【怪異】俺と小さな包みと浴室の女/HN:ゼロサム

俺と小さな包みと浴室の女/HN:ゼロサム

いつもと変わらない街並み、改札口から吐き出される人の群れ。
高層建築物で切り取られた狭い空は相変わらずのネズミ色だ。
人が作り出した流れのひとつに乗って俺は仕事場へと向かう。
行く手にテッシュ配りが幾人も毎度の如く待ち受ける。
ガキの頃に観たジャッキー・チェンのカンフー映画に、こんなのあったな。
確か『木人拳』だったか。
思い出した。『少林寺木人拳』だ、ユン・ピョウが悪役モブで出てた。
日本公開版のみにあった挿入歌『ミラクルガイ』を脳内で再生されれば、
自分の立場がジャッキーチェンと重なって
ティッシュを受け取ったら負けな気がしてきた。
左右から差し出される手を敢然と無視して突き進む。
強引に握らせようとする奴は手首をつかみ、外へと受け流す。
もう少しで抜けられる。
油の上を進む蛇八歩の技が如く…
(急所を攻めてはいけません!)
調子に乗ってたところ…
急に前を行く人の列が左右へ分かれる。
風に揺れるキャラメル色の髪…
ひとりの女性が立っていた。
白いワンピース、日本人離れした白い肌…髪以外、靴まで白い。
何かの罰ゲームだろうか。正面に立つ白い美貌が俺に向かって微笑む。
右手が翻り、彼女が俺の手をとり何かを握らせた。
思わず受け取っちまった。
何を渡されたのか…手のひらを確認する。
ラッピングされ赤いリボンのついた包みがひとつ…ティッシュじゃなかった。
渡した本人に問おうと顔を正面に戻すと
そこにはあの白い美人の姿はなく、前を行く人々の背中だけがあった。
手に残された包みが、白昼夢でも幻でも無かったことを
告げていた。

浴室に明かりが灯っている。
床を叩く水音…
誰かシャワーを使っているのか…
完全に意識が覚醒した。
同居人はいない…住んでいるのは俺一人。
このアパートに移ってきて三年、こんな事は初めてだ。
枕元で充電している携帯電話を手に取り、時間を確認してみれば午前3時3分。
帰宅したのは午前0時…湯船に浸かるのは面倒だとシャワーで済まし、
寝酒のウイスキーが入ったグラスと共にベッドへ潜り込んだのは
1時くらいだったか…

泥棒が侵入した家で入浴するとはとても考えられない。
付き合っている彼女…こんな深夜にやってきて風呂を使う…
いやいや、今頃まで動いている電車など無いだろう、来れる訳がない。
実家の家族が俺をこんな時間に訪ねて…なんて事もありえないな。
そんな仲じゃない。
では誰が?誰がシャワーを使っているというのか。
合鍵を渡しているのは彼女だけだが…

ベットから降りて足音を殺し、開けっ放しにしてたドアから
短い廊下の向こう、キッチンの隣…
そろそろとあちらから見えないように近づいていく。
洗濯機と洗面台の間、腰を屈めて風呂場のドアに接近…
ガラス越しに人が中にいることを確認。
水音に混じって聞こえてくる女の声…
これは…歌っている…綺麗な声…
ハミング…鼻歌かこれは!?
『MyFavoriteThings』…私のお気に入りか…
ミュージカル『サウンドオブミュージック』だな…
ジョン・コルトレーンがカバーしたことでも有名…
今ではJ●東海のCMソングで知られる…
聞けば衝動的に京都へ行きたくなる曲だ。

家主に断りも入れず風呂に入るヤツが悪い。
ドアノブに手をかけ、そっと開く。
エコーの利いた鼻歌がよりはっきりとなって、耳へ入ってくる。
ドアの隙間から中を覗く。

「!!」

立ち上る湯気…それに負けないくらい日本人離れした白い肌…
ふくらはぎ…ふともも…目の前に現れた見事な脚線…
肉付きがあまり良いとは云えない腰…
水を吸って裸身に絡みつくキャラメル色の長い髪…
掌で身体についた泡を落としていく艶かしさ。
見知らぬ女性が身体を洗う姿に俺の目は釘付けとなった。
家に入った変質者を確かめにきた筈が、
女の入浴を覗く変質者と化してしまっている。
誰何する機会を永遠に失い、俺は時を忘れ見惚れていた。

シャワーの蛇口を閉め、髪を手で拭い水気を切る。
露わとなった腋の下、その白さが際立つ。
中の女性がいきなり振り返った。
満足そうな笑みを浮かべていたのだが…
あら?っといった怪訝そうな表情へ変わる。
覗いていたのがバレた…のか?
あ、目が合った。
顔が強張り、くしゃって歪む…

「きぃぃいいいいいいやぁぁああああああああああああ!!!!」

悲鳴…
絹を裂くような…では生やさしいな。
金切り声…いやいや…
超音波…それでも生ぬるい。
殺人音波…質量を伴う面制圧を目的とした音響兵器…
俺はドアの前から廊下の壁まで吹っ飛び
大音声で鼓膜が限界を超えたのか、何も音を伝えてこなくなった。
そして、ブラックアウト…
いや、風呂場の明かりが消えただけだ。
中にまだ…いる…
俺は立ち上がれず閉じられたドアを眺めた。

「あ!」

あのキャラメル色の髪…どこかで見たと思えば
蘇える朝の光景…
包みを俺に手渡した女…
間違いない…と思う…
確かめようと思ったのだが…
また、あの超音波を食らっては堪らない。
それで、朝までまんじりともせず
ドアの前で警戒していたのだが…中から開くことはなかった。
朝日が射し込み…もう大丈夫だろうと
恐る恐るドアを開けてみれば…浴室には誰もいなかった。

それから、キッチンのテーブルに財布と共に置いた…
女から手渡された
あの小さな包み…
いつの間にか無くなっていた。

おわり

2014年05月20日(火) 00:08
ゼロサム ◆2QPJRcoE
投稿広場より掲載

 
  • 紫姫

    再び 読んだ。 幽霊(彼女)は、主人公(彼)に 一目惚れして 思わず 買ったばかりの自分(幽霊彼女)下着を小包した物 手渡した♪ でも 使う為に 買ったので 取り返す ついでに お風呂を借りた♪ そしたら 彼(主人公)に 見つかってしまい。 お風呂を勝手に使い 裸を見られ 彼に 会えた 喜び 等 思わず パニック お越し 彼 を ポルターガイスト?(大きな声&悲鳴)攻撃した。 でも 彼に 惚れたし~ 酷い 悪い人 に は、思えなかったので 又 逢いたいと…。 勝手な 想像 した。

     
  • てぃあら

    深く考えずに読んだままに、文章を楽しめばよいのだと思います。

    続きがあるようなので徐々に解明されるのかもしれませんが、今のところは、詩を読むような感覚でよいような…。

    すみません。投稿者さんではないくせに勝手なこと書いてしまいました。

     
  • あつお

    全く意味が解らない私に解説を…

     
  • 紫姫

    素敵な表現で 話しの出だしに、すーと 引き込まれて 謎の 小包と キャラメル色の 女性 との 関係等 続き 気になる (o^-^o) 有難うございました。

     
  • 匿名

    おめでとう!面白かった

     

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