【怪異】言わな語り-イワナガタリ-①/HN:こげ

言わな語り-イワナガタリ-/HN:こげ

お盆に父方の実家へ家族で出掛けるのは毎年恒例の事でした。
祖父母の家は北関東の某県、東京に近い割りに山あり川あり
空には鳶や鷹が舞い
集落にはイノシシや狸など野生動物が普通に出没する
自然と人の営みの調和がとれた素敵なところです。

父は田んぼと畑だけで何もない退屈なところだと苦笑しますが
祖父母の家に滞在する数日を、私はとても楽しみにしていました。
三男の父と同じく、長男と次男も家を出て、隣の市に家を建てて住み暮らしているので
祖父と祖母の二人暮らし、
息子夫婦が孫を連れて帰ってくるのを楽しみにしながら
ご先祖様から受け継いだ土地、田畑を守っているのだそうです。

祖父母の家で食べるご飯も楽しみのひとつでした。
畑で丹精こめて育てた野菜の味は格別ですし、
そこに近くの山で捕れたイノシシや鹿のお肉、
清流で獲れた川魚や川えび、沢蟹などが加わって、
都会ではまず食べることの出来ない野趣溢るるご馳走が食卓に並ぶのです。
家では小食で親を心配させていた私ですが、
こちらでは食べすぎて、逆にそれを窘められてしまうくらいでした。

三歳上の兄…妙に大人びて話しかけるのも躊躇してしまうくらい超然とした兄…
その兄が祖父母の家では、近くに住む同年代の男の子達と泥だらけになって遊び、
清流での魚釣りやえびや蟹を獲ったり、川で泳いだり
夜明け前の山へ分け入り、カブトムシやクワガタムシを捕まえに行くほどの豹変ぶり…
あまりの変わりように私は目を白黒させていました。

私だって楽しみは食べること以外にちゃんとありましたよ。
祖母と畑に行ってお水を撒いたり、雑草を取ったり、野菜を収穫したり、
葉っぱや鬼灯で音を鳴らしたり、白粉花とか草花での遊び方を教えてもらったり
祖父が吊ってくれた蚊帳の中で祖父母が子供だった頃のお話を聞かせてもらいながら
眠るのも楽しみでした。

それから、街明かりの届かない山の頂で、
茣蓙を敷き、蚊取り線香を焚いて祖父母や家族と寝転び見上げた星空は
今でも鮮明に思い出されます。

夜空を埋める星々の煌き
古代人が星々の並びから人物や動物など…連想して名付けた星座達を指で辿り
流星が天の川や夏の大三角を幾度も横切る様を見ては歓声をあげて、
時間が経つのを忘れ見入ってました。

花火大会や盆踊りに連れて行ってもらいました。
街明かりが少ない…夜の闇が濃いからでしょうか
こちらと違って空に咲く花火の色が鮮やか…

ゆらめく炎に祭囃子、独特のリズムを持つ在所訛りが飛び交うお祭り会場…
わたあめにカキ氷、たこ焼きに大判焼き…屋台で売られているものは同じなのに
こちらの方が格段に幻想的で神秘的なものに映りました。
それから、どういう経緯でそうなったのか…その時は分からなかったのですが…
天冠を被り、お姫様みたいな着物をまとう稚児役を
小学一年生の時から毎年させていただいてました。
祖父母の家の門前まで地区の区長さんや世話役などが迎えにきて
輿に乗せられ集落内を練り歩き…堀と茨に囲まれた
大きな鳥居の立つお社へお参りするのです。
水干(すいかん)を纏った大人が担ぐ輿の上…
鳥居の奥から…私を見て微笑む黒絹みたいな癖の無い長い髪に富士額…
白粉を塗って輝く肌…眉を落とし、唇に紅を差した美しい女性…
下男役の方達が供物を門前に並べ捧げた後
私は社…鳥居…女性に向けて…祖父母に教えられた祝詞を唱えるのです。
それが私の役目…
綺麗な服を着て、お姫様みたいな待遇を受け
楽しいひと時でしたけど…なにか嫌なもの…怖い感じがして…

小学四年生の夏休み
今年のお盆も父方の祖父母の家にやってきました。
明日には家へ帰らなければならない十五日の朝、
私が目を覚まし、祖母と母が朝ごはんの支度をしているだろう台所へ行くと
二人の姿は無く…そればかりか祖父に父、兄までがいなくなってました。
家の中には私一人…
時計で時間を確認すると八時三十分…完全に朝寝坊です!
私って、寝起きはいいはずなのに…疲れが出ちゃったのかな…
起きない私をそのままに…
みんなで畑に行っちゃったとか。
パジャマから服に着替えて再び台所へ戻ると
テーブルの上に私の分でしょうか、
おむすび二つと胡瓜の糠漬けが一本、ラップをかけて置いてあります。
洗顔を済ませ、お鍋のお味噌汁を温めなおして食べることにしました。
書置きひとつ残さず、みんなでお出掛けしちゃうなんて…
歯を磨いたら畑へ皆を探しに行ってみよっと。
右手におむすび 左手に糠漬け丸ごと一本を手に持ちもぐもぐポリポリしてますと

「わん!」

元気な声がしました。
祖父母が飼っている白い雑種犬のケンタロウが黒い瞳をくりくり、
大きなトチノキの下…犬小屋に繋がれこちらを見てます。
なにを期待してるのか…
嬉しそうに尻尾振ってたりしてます…

「そうだ!ケンタロウを連れて皆を探しに行こう!」

身支度を整え玄関で靴を履き、リードを片手に犬小屋へ行くと
ケンタロウは散歩ができると分かったみたいで
千切れんばかりに激しく尻尾を振って大喜びです。
首輪に繋がれた鎖を外してリードに付け替えると私への感謝の念などどこへやら
いきなり、ぐいぐい引っ張り、強引に家を出ていこうとします。

「ちょ、ちょっと待ってよケンタロウ!!」

あまりの力強さに転びそうになりました。 なんか…ケンタロウ…その態度が気に入りません…

「ケンタロウ!ウエイト!ハウス!アテンション!」

負けるものかと渾身の力を込めてリードを引っ張り返します。
四肢を踏ん張り抵抗するケンタロウ…『待て』の命令が通じてないようです。 お祖父ちゃんもお祖母ちゃんもケンタロウのしつけがダメダメです!
なっていません!
身体を反転させてリードを右肩に担ぎ、
柔道の背負い投げみたいな前傾姿勢になって堪える私… 一進一退の攻防がしばらく続いて後、ケンタロウが先に挫けました。
あとは私に従い大人しく犬小屋へ…
リードを外して鎖に繋ぎ変えます。
悲しげな声をあげるケンタロウ…

「ハァ…ハァ…ハァハァ…勝った…ハァ…ハァ…」

息が切れ…両手だって痺れてるし…
おのれケンタロウ… 家の中から油性の極太マジックを持ち出して
ケンタロウに太い眉毛を描きました。
味付け海苔みたいな太い眉毛の下でつぶらな瞳…プルプル揺れてます。
かなりのショックだったのか
くぅん…なんて情けない声出して項垂れ…
でも、眉毛が…眉毛が…太い眉毛が…
面白すぎて脇腹が痛くなってきたし…
涙止まんないし…
ダメ…ツボに…ツボに入った…
死にそう…

「こ、こら!ケンタロウ!両耳垂れたりしたら…
 痛っ!イタタタタ!お腹痛ッツ!!」

お腹を押さえて笑い転げること数分…
ケンタロウの変顔にも慣れてきて、こみ上げてくる笑いがやっと納まりました。

「笑ったまま死んでしまうかと思いました!」

涙を拭いて立ち上がり
すっかり大人しくなってしまったケンタロウを連れて再出発!
なんか…お出掛けを拒否する素振りすらあります。

「どうしたの?あんなに楽しみだったお散歩だよケンタロウ?走ってもいいんだよ?」

眉毛を描かれたショックから立ち直ることができないらしく
念願の散歩へ出掛けられたのに
なんか大人しく私の半歩後ろとぼとぼと…
本当に…

「さっきまで元気だったケンタロウはどこに行っちゃったの?」

ちょっとだけ罪悪感が芽生えました。
売られていく子牛みたいに辛気臭い目をしたお供を連れて
私は祖父母の畑へと向かいました。
途中、おかしなことに気付いたんです。
私…集落の中を歩いている間、誰とも顔を合わせてないんです…
庭に出ている人や…元気に遊びまわる子供達も…
集落の人たち全員、家の中で過ごしているのか…
私一人を残して集落の人間全てがいなくなってしまったみたい…
人の気配がまるでなく…
虫や鳥の声も遠くから聞こえるだけで…妙に静か…
嫌な予感…胸騒ぎがします。

「今度は田んぼへ行くよケンタロウ!」

「きゅうううん」

しかし、そこにも祖父母や家族…集落の人間…だれも見つけることが出来ませんでした。

「もう、思いつく限りのところを調べるしかないよケンタロウ!」

「きゅうううん」

なんか、露骨に動くことを拒否するケンタロウ…ですが…
私は力一杯リードを引っ張り連れていきます。
集落にひとつだけある雑貨屋さん…いろんなイベントの本部となる集落センター…
祖母の一番の親友というお婆ちゃんの家…魚獲りした集落の外れにある川…
本当に…私とケンタロウを置いて全ての人が消えてしまったみたい…

「誰もいないよケンタロウ…どうしよう?」

「きゅぅううん」

「とりあえずお祖父ちゃんの家に戻った方がいいかな?」

「きゅぅううん」

もしかしたら、みんな…家に戻っているかもしれません!
家に帰ると分かったらしくケンタロウ…元気を取り戻したみたいです。
胸を張り尻尾を振って私の半歩前を歩いていきます。

大きな石造りの鳥居が見えてきました。
お祭りの最後に行くお社です。
道路わき…緑色の水を湛えたお堀…お社側に植えられた茨の生垣…
その向こうは鬱蒼とした鎮守の森…
鳥居の前まで来ると…社の中…参道が見えます。
敷石が並べられ…玉砂利が撒かれているのは鳥居から数メートルまでで…
その先は私の背丈を越える草がどこまでも生茂る…
とても参詣する人を迎えるようには出来ていないんです。
お祭りの時…供物が並べられるのは鳥居の手前…誰もその先へは進みません…
私も輿の上から…お社の中に向けて祝詞を読むだけです。

「あ…」

草の上に…人の顔がありました。
知ってる人です。
秀でた額に白い肌…真ん中分けにされた黒髪…赤い唇…
お祭りの時の…あの女性でした。
年齢は…二十歳とか過ぎてるよね絶対…いえ、分からないですけど…なんとなく…

「おはようございます♪」

挨拶すると、女性は唇の端を上げて笑みの形を作りました。
急に後ろへ手が引っ張られました。
ケンタロウが後退りしたみたいで…

「どうかしたの?」

「きゅぅん…」

人見知りするようなケンタロウじゃないのに…眉毛ですか?その太く描かれた眉毛が…
凛々しくていいじゃんケンタロウ♪
やっと…捜し歩いてやっと見つけた人ですよ♪
お祭りの時に何度も会っている人ですし

「お姉さん、集落の人がね…お祖父ちゃんもお婆ちゃんも
 お父さんもお母さんもお兄ちゃんも
 みんないなくなっちゃったの。
 どこへ行ったのか分かりますか?」

女性は静かに微笑むだけ…
集落の人だけ集まる行事とか…もしかしてお社で…でも、両親や兄は…
草むらの奥から大勢の笑い声が聞こえてきました。
なにかお囃子みたいな…笛や太鼓の音も…

「もしかして、お社で何か集まりがあるんですか?」

お祭りの準備とか!?
女性はにっこり笑みを深くした後、きびすを返し…まるで、
ついて来なさい…と、言ってるみたい…
彼女は終始無言でしたけど…私にはそういう風に感じられました。
この集落の方って私を見るとお菓子をくれるんです♪
もしかしたら…美味しいお菓子をいただけるかも!!
草むらの奥に姿を消した女性を追うことにしました。
鳥居を潜った途端、
ケンタロウは四肢を踏ん張り一歩も動かなくなってしまいました。
頑などころか必死で進むのを拒んでいる感じ…

「じゃあ、私一人で行ってくるから
 ケンタロウはここに繋いでいくね。大人しくして待ってるんだよ?」

「きゅうん…きゅうん…」

潤んだ黒い瞳が私に何か言いたそう…
でも、犬語わかんないし…
それで、リードを道端に生えていた木の枝に縛りつけ
私は草むらの中へ分け入り、女性の後を追いました。

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