【不思議】おじさんと船/HN:0.血苺

おじさんと船/HN:0.血苺

高校時代、バイトで知り合ったハナちゃんは、未だに家族ぐるみで付き合いが続いている友人です。

歳は彼女の方が3つ上ですが、気づまりを感じた事は一度もありません。…まあ、少々気が強い所はありますが…シングル・マザーで一人息子を立派に育てているのですから、それくらいは当然なのでしょう。

ハナちゃんはよく、うちの娘をお嫁さんに貰うと言っていますが、私は内心、“あんたみたいな姑は勘弁してくれ”と思っています^^;

彼女の息子…淳としますが、やはり男の子のせいか、小さい頃から物怖じせずに1人でどこにでも行ってしまう、困った子でした。

当時は既に、日本とはいえ小さい子どもだけで遊ばせるのは危ない!という風潮になっていたので、私もハナちゃんも

「1人で遊びに行っちゃダメ!」

と、叱り付けたものです。

でも、いまいち強く言い聞かせられなかったのは、私も彼女も“そうそう、危ない事にはならないだろう”と根拠もなく考えていたせいでしょう。

「だいたい、今の親って過保護すぎるんだよね」
「そうそう。うちの弟なんか、学校上がる前は殆ど野放しだったよ」

そんな会話を交わしたのを覚えています。

そんな過信が、あんな事になってしまったのだと…私たちは後々まで悔やみました。

ハナちゃんの家に遊びに行っていたその日、例によって淳がいなくなりました。

まあ、お腹が空いたら帰って来るだろう…楽観的に考えていた私たちでしたが、ちょっと近くの公園まで様子を見に行こうと歩き出した時、近所に住むご年配の婦人が走り寄って来ました。

「奥さん、淳ちゃんが男の人と手を繋いで歩いてたけど…親戚の人?」
「え?!」

私たちは顔を見合わせました。ハナちゃんにはお兄さんがいますが、急に訪ねて来るのは考えられません。

「駅の方に向かってたわよ」

婦人の言葉が終わらないうちに、ハナちゃんは走り出しました。私は慌てて婦人に一礼し、彼女の後を追いました。

当時、私は妊娠8ヶ月…突き出たお腹で仰け反るように、フウフウ言いながら必死で走りました。

駅前に、バスターミナルがあります。丁度着いていたバスに、今当に手を繋いで乗り込もうとしている、男性と男の子が目に止まりました!

「淳っ!!!」

ハナちゃんが叫ぶと同時に、その二人に駆け寄ります。私は息切れして立ち止まり、でもハラハラしながら成り行きを見ていました…多分、金切り声をあげていた筈です。

帽子を目深に被った男性が、淳に何か囁いたのを見ました。淳が頷くと、繋いでいた手を離し、1人でバスに乗り込みました。

ハナちゃんが漸く辿り着き、淳をギュッと抱き締めた時、バスはドアを閉めて発車しました。私もやっと、2人の元に行きました。

ハナちゃんは淳の頬を叩き、

「馬鹿!…どうして知らない人に着いて行くのよ!!」

そう怒鳴ると同時に泣き出しました。

人前で泣いた事の無い、彼女の号泣する姿に、まだ母親に成りかけだった私は言葉も無く立ちすくんで居ました。

ベソをかく男の子と、その子を抱いてワンワン泣いているヤンママ、その横で呆然としている、汗まみれの妊婦…何ともシュールな絵面だった事と思います。

ハナちゃんが落ち着いてから、私は淳に訊ねました。

「さっき、あの小父さん…淳に何て言ってたの?」
「えーとね、又にしようね…て」

「又にしようって、何を?」
「お船に乗るの」

「……?……」

私とハナちゃんは顔を見合わせました。でも、私は思い出しました。

あの男性、チラリとしか見ていませんが、何か乗り物の運転手を連想させたのです。服装は良く分かりませんでしたが、帽子が、バスの運転手さんが被るような形のものでした。

もしかしたら、船員とかそういう人?(…の格好なんてよく知らないけど)

ハナちゃんが、淳の肩をガッと掴んで言いました。

「良い?…ママに内緒で勝手に連れて行っちゃう人は、どんなに優しそうでも悪い人なの!絶対着いて行っちゃいけないの!…分かった?」
「…うん」

ともあれ、男性の“又にしようね”の言葉が気掛かりだったので、私たちは交番に行って事情を説明しました。

対応してくれたお巡りさんは、淳がその男性に対して恐怖心を抱いて無い事から、

「知り合いの人だったのでは?」

等と訊ねて、ハナちゃんが怒りまくったりしましたが、しばらくは見回りを強化すると約束してくれました。

ハナちゃんもすっかり危機感を覚えて、それ以後は常に淳を、目の届く範囲に置くようになりました。彼女が仕事で遅くなる時、私は何度も淳を保育園まで迎えに行ったものです。

私の娘に対しても、私以上に口うるさく、

「知らない人に着いて行っちゃダメ」

と、言い聞かせてくれています。

あの、謎の男性の事も随分警戒していましたが、その後現れる事はありませんでした。

そんなある日、ハナちゃんがしみじみと話してくれました。

「あの男…もしかしたら、私の一番上の兄貴かもしれない…」
「え?…」

ハナちゃんは、4人兄妹の末っ子です。上はお兄さんばかりで、彼女が男勝りなのは、そのせいみたいです。

一番上のお兄さんはハナちゃんとは13歳も離れていたそうで、どちらかというと“若い親戚の叔父さん”みたいな印象だったようです。お兄さんが大学生の時から実家を離れ、滅多に会わなくなっていたそうですから、尚更でしょう。

そのお兄さんは、航海士だったそうです。そして…随分前に亡くなっている事は、私も聞いていました。

お兄さんは結婚されていたのですが、子どもは授かりませんでした。ハナちゃんは、淳を生んですぐに離婚してしまい、その事でご両親とは暫く仲違いしていました。

漸くわだかまりが解け、実家に顔を出すようになったその頃、ハナちゃんのお母さんがしみじみと言ったそうです。

「…お兄ちゃんが生きてたら、きっと淳を船に乗せたがっただろうね。息子が産まれたら船に乗せてやるんだって愉しみにしていて、結局叶わなかったんだから」

と…

「うち、二番目の兄貴の所は娘が二人だし、三番目はまだ独身だから、男の子って淳だけなんだよね…だからあの時…淳と一緒に船に乗ろうとしたんじゃないかな…なんて、ふと思っちゃって」
「……」

不思議な話だけど、私も何となく、そんな気がしてきました。“又にしようね”と言いながら現れなかったのは、ハナちゃんの心配する様を見て、諦めたのではないでしょうか。

今では淳も中学三年生。何と、将来は海上自衛隊に入りたい…なんて言っています。

「良いね~、なってなって!…そんで、小母ちゃんたちに海軍カレー作ってね!」

と、バカな事を言う私に

「コ◯イチのカレーでも食ってろ」

冷めた声で答えてくれました…ずいぶん、生意気になったものです(ーー;)

 
  • 紫姫

    まぁ(o^-^o) お体の体調に異変が、なくて よかったです[s:18270] また 素敵な お話しを 楽しみに 御待ちしてます。 ハナちゃんへ 敦君が、あれから 御立派に、成長されて 良かった ですね。 シングルマザーで、色々と ご苦労な 事 多々有ったと 思います。 お疲れさまでした[s:20550] 楽しい 毎日を お過ごしに なさって 居る と思います。

     
  • 0.血苺

    こげさま

    某国の…想像もしませんでしたが、一番怖い可能性でした(;´Д`A
    つくづく間に合って良かったです。

    葉六区(笑)みたいな男前に誘われたら、ほいほいついて行きますね〜、私が。

    メイちゃんの名前、本当に一生懸命考えられたのですね。
    私のハンネは、気付いて失笑されている方もおられるでしょうが、レイ・ブラッドベリさまのアレンジです^^;
    しかも、ブラッドベリ=血苺は、作家/アンソロジストの井上雅彦氏からのパクリとゆう無節操さ…
    ハンネでこんな、身の程知らずな事をやらかしているため、タイトルはなるべくシンプルにと心がけています。

     
  • やまっち妻

    私も某国の…と、初め思いました。ハーロック懐かしい。内容は知らないけど、目ばちこで眼帯してるとき、その渾名つきました。しかし、それ付けた奴3日後、自分がハーロックに。うつしたかしら。

     
  • こげ

    (TT)私、真っ先に…某国の工…って思っちゃいました。
    太平洋側でも安心できないらしいですから
    間に合って、無事でよかったぁって。人間が一番怖い話にならなくて良かったです。
    伯父さん、船は男のロマンみたいですから、見せてあげたかったのでしょう♪
    乗せたら言っちゃったのかな「君が気に入ったならこの舟に乗れ」ってキャプテンハー…
    海自ですか♪先が楽しみですね

     
  • 0.血苺

    紫姫さま

    私が走り出した時、例の婦人も「危ないわよ!」と叫んでました。
    本当、転んだらとんだ二次災害でした^^;何しろお腹で、足元が見えませんでしたから。
    絶対怒られるから、母には内緒にしてました。

    紫姫さんの優しい気持ちが通じなくて悲しいですね。
    でも本当に、そうゆう時代なんですね。
    子どもの安全の為に、一人の悪人から身を護るには、10人の善人の気持ちを傷つけても仕方が無い…みたいな。
    哀しい事です。

    やまっち妻さま

    危ないところでしたね〜…
    阿刀田高さんのエッセイで読んだんですが、筆者が少年時代に、近所の女の子と遊んでいたら
    夕顔みたいな真っ白い貌の女の人が現れて
    「帰りましょう」とその女の子の手を引いて行ってしまったそうです。
    後日、女の子は肺炎で死んでしまった、とか。
    近所のおねえちゃんが止めてくれて、本当に運が良かったですね!

    それにしても、時にはそんな妖かしがあったとはいえ、外で思いっきり遊べたんだから、やっぱり昔は良かったなあ…
    たとえ、TDLやUSJが無かったとしても。

     
  • 0.血苺

    ロビンMさま

    本当に、淳が無事だったからこんな見解も出来る…みたいな話なんですが、今となってはあれはお兄さんだったんだと、信じたい気持ちです。
    思わず妹さんに電話するなんて^^ロビンさん、「ママには言うなよ」なんて言いながら姪っ子さんに何でも買ってあげちゃう、アマアマな伯父さまだったりして…なんて、想像してニンマリしちゃいました。

    てぃあらさま

    そうなんです。淳は無鉄砲だけど、父親が居ないせいか、男性には懐かない子だったのに、あの男にはすんなり着いて行ったようなんで…
    手慣れた悪人だった線も捨て切れませんから、危なかった事には変わりないですけど。
    写真には、特に反応していなかったようですよ。
    ってゆうか、顔は良く覚えてないみたいです。
    うちの弟の時もですが、些末な事は良いから、ちゃんと覚えてろよな…(ーー;)

     
  • やまっち妻

    悪意はないと思いますが。その船どこいくかわからない。私は、幼女の頃公園で和服の美人に「おばちゃんと遊びに行く?」と言われて、ついていこうとしたら、近所の小学生のおねえちゃんに、バッとだっこされ「Kちゃん、帰るよ!」と家に強制連行されたことが。それからおよそ四半世紀、古い昭和初期の白黒アルバムを見ると、そっくりの女性が。ついてったらどこに着いたのか。

     
  • 紫姫

    あの時 近所のおばあちゃん が、敦君と 謎のオジサンを 見かけて ハナちゃん達に 知らせて 敦君の居場所が、解り 助かって良かった[s:20529][s:18270] ほっとしました。( -。-) =3 血苺さんは、妊婦さんなのに よく走り、大変\(゜ロ\)(/ロ゜)/ でしたね。 あの後 体調大丈夫ですか? 確か 8ヶ月位でしょうか 心配てした。 昨今、子供一人 だけ や 子供達だけ 遊ばせる事 は、大変危険 です[s:20304] 親が、 注意して 子供に 「ママが、良いと 言う人以外に 勝手に 付いて行っては、駄目」と 言って 今の時代は 、子供に解らせる。 私の頃も 知らない人には、付いて行っては 駄目でしたね。 子供に とって 誰が、大丈夫 誰が、危ない人だと 見分ける事が、難しい。 だから 子供 に 曖昧に 声を 掛け辛い 世の中に なり ました。 一昨日 近所の公園 の ベンチに 座り 友人と話して 居たら、 近くで 子供達が、鬼ゴッコして居て、男の子が、転んでしまい 私か、近く迄 来て 声掛けたら 男の子が、怯えて 逃げて しまった。 ただ 心配で、近付いて 声掛けしたのに まるで、人さらい かの 様な 態度され 悲しくなった。 難しい 世の中。

     
  • てぃあら

    謎の男性の正体は結局わからないようですが、ハナちゃんの亡くなったお兄さんであってほしいですね。
    だから、淳くんも危険を感じず、怖い目にも合わなかったのではないでしょうか?

    なんか、いいお話でした。
    淳くんに仏壇の写真を見せたら、どんな反応をするのでしょうか?

     
  • ロビンM

    やあロビンミッシェルだ。

    血苺氏、興味深い話を有難う!

    おじさんが身内かそうで無いかで話も変わってくるが、何か熱くなる物を感じたよ!

    年間もの凄い数の行方不明者が出ている昨今、俺には子供がいないがこの怪談を読んで今年三歳になる姪っ子が急に心配になってつい妹の美菜に「気を付けろ!」と電話しちまったよ!…ひひ…

     

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