【怪異】殲滅②/HN:ゼロサム

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…でも…あれ?
疑問が浮かんだ…
彼氏から聞いたシナリオ…
シナリオでは『ミツル君』を連れて行くのは『水曜日』の筈…
でも確か今…『金曜日』って…
ただの記憶違い…じゃないよ…水曜日だったよ…
午前中に計画が急遽変更となったのだろうか
このいたずらの結果にはたいして影響はないと思うけど…
なにやら、喉の奥に刺さった魚の骨のような……
妙に引っ掛かる…あとで彼氏に訊ねてみることにしよう。
彼氏と友人は「終わった終わった」と席を立つ。
『ミツル君』は椅子に座って、わんわん泣いている。
ギャラリーに紛れた仲間達が活躍する場面がやってきた。

「『ミツル』どうするんだよ!?お前連れて行かれちゃうってよ!?」

「来週の金曜日?に迎えに来るってよ!!」

「連れて行かれたらどうなるんだ!?お前死んでしまうのか!?」

「最悪だ!最悪だわ!!」

「なんとか防ぐことはできないのか!?」

「俺たちに幽霊をどうにか出来る力があると思ってるのか!?」

「何も出来ないに決まってるだろう!?」

「誰かに頼むとか?」

「頼むって誰にだよ!?」

「ほら、テレビでやってる霊能者とかお坊さんとか神主とか…」

「陰陽師とか!?」

「陰陽師なんて、この辺りにいるわけないだろうが!?」

「お前等!まじめに考えろよ!!」

泣きじゃくる『ミツル君』に彼氏が声をかけた。
静まり返るギャラリー…『ミツル君』の肩がびくりと震え…
ぽろぽろ零れ落ちる大粒の涙をそのまま…彼氏に向けて顔を上げる。

「こんな結果になってしまって申し訳ないと思う。
 だが、俺達は仲間だろ?
 お前を金曜日?に連れて行かせないために、俺達は全力を尽くす」

「なんとかなるの?」

「素人の俺達が何とかできるわけないだろ?
 今から全力で調べるに決まってるだろアホ!!」

「うわぁん!ボクは『コックリさん』に連れて行かれちゃうんだぁあ!!」

椅子を蹴って『ミツル君』は大声で叫び立ちあがる。
もう、止める必要は無いので本人がやりたいように任せる…
『ミツル君』は泣きながら教室を出ていった。
尿漏れは無理だったけど大成功!!
これを仕組んだ彼氏達、ギャラリー達…顔をくしゃくしゃにして大爆笑。
彼氏は拳を天に突き上げ勝ち鬨をあげた。

その日の放課後、
顧問に用事があるとかで部活は五時半で終わった。
こんなことは滅多にない。
私達二年は体育館の掃除と戸締りを一年に任せ、
さっさと制服に着替えて部室を出て行った。
彼氏持ちは体育館を出る前からフライングしてメールを打っている。
私も…と携帯を取り出そうとしたところ…
前方…裸電球一個が灯る自転車置き場に彼氏を発見…隣には『ミツル君』
小走りで自転車置き場へと向かう私…そして、声をかける。
顧問に用事が出来たから早めに部活が終わったことを告げると
途中まで一緒に帰らないかと言ってくれた。
彼氏を真ん中にして三人肩を並べ、校門まで自転車を押して歩く。
校門までは徒歩と校則で決まっているから。

「同じクラスのタカハシがな、掃除の時間に学校を抜け出して
 近くにある稲荷神社でお守りとお札をもらってきてくれたんだ」

西の空が鮮血のような赤で染まっていた。
彼氏の提案でお札を頂いたお礼に行こうと
稲荷神社へ寄っていくことになった。
神社に着いた頃にはさらに日は傾き、鎮守の森の中も参道も
濃い闇に包まれている。
赤く塗られた鳥居を自転車を押しながら潜る。
前方…闇の中に真白い狐の像が一対、浮かび上がった。
『ミツル君』は彼氏にくっつきそうなくらい自転車を寄せてくる。
神社って不思議…どこもだけど鳥居を潜った時から、
なにか空気が変わったような感じを受ける…
気温が一気に下がったような…白狐像の間を抜けて拝殿の前まできた。

「じゃあ、ここで俺達待っているから、お前はお礼を言って来い」

「ええ!?ここから僕…一人なの!?」

「お礼を言わなければならないのはお前だけだろ?」

直線距離で3メートル程なんだけど…どこまで臆病…
私達の傍からまったく動こうとしない『ミツル君』。
業を煮やした彼氏は自転車ごと『ミツル君』を蹴り飛ばした。
暗闇の中で盛大に音を立てて転がる『ミツル君』と自転車…

「礼に行くまで蹴るからなマジで!!」

のろのろと起き上がり啜り泣きながら…
『ミツル君』は神社の本殿へ向かって歩き出す。
拝殿の手前には外灯が点いてるし…たった3mなのに…
1メートル進んで立ち止まった『ミツル君』に
拳大の石を拾って投げつける彼氏。
汚い言葉で『ミツル君』を罵り…それでも我慢できなくなったみたいで…
彼氏…自転車のスタンドを立てると『ミツル君』に迫った。
…吹っ飛んだ…蹴られたんだと思う。
わんわん泣いてる『ミツル君』…痛い痛いって…
倒れているところを何度も蹴られているみたい。
やめなよ!って言ったけど聞いてもらえなかった。
私の彼氏ってこんな…暴力振るう人間だったんだ…言葉遣いも汚いし…
なんか、百年の恋も醒めそう…
今後の付き合い考えないと駄目かも…
しばらく彼氏は『ミツル君』を殴る蹴るの暴行を続け…
啜り泣いているから死んじゃいないみたいだけど…
起き上がってくることはなかった。
『ミツル君』に対しては一片の情けをかけようなんて思わないけど…
本気で彼氏には冷めた…

「家まで送るよ」

戻ってきた彼氏、自転車に乗るよう私を促し、
伏した『ミツル君』を、そのまま放置して神社を後にした。
家に着くまで彼氏が話を振ってきても私は言葉を返すことはなかった。
付き合うの終わりにしようって言いそうで…

身も心も重かった。
家の前で別れ際に彼氏がキスしようと迫ってきたのを
力いっぱい拒否った。
知らない人に無理矢理されるみたいで気持ち悪かった。
ほんの数時間前までは…あんなに大好きで
私の全部を与えることも彼氏の全部を受け入れることも
構わないと思ってたのに…
食欲が無いって晩御飯を断り、一番に入浴させてもらった。
それから寝るまで勉強…彼氏のことがあってあまり身に入らなかった。
ベッドへ移動したのは午後11:00前後。
明かりを消し、捲りあげてあった掛け布団を身体に乗せて寝ようとした瞬間、
身体が…誰かに押さえつけられているかのように動かなくなった。
掛け布団の端を掴んで、枕目掛けて後へ倒れこむ途中で…
身体がまるで動かない…完全な静止状態…
明かりひとつ無い部屋で…真っ暗闇の中で…
手足の指先ばかりか声すら…
いや、瞬きも眼球運動すら出来なくなるなんて…
目の表面が乾いていく…
呼吸…呼吸は…
いま、実際に呼吸できているのか分からない。
思考も…頭の中…妙な空疎とした…寒々とした…虚無感…真っ白に近い…
気が遠くなって…
目の前…白い…何?…何かがいる…
白くて…
左右の腕に痛みが走った。
痛みの所為で意識が引き戻される。
私に跨り…誰かが両腕で私を掴んでいる…
像がはっきりしてきた。
服を着ている…和服?
前に袷が無い…着物じゃない…
こんなの…テレビで見たことのある…貴族…
公家が身につけていた衣装に…そっくり…確か、束帯とか言ったっけ…
細かい刺繍が施された衣装の袖から私へと伸びる真っ白い腕…
自ら光を放っているように…闇に浮かび上がる白い毛に覆われ…
私は根源的な恐怖に直面した。
死が目の前にあることを心と身体…魂が認識した。
認識なんて生易しいものではない…目の前にあるのは…死そのもの…
死が私を見つめている。
視界が狭まり…意識が薄れていく中
私は見た…白い毛に覆われた首…
大きく横に張ったえら
そこから先へ伸びていく程、先細る長い顎
イヌ科独特の…頭部…
尖った鼻先…長い髭…赤い瞳…
天を向いて尖る三角の耳…キツネ…
真っ白な毛に覆われたキツネの首が
純白の束帯を纏った胴体の上に乗っていた。
目が合った瞬間、私の意識は弾け飛んで闇の中に消えていった。

目を覚ますと朝になっていた。
布団を掛けてちゃんと寝ていた。
夢…夢…だったの?
両腕がずきりと痛んだ。
布団から抜け出し洗面所へ向かう。
鏡の前でパジャマの上着を脱いで左腕を映した。

「あああああああああああ!?」

部活で鍛えられた筋肉質で可愛くない二の腕が赤いあざになっていた。
腕を上げて確認すれば…血は止まっているけど
数本づつ切り傷が刻まれている。
日焼けした肌に五爪の痕…夢じゃ…夢じゃなかったんだ!
私はその場にしゃがみ込み
わんわんと声を上げて泣いた。
何事かと家族が駆けつけてきたが
それでも構わず私は泣いた。
恐怖の為ではなく
あの白い狐は私を生かしてくれた…
私の生を認めてくれた
流したのは安堵の涙だった。

私は無事だった。
彼氏の事が心配になった。
醒めたとは言え…
傍観者である私があんな目に遭ったということは…
慌てて携帯で連絡を取ろうとしたが繋がらなかった。
仕方なくメールを送っておくことにした。
しかし、返事はなく
昨日を最後に彼氏の生きた姿を見ることは二度と無かった。
もう一人の当事者『ミツル君』が学校内で、
それも授業中に忽然と姿を消した。
金曜日のことだった。
『ミツル君』と同じクラスの女子から聞いた話では
突如カーテンが風にでも煽られたのか『ミツル君』の姿を覆い隠し
元に戻ったときには『ミツル君』の姿がなくなっていたそうだ。
大騒ぎになった。
午後の授業が全て自習となり、
教師達は『ミツル君』を探して学校中を走りまわった。
『コックリさん』で『ミツル君』を虐めたことも露見して
私を含め事件に関わった人間は全て校長室へ呼び出され
教師達から吊るし上げを食らった。

しかし、『ミツル君』発見への糸口は掴めず…
神隠しではないかと…常識では考えられない事態に陥っている…
そう判断した学校は警察へ連絡をすると共に、
常識を超えた案件を専門に取り扱う業者に『ミツル君』捜索を依頼した。
なぜ、私がそれを知っているかというと
訪ねてきたからだ。
学校から依頼を受けてきたという武士の月代みたいに禿げ上がった頭頂…
薄く少ない髪を髷の様に結った老人が。
自分のことは天狗でも仙人でも呼んでくれていいと…
両親もいる前で、私は知っている限りの事を話し
もちろん、あの寝る前に見た人身狐面の…異形のことも…
どうしたら良いかと天狗、仙人を自称する老人に縋った。
老人は…私の誕生日を確認してから
私など知り得ない一柱…神の名を口にした。
印度を起源にしたヒンドゥの神であり、大日如来によって帰依した仏でもあり
神道の稲荷神と習合した荒ぶる女神でもある…と…
源平盛衰記にも登場し、平清盛が崇拝した神でもあったと言う
この地に顕現してはならぬ神が現れた…というのだ。
その因が私にあると男性は言った。
現れることは太古より約定されていた…とも言った。
二人の同級生がその為に死ぬことも…
一体の死霊がその為に消滅することも…
彼氏と共に『コックリさん』事件に加わった生徒も…用済みで…
未来は途切れてしまっているから
事故や病気、自殺等…
確実な死がそれほど時を経ずして訪れるだろうと…
『コックリさん』一連の騒動…全ては
私をあの神社へ呼ぶため…私と神の間に因果を結ぶための…

彼氏も『ミツル君』も只の贄だった…
もちろん私も…人身狐面の女神の本性を身体に宿す為の…
あの学校に居合わせた人間全てが贄だったのかも…
老人は時来たらば仏門へ帰依する手筈はつけておく
しかし、あなたが生きている内に彼の神が目覚めぬことを切に願うと…
最後に、これは当代最高の法力僧が認めた護符である…
肌身離さず持っていなさいと私に託して
家を去っていった。

その次の日、
彼氏と『ミツル君』の遺体が中学校
傍の墓地で土の中から発見されたと連絡があった。
埋葬した時に何層ものビニールで包んでいた為、
何十年経過しても未だ…腐肉を残した女性の遺体と共に…
見つけたのはもちろん、あの髷を結った老人だ。
彼氏と『ミツル君』はビニールの中で
女性の腐った身体に喰らいつき…前後から犯している姿だったと…
幻術をかけられ
女性の死体と酒池肉林を味わわされたのだろうと…
かなり後になって老人から教えられた。

十年が経ち…
当時の校長も担任も亡くなった。
いや、学校自体が消えた。
多くの人間が死んだ。
事件に関わった生徒は私以外…誰も…生きてる者はいない。
ジガバチの卵を産み付けられた芋虫の様な…
いつ目覚めるか分からぬ…
私の身体を食い破って顕現する神を宿した…
事件の唯一の生き残りである
私がこの物語を記す…

2014年06月08日(日) 21:59
ゼロサム ◆2QPJRcoE
投稿広場より掲載

 
  • ゼロサム

    管理人さん、てぃあらさんお手数をおかけしました。
    御配慮ありがとうございます。
    不快になられた方、申し訳ございませんでした。
    感想いただいた方、ありがとうございました。

     
  • てぃあら

    注意書ありがとうございました。お手数おかけしました。

     
  • てぃあら

    そうは言いましても、近年、心的疾患に悩まされている方々が多いことも事実です。

    虐めや暴力に対して、PTSDやトラウマを抱えている方がうっかり読んでしまい辛い思いをされるようなことがあったとしたら、気の毒です。

    そこで、作品の入り口部分に『この作品の中には、軽微な暴力や虐め行為の描写があります』みたいな注意書を入れたらいかがでしょうか?

     
  • 匿名

    てぃあらさんが書いてた、実はミツル君が復讐してるが本当だったら
    ミツル君、女の死体、彼氏→男女男→嬲
    嬲り殺し…なぶりごろし宣言だとしたら怖いな

    十円玉の縦読みギミックで意味不明なとこ、分かる人いる?意味不明で正解?

     
  • 匿名

    不思議というより、すごく怖かったです。・゜・(ノД`)・゜・。

     
  • 匿名

    てぃあらさんに同感。作品を盛り上げるならこのような描写が必要な場合もあり、それをモラル的な観点と絡めると難しくなります。投稿者の人間性を信じるしかない面は確かにあるけどね。

     
  • てぃあら

    解ります。
    確かに、主人公の「私」は、彼氏に嫌われることを怖れるあまり「ミツル君」の虐めに加担する馬鹿な女の子だし、彼氏は、意地悪で暴力的…、登場人物に救われるものが無く、読んでいて苛立ちます。

    作中で、学校に関わる人物が「私」しかいなくなってしまった「殲滅」の報復をしたのは、コックリさんではなく、自分を陥れ、それに協力した傍観者たちにも憎しみを抱いた「ミツル君」なのではないか?とも読み取れます。

    表現に虐めや暴力的な箇所が多々あり、「胸くそ悪い」との感想も理解できます。

    が、作品としては、表現力も豊かですし、面白いものがある、と思いました。

     
  • 匿名

    創作だとしても、胸くそ悪い[i:63905]

     
  • てぃあら

    ゼロサムさん、キャラメル色の髪の萌え幽霊さんのお話しとは、これまたガラッと作風も内容も違う作品で新鮮でした。

    にしても、凄いお話しですね。
    「彼氏」、性格悪すぎ、嫌なヤツですね。悪趣味です、酷い…コイツは自業自得として……「ミツル君」が可哀想でした。

    そして…誰も…いなくなった……。まさに殲滅……。
    終わり方がいいですね。

     

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