれた後南東に流路を取り、
 以後は現在の大落古利根川の流路をたどりながら荒川や入間川を合わせ東京湾へと注いでいた。
 渡良瀬川や鬼怒川などはそれぞれ独立した川で香取海へと注ぐものであったが、
 この川の度重なる氾濫に頭を悩ませていた徳川幕府は東京湾へ向かう河道を閉じて
 渡良瀬川と連結して現在の銚子へと流れを変える東遷事業という大工事を行う。
 それと同時に荒川を入間川へ連結させ独立した水系を完成させた。
 さらに鬼怒川、小貝川などの改修も行われ鬼怒川に合流していた小貝川を独立させた。
 明治期以降にも大規模な改修が政府によって行われ、その時出来たのが渡良瀬遊水地だ。」

「古来から暴れ川だったということか…それを時の幕府や政府が鎮めようと
 大規模な治水事業を行い、時には流れさえも変えさせられた…
 自然に出来た流れでは無いという事か…普通の竜ではないと…」
 
「人の手が入りすぎた川には人の思惑を汲んだ川の神…河伯を迎えたのではないだろうか」 

「天候不順、河川氾濫など人智では及ばないものを御する為に用意されたのが
 竜でありながら竜体を持たず竜の性を持つ存在…
 これほどの大河を治めるには日本に許された三本爪の竜では荷が重い…
 だからこその竜生九子不成竜ということか」

正確には日本に竜神は存在しません。
日本の川に棲む川の神と呼ばれる存在は竜神の眷属…蛟族であるとされています。
まず、竜神というのは五本の爪を持つ竜の中の竜を指します。
玉皇大帝の四方を守る聖獣であり水界の主です。
五爪の竜をデザインした衣類や食器、家具調度品などを使うことができるのは
中国歴代王朝の皇帝のみと厳しく定められ、別格扱いされています。
これらを臣下に下賜される時は必ず爪を一本欠けさせ四爪にする程、徹底されてました。
それでも敢えて竜神と呼べるなら四爪まででしょうか…五爪はもう超越した絶対的な存在ですから。
日本にいる竜は三爪以下かその眷属となっているんですね。
そんな訳で某国はパンダ外交をやる以前はドラゴン外交してました。
それで日本に四爪いないんですね…近代になるまであんまり重視されてなかったみたい…
日本画などを見ていただけると竜はほとんど三本爪になっているはずです。
この大河を治めさせるには絶対に竜神ではなくてはならない…苦肉の策として
竜生九子不成竜に白羽の矢が立ったとA君は言いたいのかな。

「この川の中流から下流にかけて広い範囲で黒獅子舞の伝統行事や黒獅子に関する話が残されてるんだ。
 江戸中期に山形県辺りから伝わったといわれているが定かではなく
 流域一帯で祀られる黒獅子は水神である竜と同一とされ、
 獅子ではなく竜頭で舞う地区もあるそうだ。
 伝わった年代が違うので関連性は無いと思うが、
 香取神宮に納められている国宝『海獣葡萄鏡』の中心にあるつまみ部分だが、
 サンゲイの姿をしているんだ…偶然にしては出来すぎじゃないだろうか」

「香取の地には元々、サンゲイを信仰する人々がいたとかなのかな?
 道教って4世紀にはすでに日本へ伝わっていたらしいですから、
 ありえない話ではないかも」

「それで、黒獅子=竜神=水神…黒獅子をサンゲイでないかと仮定したというのか」

「黒にしたのは水の意だよね?いつかは北海黒竜王あたりと挿げ替えてしまおうとか
 姑息に企んでたとか江戸幕府…何かのどさくさにまぎれて」

「それは勘繰り過ぎかもな
 サンゲイは煙や火を好んで食べて代わりに霧を吐く…火事が多かった江戸期に
 財産を家事から護ってくれるありがたい神だったことだろうし」 

「なるほどな」

「あと、この黒獅子舞いだが…三匹一組で舞われるそうだ。ゲイというのは単独でも獅子を意味し
 サンの文字が三となり三匹の獅子となったとするのはこじづけだろうか?」

「江戸期は音が合ってれば良しとされたりしてたからか?めちゃくちゃな当て字もまかり通ってたからな」

「新撰組のセンとか選と撰の両方使われてたっていうし、一番隊組長の沖田様の幼名は『宗次郎』だったり
『総次郎』だったり『宗治郎』『惣次郎』…果てはご自身で『沖田総二』と署名されてたりと適当三昧…
 ファンとしては正確を期したいのに…」

「歴女…この状況だ、自重しろ」

『うんうん』×3

あんた達だってキングシーサーで盛り上がってたのに…

「それで…この状況をどう打破するんです?」

「アレが川の神だと仮定して、如何に友好関係を築いて家に帰してもらうか
 あちらに帰ってもらうか…
 人は太古から神に貢物を贈ったり、人身御供を差し出したりしたな」

「人身御供!?」

「人身御供は大体が女性だったな」

い、いやな予感がしてきました!

「人身御供を欲したのはだいたいが同じ人間で神自ら生贄を差し出せと言って来たことはないがな」

「昔から為政者ってのは底辺に生きる人間のことなど同じ人間と認めてないからな」

「ああ、神をなだめる為には歌舞音曲、一緒になって遊ぶという風習が日本各地で残っていたりするな」

「天の磐戸に隠れた天照大神を外に出したのは天宇受売命の舞いの力だった」

「それだ!」

四人が一斉に私に向き直り手を合わせて拝みました。

「な…なんですかいきなり!?」

「神様にお前の舞を見せてやってくれ!」

なんで突然そんなこと言い出すのA君…

「ま、舞う?踊り!?」

「アニメ化された時、どうせエンディングで踊る羽目になるんだ
 今のうち練習しておくのも良いだろう」

なにそのアニメ化って…

「それで…アマノウズメはどんな風に舞ったんですか参考までに聞きますけど」

「よくぞ聞いてくれた!俺に任せろ!!
 古事記や日本書紀によるとだな
 まず上半身裸になって逆さにした桶の上に乗り、豊満な乳を見せつける様に背を反らす」

「ハァ!?」

拳を握り締め、鼻息を荒くしてD君が自分でポーズを取りながら説明始まりました。

「次に下半身を覆っていた衣を脱ぎ捨て
 腰を落として足で桶を踏み鳴らし
 集まってる皆さんの前で
 大開脚して
 くぱぁっくぱぁっくぱぁっと!!」

「嘘言ってると終いにぶち殺しますわよDIOみたく!?」

「オ、オラオラかよ!?
 嘘じゃないって!本当だって!ちゃんと記紀に編纂されているから!!」

「古事記にそんなえっちな話があるわけないでしょ!?この変態!!」

「嘘じゃない!嘘じゃないって!ホントかどうだか見てみりゃいいべさわかるっしょ!?」

なにそれ!?絶対にありませんよそんな卑猥表現が古事記にあってたまるものですか!?

「なぁ、お前等…立て込んでるとこ申し訳ないが…
 ちょっと見てみろ
 川の神様が嬉しそうにこっち見て尻尾を振ってるぜ?」

「え!?」

「今のやり取りが面白かったみたいだ」

小首をかしげたもふもふ顔の中で赤い目をくりくりさせて
栃木県那須町芦野に植えられてる遊行柳みたいな尻尾をパタパタと振ってらっしゃるじゃありませんか…
パルテノン神殿の柱みたいに太い前脚…爪は凶器というより質量兵器ですね…
地面をもぎゅもぎゅして…可愛いけどすごく怖いです!

「もっとやれって催促されてるみたいだ」

「え!?」

サンゲイ様?神様?のことなのでどの部分でツボったのか分からないし
困惑するだけで…どうすることもできず…
しばらく…見つめ合ったあと…サンゲイ?様は飽きてしまわれたのでしょうか…
すくっと四本足で立ち上がりまして…河の上流側にわだかまってる
雑霊集団のところへ子犬みたいな元気いっぱいで走って行ってしまいました。
ぴょんぴょん…軽々と跳ねるように行かれたのですが…
あの質量です…私達の身に
立っていられない程の激しい揺れと空気を震わす衝撃波が襲ってきました。

「質量伴う…実体系神様って…存在するだけで人間が迷惑を蒙ることになるんだな…」

「で、あのもふもふ神…あっちへ何しに行かれたんだ?」

ぶんぶんと千切れんばかりに尻尾を振って…
サンゲイ?様は雑霊達の霧へおもむろに頭を突っ込むと…

「も、もぐもぐされてらっしゃいます…美味しそうに」

「食ってる…雑霊を…鰯を群れごと食べる鯨みたいに…」

「死んでるけどあれも一種の踊り食いか?」

「しらうおかホタルイカみたいにぱくぱく食ってるな…」

「のどごしが良いみたいだな…雑霊の踊り食い…」

大好物なのでしょうか?
雑霊をまとめて十数体?もぐもぐと…もぐもぐと…

「だから最初いなかったんだ!」

「ん?何がですA君?」

「俺達来た時に霊の姿がひとつも無かったのはもふもふ様が
 食い尽くした後だったんだよ!」

「う……………」

「自殺した人間の無念や執念や遺恨も全部、あれが食べちゃったから
 痕跡すら残っていなかった…という訳か…」

「それなら理由がつく…な…」

「あんなのが存在する理由が見つからないけどな…」

ここで命を絶たれる方は…もしかするとこの神様の存在を知ってたのかも
死して尚、恨みを現世に残したくない…
怨念に凝り固まった醜い自らを他者に見られたくないが為に…
ここを最後の場所と選ぶのかも…
そして、あの神様もそれを知っているのかも…
夜明けを目前に寒さが一段と厳しくなり…
私達…帰ることにしました。
もっと見ていたい気もするのですが…

「神様の崇高なるお食事を邪魔したくないからな…」

大きさを考えなければ
子犬が一生懸命ご飯を食べてるみたいですっごく可愛いんですけど…
高さで言ったらガンダムとかモーターヘッドくらいあるんですよね…
可愛いのに…

「危ないところ助けていただきありがとうございまーす!
 今度、ちゃんとお礼にお伺いしますねー♪」

私が手を振るとサンゲイ?様は大きな尻尾をパタパタ振ってくれました。

帰宅したのは…午前五時を過ぎてまして…
疲れと眠気で
お化粧取らないとだめなのに…お化粧…とらな…
ベッドへ倒れこみ…そのまま…
深い眠りを無理矢理破ってくれたのは
階下からする母が私を呼ぶ声でした。

「せっかくの日曜日だっていうのに、
 いつまで寝てるの!?
 可愛いお客さんが来てるわよ!!」

時計を確認するとまだ八時じゃないですか…

「ん…お客さん?」

可愛いって兄の子の…でも、だとしたら名前で言う筈です…
全然寝足りない…しょぼしょぼする目をこすりながら階段を下りていきますと…
信じられないものが…

全身を覆うもふもふの黒い毛
赤い両のまなこ…その周囲を茶色い隈取り…

「ええええ!?」

母の脚に絡みつくようにして…じゃれつく…

「この子犬どこから来たのかしら
 すっごく可愛い子ね」

「きゃん!きゃん!きゃん!」

ついさっき、某河川敷で相対してたアレと…
そっくりな…お姿…1/60スケールで見事に再現されてて…
抱き上げた母の頬をピンクの舌でぺろぺろと舐めてらっしゃいます。
尻尾を千切れんばかりに振り回し…

「首輪もないし飼い主いないなら…家で飼おうかしら…ね?」

お母様…同意を求められても返事に困ってしまうんですけど…

「でも、家にはメイちゃんいるから…」

「あれはあんたの猫でしょ!?私もこんな可愛い子欲しいわ!!」

鼻チューしてらっしゃいますお母様…
気に入っちゃったらしく手放す気は無いみたいですお母様…

「家の子になっちゃう?」

「きゃんきゃんきゃん♪」

激しく同意しておられます…

「君の名前は太郎ちゃんだよ♪」

「きゃんきゃんきゃん♪」

名前…付けてもらって大喜びみたいです。
だいたい合ってますね…
某河川の異名と…
いきなり家族が増えてしまいました。
お布団は母と一緒なので揃える物はあんまりなく済みました。
気がかりなのは…
この子がもふもふのサンゲイ?様ご当人なのか…
しばらく様子をみていたのですが
半年過ぎても変わったことは起きず
結局
他人の空似だったみたいです。
人じゃないから…
他犬の空似?
他神の空似?

そんな訳で
晴れ渡った空の下
母と太郎は元気に散歩へ出掛けていきました。

あ、
太郎は、ちゃんと予防接種も受けてますよ♪
狂犬病予防注射に混合ワクチン注射…フィラリア予防にノミダニ予防…
それから健康診断、
もちろん登録もしてますよ♪
犬として

(おしまい)

2014年03月23日(日) 02:28
こげ ◆.s16F9bY
投稿広場より掲載

 
  • こげ

    天通の七不思議さん様、0.血苺様、紫姫様ありがとうございます♪
    こういうお話は全然受け入れていただけないかもと思いながらも
    投稿させていただきましたw
    だんだん長くなっていきますね私のお話って(T_T)
    ごめんなさい
    次も以前に書いたお話を手直しして投稿させていただきます。
    そろそろHさんの名前を出しておかないとと

    拙い私のお話を読んでくださいましたみなさん、ありがとうございます♪

    本掲載してくださいました管理人様ありがとうございます♪
    気がつかないであのあと修正いれちゃいましたごめんなさい

     
  • 紫姫

    四人と 投稿者さんの 会話 面白かったです[s:18290] 前回の(二人鬼)時より、大長昨に、目が離せず 楽しめました[s:20309] ちっこい むふむふ様 可愛くて 私も飼いたい と 思いました。

     
  • 0.血苺

    堪能致しました^^
    もふもふ…現れた時は何となく、“ナルニア国物語”のアスランを連想しましたが、もっと愛らしいモノでしたね!

    それにしても、河川がそんな恐ろしい場所だったとは…
    河川敷をウォーキングするのが好きな私は、霊感無くて良かったです。
    まあ、夜はウシガエルの声が不気味で行かないけど。

    大長編ありがとうございました。又投稿して下さい。

     
  • 匿名

    もふもふ様かわええ
    最後に家にやってきたのは分霊なんかな
    気に入られたのか修行しにきたのか

     

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