【怪異】寒天語-カンテンガタリ-②/HN:こげ

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懐中電灯で私達の行く手を照らしますと
いつの間にやら白く濃密な霧が壁のようになって立ちふさがっていました。
これ…これは分かります。
今度は私にも感じることができました。

「霧…じゃないんだ…ね」

川霧って夜間の放射冷却によって冷たくなった空気が、
風で水面付近に運ばれて水温が高いから水面から盛んに蒸発する水蒸気を冷やして
霧粒に凝固して発生するものなので、生まれは川の上なんですよね…
でも、私達が見てる霧って河川敷の枯れ野からぞろぞろ湧き出てきます。
こちらへ漂うようにやってきた霧の先頭…人の姿を象っているじゃないですか…
半透明の人影が重なりあって…白く見せているんですね…

「漂ってる内にいろんなのとくっついて悪質化したのだろう、
 ちょっと強めのやついるな」

ブリッジ部分を指で軽く押し上げるB君の眼鏡のレンズが懐中電灯の明かりを反射して
きらりと光を放ちました。
コナン君みたいに…

「今までどこに隠れていたのやら…勿体ぶって」

コートのポケットから抜いた手の指…
指の間にはそれぞれ一枚ずつ御札が挟まっています。

「この前みたいには…行かねぇからなっと!!」

猛禽の翼の如く広げられたC君の手には粗塩の入った包み紙が大量に握られてます。
A君とD君は懐中電灯以外は何も準備しないみたい…あ、照明係さんですね
私は…私は…私は…
私は何かします?

「何やってる!?般若心経を唱えろ!!」

「は、はい!」

A君からするどい声が飛んできました。
背後では数秒置きに茂みがメキメキと潰される様な音…地響き…
どっちも益々大きく…近づいてきてます…

「一体なんなんだあれは!?この忙しくなった最中に…」

「あれ…確実に足音だよ…ね?」

「あしおとぉ!?」

揺れだって震度3くらいあるような…いえ、音がする毎にもっと大きくなってます。

「見えないけど…音からすると二足歩行じゃなくって…
 四本足で…胴体や尾を引きずるような音がないから両生類以外かと…」

「恐竜とか巨大哺乳動物か!?」

「象とかキリンとか!?」

「川にそんなのいるわけがない!!」

あり得ないなんてことはあり得ないってロイ様とかグリードが言ってますけど?

「ディプロドクスとかブラキオサウルスとかスーパーサウルスとか
 サウロポセイドンとかアルゼンチノサウルスとか!!」

「今日は寒いから爬虫類は出てこれねーよ!!」

「てことは…哺乳類か鳥類か?」

「四本足だから鳥類はないな」

「俺らが前を抑えるから後ろの奴が何かなんとか確認してくれ!」

正面に展開する雑霊達も数が尋常ではありませんから…かなりやっかいな訳ですが…
得体の知れない巨大生物が…大きな足音をたてて近づいてくる…
やっぱりこっちの方が脅威です。
B君C君D君の三人が振り返った私の背後と左右を護るようにして立ち
私は足音のする方へ、米軍やFBIでも使用されてる輝度の高い懐中電灯を照射しました。
目を凝らします。

「……………あれ?」

見えるのは枯れ野の上にわだかまる闇だけ…
あとは星…かな…
うーんと…
あれだけの足音を立てるのですから…巨岩のようにそそり立つのがいてもいいんじゃ…
故伊福部昭先生の名曲が聞こえてくるみたいな…
あ…あれ…あれは…星だよね…

「あの赤く二つ並んだ星ってなんだろ?
 大きくて二等星くらいの光を放ってるの…」

「どれどれ?」

私が指差す先…赤い光点

「地平線からかなり上だし…アンタレスの筈ないし…さそり座って夏の星座だし…」

「人工衛星って訳…無いよな」

人工衛星が放つ光って黄色とか青で寒々とした感じですよね?

「それから星の後ろに黒い入道雲?もくもくもくって…」

「星の後ろに雲あるわけないだろ!?それじゃ雲が地球の外にあることになっちまう」

「だって…星…こっちに近づいてる…」

なんか地響きと草の倒れる音とリンクしてる気がします

「A!俺もいま確認した!あれ…目だ…」

私の左隣にいるD君が確認してくれたみたいです。

「め!?」

「やべえ!だとすると高さ10mとか平気であるぞあれ!?」

「俺も分かった!あれってどこかで見たことあるシルエットだ!」

C君にもわかったみたいです

「恐竜か!?」

「ちがう!ユニバーサルじゃなくって東宝系列だ!!」

「怪獣!?」

「どうする!?俺達にはオキシジェンデストロイヤーも66式メーサー殺獣光線車も無いぞ!?」

「逃げる一手しかないだろ!あの雑霊集団を一気呵成に突破して
 背後から来襲する謎の巨大生物に追いつかれる前に車で脱出するぞ!!」

『おう!』×3

「う、うん!」

ごろごろと石の転がる足場の悪い河川敷…それも極寒の深夜…
本気の…命懸け…全力疾走による脱出行が始まりました。

「なんか俺達って心霊スポットで走ってばっかりだな逃げるのに…」

「逃げっぷりも堂に入ってきた気がする…」

目の前に立ちふさがる真っ白い霧の中へ!
白濁した人の顔が目の前に迫ります!

「いやああああああ!!」

無表情…憤怒をあらわにした顔…半分が焼け爛れた顔…等々
生者には絶対真似の出来ない…表現出来ないデスマスク…
そのおぞましさから私は絶叫を放ってしまいました。

「俺達に比肩するのはもうこの世ではドロンボー一味くらいしかいないだろ」

「バカ!まだインディージョーンズがいるだろ!?」

「リプリーだって!映画『エイリアン』では見事な逃げっぷりだったぜ!?」

雑霊軍団の中へ突入したというのに…軽口ぜんぜん止める気配無いです男子…

「なんで平気なのあなた達!?うきゃぁああああああああ!!」

赤ちゃんが…半分溶けかかってる赤ちゃんが…アメーバーみたいな赤ちゃんが…
そしてヘビ!所々壊死してるみたいな蛇体が…パッチワークみたいにボロボロな…
ヘビの攻撃避けると動かないさそりが襲ってくるーさそりの次は毒蜘蛛が!
私はそれを素手で払い落とします!

「煩いぞ!叫んでんじゃねーよ!!」

「こ、怖いんだもん!」

って、怖がっているの私だけ!?なんで平気なの皆!?
人だけじゃなくって動物や魚やらヘビやら訳わかんないのもいるのに!?

「ほら!般若心経はどーした!?暗唱出来るんだろ!」

「だ、だってほら!ここにびちびちのぶよぶよのおんなのひとが…」

「我慢しろ!」

「出来ないよ!」

「毎年、夏冬のコ●ケ付き合ってやるから!」

「観自在菩薩行深 般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄 舎利子
 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識亦復如是」

「おおおお!」

「ちゃんと言えてるっぽい!?」

ふっふっふ…頑張りましたもん♪
そして、何よりコ●ケの為!ファンネル(使い走り)獲得の為!

「舎利子 是諸法空相 不生不滅 不垢不浄 不増不減
 是故空中 無色 無受 想 行 識 無眼 耳 鼻 舌 身 意 無色 声 香 味 触 法
 無眼界乃至無意識界…」

「いい調子だ!そのまま頼む!!」

なんだか雑霊さん達の姿がぼやけてきたような…
効いてるのかな私の般若心経…
『般若心経』は大乗仏教の空・般若思想を説いた経典の1つで、
600巻に及ぶ『大般若波羅蜜多経』の心髄を僅か300字足らずに凝縮した凄いものだと言われています。
確かに、それだけの文字数を凝縮すれば
煮詰めたコンソメスープの素みたいな般若心経は私にでも扱える力ある言葉になるかも!
(本当は『大般若波羅蜜多経』からほんの一部を抜粋してちょっと付け足したものが『般若心経』です)

「無無明亦無無明尽 乃至無老死亦無老死尽 無苦 集 滅 道  無智亦無得
 以無所得故 菩提薩? 般若波羅蜜多故 心無圭礙 無圭礙故 無有恐怖 
 遠離一切顛倒夢想」

「バギマやベギラマやイオラみたいにガンガン敵のHP削ってるみたいだぜ!?」

ここでなんでドラクエネタ!?
私を中心に雑霊たちが作る霧がどんどん晴れていきます。

「究竟涅槃 三世諸仏依般若波羅蜜多 故得阿耨多羅三藐三菩提
 故知般若波羅蜜多是大神呪是大明呪是無上呪是無等等呪」

「雑霊の霧からあと少しで抜け出るはずだ!あとちょっとだ!頑張れ!!」

みんなに励まされて私…更に声を張り上げます!

「パイポパイポ パイポのシューリンガン! シューリンガンのグーリンダイ!
 グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助さん!!」

『わざとか手前ぇは!?』×4

般若心経がいつの間にかジュゲムになっちゃった。
途端に雑霊達…力を取り戻したみたいで濃密この上ない白い霧が
私達を押し包もうと迫ってきます。

「ち、違うよ!ワザとじゃないよ!…あ!?」

霧が質量を得…実体化したのか…冷たく身体に張り付いて…
誰かが…腕…掴んでる…

「誰かが私の手を掴んでますけど?」

「俺じゃない!雑霊共に視界を塞がれてこれじゃ方角がつかめない!」

「やだもー!」

白い霧が無数の腕となって私を掴んできます。
掴めるところならどこでも構わないという感じで…腕に脚…う、脇のお肉を…
耳や鼻…む、胸まで…握って…鷲づかみ…
さすが中級レベル!いた!力があります!痛いです!!
弱い幽霊はどう言う訳か身体を寄せてすりすりしてきます!

「いたたたた!いたい!キモい!痛い!キモー!いたたたたた痛ーい!!」

ち、ちぎれるから!!

「もう一回、般若心経やり直せ!!」

「う、うん!」

ええと…なんだっけ最初って…ええと…今日はこちらからこちらのお客さん…違う!
毎度、馬鹿馬鹿しい…ううん…

「頭の中が定番落語でいっぱいになっちゃった!」

「記憶野を有意義に使えよ頼むから!!」

危機一髪みたいです。
どれくらいかと言いますと
量産型エヴァ達を前に活動限界時間を過ぎたエヴァ弐号機に乗るアスカくらい…
必死で般若心経を唱えようと記憶を手繰りますが…
浮かんでくるのは
『時そば』『道灌』『初天神』『八九升』『つる』『からぬけ』…
死んじゃうかもしれないという時なのに
前座落語しか浮かんでこないって何者なの私!?

「も、もうダメ…」

その時、すぐ真後ろでスツーカの落とした250Kg爆弾が炸裂したみたいな轟音と衝撃が!!
地面が激しい揺れ…立っているのが大変なくらいの震度6とか7とか
吹き飛ばされ叩きつけられ転がって…い、痛いです…
でも、生きてるみたいです私…
視界はホワイトアウト状態…
聴覚は…あまりに大きな音を捉えてしまった為か…鼓膜が何も音を伝えてきません。
手足はまだ雑霊集団に絡め取られて動かすことができない大ピンチ…
そこへ…後ろから来た巨大な足音の主に追いつかれ…
万事休す
ついに、この世界とさよならの時が来たと…

(え!?)

覚悟した私の頬に何かもふもふしたものが触れました。
もふもふ…ふさふさ…なんか私の身体をもふもふが…
もふもふ…すっごい気持ちいいです
何これ?

ふさふさもふもふ…

走馬灯がライオンがガオーって吼えるところで一時停止…
(私の走馬灯ってMGM製だったんだ…)
このもふもふって…
不思議な事に私の身体…もふもふを感じた部位に自由が戻ってます。

ふさふさもふもふ…もふもふふさふさ…ふさふさもふもふ…

手が動きます!
足が動きます!
全身もふもふ…ふわふわ…
身体が完全に自由を取り戻しました!
ど、どういうこと?
恐々と目を開いて…

「あれ?」

見渡しますと白い霧は晴れて
寒々とした河川敷の光景…懐中電灯は明かりを点したまま転がってて…
雑霊達は…まだいました。
私の周囲からかなり離れた所に…

「何があったの…あ、みんなは!?A君!B君!C君!D君!?」

近くに人の気配…よっこらしょと痛いの堪えて立ちますと…

「…………………」

「…………………」

「…………………」

「…………………」

すぐ近くに四人はいました。全員無事みたいです。
皆、立ち上がってました。
ほぼ真上へ顔を向け…あんぐりと口を開けて…
何見てるの?
私も真似して上に目を向けると…
巨大な漆黒のもふもふな毛に覆われた顔が見下ろしてました。
ルビーのように赤い一対の瞳…
目の周囲には歌舞伎役者みたいな…こげ茶色の隈取り模様が施されてて…
長く前に伸びた上下の顎…鍾乳石を彷彿させる鋭い歯の列…
上あごの先端には黒く濡れた鼻…巨大な三角に立つ耳…
体高10mくらい?
巨大でもふもふ…すっごいもふもふな…

「わんこ?」

大きさが異常なだけで…あとは物凄く可愛いわんちゃんにしか…
あ、目を細めました♪

「失礼なこと言ってるんじゃねえよ!
 あれはたぶん…川の神だ」

「川の神?川の神って竜じゃないの?」

変な事を言いますよねA君…川の神、河伯と言えば…
『蛇』『亀』『鯉』とか竜に連なる眷族か
『河童』『水虎』などの『水妖』に属するものと思ってたのですが…
この子はどうみてもわんこですよイヌですよDogですよ
学名『Canis lupus familiaris』ラテン語名『canis』
ネコ目(食肉目)- イヌ科- イヌ属に分類される哺乳類の一種ですよ

「Hさんに確かめてみないと分からないが…あれはたぶん…サンゲイかと思われる」

「Hさん!サンゲイ!?」

Hさんというのは、A君の知人で老舗呉服屋の若主人…なのですが
当主となる者は代々、修験道を修めるそうで
そのHさんも子供の頃から修行を積んでて
さらに彼のお爺さんの代からは修験道だけではなく、
仙道にも足を踏み入れており大陸の巫術、仙術に造詣深くて、
鬼神の如き武術の達人な上に超イケメンと言う完璧超人だったりします。
心霊スポット探検で窮地に陥った時、
A君がHさんへ連絡してアドバイスを頂き、危地を脱したことが幾度もありました。
私は未だに会ったことありませんけど…
って、私達は現在おっきなわんわんから目を離さず会話してます。

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