【心温まる霊】サラバ勇者よ…①/HN:ロビンM

サラバ勇者よ…/HN:ロビンM

やあロビンミッシェルだ。

もしかすると今回の話は涙なくして読めないかも知れない。
涙腺の弱い君はすまんがハンカチを用意してからこの怪談を読み進めて貰えると有難い。

日常のストレスが溜まりに溜まった俺は、久しぶりに雑居ビルの地下にある行きつけのBAR「チャーリー」の扉を開いた。

ズッチャ♪ ズッズチャ♪ズッチャ♪ズッズチャ♪♪

南国を思わせる甘い香りが鼻を突き、部屋の四隅に設置されたBOSEのスピーカーからは、ウィルソンピケットの「ベア・フッティン」が軽快なリズムで流れている。

カウンターだけの狭い店内には若いカップルと背広姿のリーマン風の男が一人座っているだけで今日も店はヒマそうだ。

「あら~!ロビちゃんじゃない?久しぶりね~♪♪ 」

カウンターの奥からこの店のオーナーであるババ姉が声をかけてきた。

「おいババ姉!ロビちゃんはやめろっていつも言ってんだろ!」

「あら、ごめんなさいねウフフ♪♪」

ババ姉の見た目はオールバックに口髭を蓄えた岩城滉一風のダンディーな親父といった処だが、中身は完全に女、所謂「オネエ」である。

「ささ、座ってロビちゃん!いつものでいいかしら?」

「……チッ!」

ババ姉は俺の返事も聞かずにアーリーのボトルの栓を開け、冷えたグラスに並々と注いだ。

俺は冒頭でも触れた様に、気分が落ち込んだりストレスが溜まったりした時によくこの店を利用する。

気分を落ち着かせてくれる俺好みのレトロな雰囲気の店内と、ババ姉の明る過ぎるトーク。

店に流れる音楽は1960年代のソウルMUSICを中心とした黒人音楽で、その魂の歌声が俺の疲れた心を丸々癒してくれるのだ。

もしかすると俺の中に四分の一流れる黒人の血がそうさせるのかも知れないが…

いつもの様にババ姉は他の客そっちのけで、店の近況や「美」についてのウンチクを聞いてもいないのにアレコレと語り始めた。



ふと気がつくと俺はカウンターに突っ伏した状態で寝てしまっていた。

涎を拭いながら頭を上げると、店内には俺一人を残して他に誰も居ないようである。

いつの間にか音楽も止み、灯りと言えばカウンターの中にあるボトル棚の間接照明と、トイレ前にボンヤリと光る非常灯しか点いておらず、店は閉店後の様に暗く静まり返っていた。

「やべ、いつの間に?」

時間を見ようとスマホを取り出してみたがフル充の筈の電源が何故か落ちており、何度ボタンを押しても起動する気配はない。

何があったのかガンガンする頭を叩きながら必死で思い出すも、二杯目のロックグラスを空にした辺りからの記憶が全く無かった。

「疲れてたんかな?二杯ぐらいで寝ちまうなんて…」

三度程カウンター奥に向かってババ姉の名を呼んでみたが、彼女?からの返事は無かった。

仕方なく五千円札を一枚グラスとコースターの間に挟み、ふらつく足取りで店のドアを開けた。

すると突然目の前でカメラのフラッシュを焚かれた様な閃光が走り、思わず目を瞑ってしまった。

ゆっくりと目を開けるとそこはいつものポスターだらけの薄暗い階段で、周りには誰の姿も無かった。

チカチカした目を擦りながら階段を見上げると、柔らかな明るい朝の日差しが入り口に差していた。

「マジかよ…もう朝じゃねぇか畜生!!」

俺は随分長い間カウンターで寝てしまっていたようだ。しかしいくら酒が強くないとはいえ、たった二杯ぐらいで寝てしまうのはどう考えてもおかしい。

「チッ、ババ姉の野郎、酒に何か入れやがったな…」

二日酔いの様な頭痛に耐えながら重い足取りで階段を登っていると、カラン♪ と下から店のドアが開く鈴の音がした。

ババ姉かと思い、キッ!と睨みつけてやったが、ドアの隙間から覗く顔はババ姉の様なオッサン顔では無く年端もいかない幼い少女の顔だった。

二十センチ程開いたドアの隙間から顔の左半分だけを覗かせたその白い顔は、見開いた真ん丸な目を瞬きする事なく俺を見上げていた。

「あれ?あんなガキさっきは絶対いなかったよな…」

俺は何かその少女の顔に懐かしい感覚を覚えたが、それがどこの誰なのか思い出す事が出来ない。

すると暫くしてカラン♪という音と共に店のドアは閉じた。

後を追うように階段を駆け降りてドアを開けたが、店の中は先程同様頼りない灯りがボンヤリと店内を照らすだけで人の気配は無い。

一応カウンター内、トイレに至るまで確認したみたがやはり人の姿は何処にも無かった。

「…俺まだ寝ぼけてんかな?」

するとまた激しく頭蓋骨を揺らす様な痛みが襲ってきた。

仕方なく今一度階段を上がろうと足を踏み出した時、頭上からか細い声が聞こえた。

『 コッチだよ~ 』

見上げると階段上に先程のあの子供が手招きをしながら立っていた。しかしその体の右半分は入り口の壁に隠れていてまたよく見えない。

『 はやく~ 』

少女はそう言うと外へ向かって走り出した。俺は無意識に彼女の後を追って駆け出していた。

雑居ビルを出て初めて気付いたのだが何かがいつもと違っていた。全くの無風状態で、物凄い湿気というか空気自体がどんよりと粘っこく重たい感じがする。

腕時計はしない主義なので正確な時間は分からないが、朝の出勤時間にしては辺りは妙にシーンと静まり返っている。道路にも車の往来は無く、近くを走っている筈の電車の音等も全く聞こえて来ない。

いや、そんな事よりまず人が一人も歩いていないのがおかしい。いつもゴミを漁っているカラスも鳩も雀もいない。

言ってしまえば街全体に生命感がまるで無い。駅まで二分とかからない場所でそれはまずあり得ない事だった。

「なんだ夢かよ… 」

俺は苦笑いしながらその場に座り込み、一先ず胸ポケットからマルボロの箱を取り出した。

先日妹の美菜に誕生日プレゼントで貰った高級ジッポに火をつけようとして、咥えていた煙草を漫画の様にポトリと落としてしまった。

雑居ビルの隣りにある立体駐車場の柱の陰から先程の少女が顔半分を覗かせて、また此方に向かってクルクルと手招きしていたのだ。

いやそれ以上に驚いたのは少女の足元に居る者だった。見た事のある不細工な犬がチョコンとお座りしている。

「あれ?ま、マモルか?」

今や老衰でベッドから起き上がる事すら困難になってしまった愛犬マモルにソックリな犬(パグ犬)が、少女の足元から間の抜けた顔で俺を見つめている。

距離にして二十m程、俺は目を細めてその不細工犬を凝視した。

あの顔中に刻まれた深いシワ、黒い毛並みに不自然に右の前脚だけ白い所、何よりあの異常な腹のたるみ、間違いない!

気付けば俺はマモルの名を叫びながら走り出していた。

しかしあと少しという所で何かに躓き顔から転倒してしまい、顔面は小石だらけになってしまった。

「痛っ!!」

柱を見ると、少女とマモルの姿は無い。

「くそ!!なんだよコレ!夢の癖にメチャクチャ痛えじゃねぇかよ畜生!!」

俺は擦りむいた顔と右膝を抑えながら辺りをグルリと見回した。すると三十m程先の信号の側にまた二人は立っていた。

少女はまた右半分を電柱に隠してクルクルと手招きしている。足元にはマモルがいる。

血が滲む膝の痛みに耐えながら足を引き摺って追いかけるが、また寸前の所で二人は姿を消し俺は転倒。

今度は左腕の皿をやった。物凄い激痛が俺の脳へと危険信号を送る。

「だから何でこんなに痛えんだよ夢のクセによ!!」

誰に向けていいのか分からない痛みと怒りに、俺は半ば半ベソを掻きながら誰も居ない街に向かって叫んでいた。

ズキズキと痛む右足をかばいながら、今度は交番の隅から手招きしている少女の元へと急いだ。

見慣れた建物、見慣れた街にも関わらずやはりこの時も人の気配は全く感じられず、太陽の高さからして午前九時は回っている筈なのだが全ての店のシャッターは閉まり、街は無人化、何の音も無い完全なもぬけの殻となっている。

『はやくはやく、こっちだよ~』

少女の声と俺の足音だけが周りの建物にエコーする。

もしかしてこの子は俺を何処かへと誘導しているのだろうか?まるで俺を嘲笑うかの様に手を振る少女は何度も姿を消してはまた距離を取って現れた。

俺はいい加減に気付いていた。

少女の正体は幼い頃の夏美だと…

夏美とは俺の五つ下の双子の妹で、姉の方にあたる。

彼女は気も強いが霊感も強い。

俺は今までに何度となく霊的なピンチに立たされた事があったが、その都度夏美に助けて貰った事は事実だ。そこは認める。

だがしかし、兎に角夏美は生意気だ。俺を兄として尊敬していないどころか馬鹿にしている節がある。

どうも俺の生き方が何一つ気に入らないらしい…

昔に一度本気の兄弟喧嘩をした事があるが、空手をやっているせいか奴は喧嘩も半端なく強く、油断している隙に上段蹴りを二発、立て続けに後頭部にマトモに食らって恥ずかしながら気を失ってしまった事もあったかな?…ぐう…

そんな夏美がまたクネクネと手招きしながら俺を挑発している。

しかも子供の姿で、マモルと共に、全く意味が分からん!!

「て、てめぇら、いい加減にしろよ!!」

遂に俺の怒りは頂点に達した。この二人は夢の中でも間違い無く俺を馬鹿にしているのだ。

『はやく、はやくこっちだよ~』

「畜生!!」

俺は近くに倒れていたママチャリに跨り、膝の痛みも忘れて猛然と二人を追いかけた。

しかし、経験のある人なら分かって貰えると思うが、夢の中というのは自分の思い描いているスピードが中々出せないパターンがある。

正に今回がそれだった。

ペダルを漕いでも漕いでもゆっくりとしか前に進まない。その間にも夏美達は俺を嘲笑いながら瞬間移動を繰り返し、一定の距離を保ちながら俺を何処かへと誘導している。

「はぁ、はぁ、ま、待て!!」

運動不足の俺が息を上げるのにそう時間はかからなかった。

どこかの公園内に入った途端、低い段差にハンドルを取られて自転車ごとまた頭から転倒してしまった。

「…痛ええええ!!」

今度は顎をやった。まるで井岡のアッパーをまともに食らった様な洒落にならない衝撃が再度脳を揺らす。

「だから夢なのになんで……」

もう起き上がる事すら出来ない俺は、ゴロンと仰向けになり空を見上げた。

すると雲一つ無い青空が広がり、視界の隅でマモルを抱いた夏美が俺を見下ろしていた。

「…な、な…つ…み… ?」

幼い夏美は困った表情を浮かべながら俺に顔を近づけてきた。

『 もう!あともうちょっとだったのにな… 』

「な、何がだ?」

『 おうちまでだよ、兄貴ちゃんとマモルにお別れ言わなくていいの?』

「…おわかれ?」

夏美に抱かれたマモルを見ると、その姿は半分透き通っており、徐々にではあるがその色を失っていた。

「…マモル!!」

俺はガバリと起き上がり辺りを見回した。

すると今いるその公園は、俺の実家から目と鼻の先にあるガキの頃によく遊んだ公園だった。

そこから僅かに見える実家の屋根を見ると、家全体を覆う様にして黒い靄が立ち込めていた。

夏美の腕にはもう既にマモルの姿は無い。

「 マモルーーーー!!!」

俺は痛いのも忘れて実家へと走った。しかし相変わらず夢特有のスローモーションで思うように足が前に進まない。

「 マモルー!!頼む!まだ逝くなーー!!」

マモルの死期が近い事は俺も感じていた。最近は仕事が忙しく、マモルがいる実家に余り帰れていない事が気にはなっていた。

だが、弱りきっているマモルを見たく無かったというのも正直あるのかも知れない。

寝たきりのマモル…

どうしても俺に懐かないマモル…

俺を馬鹿にするマモル…

散歩中、俺の時だけリードを引っ張り倒すマモル…

たまに喋るマモル…

食べ過ぎで太ったマモル…

ずっとフガフガ言って、寝てる時もずっとフガフガ言ってるマモル…

可愛いマモル…

優しいマモル…

実家の玄関を開けると、強烈な線香の香りがした。

足元には溢れんばかりの沢山の靴が所狭しと並んでいる。

一階一番奥の和室から読経の様な唸りが微かに聞こえている。

「…マモル…お前はもう死んじまったのか?」

俺はフラフラと靴を脱ぐのも忘れて、和室を目指し廊下を歩いた。

ミシ、ミシ、ミシ、

敷地はデカイが築四十年にもなるこの家の廊下は、老朽化が進んでいるのか歩く度に嫌な音が鳴る。

近づくに連れ、段々と読経の声が大きくなってきた。

そして俺は何の躊躇いもなくスゥっと和室の襖を開けた。

すると十六畳ある部屋を黒い喪服の背中が埋めていた。

そして一番前例に座る二人の坊主の前には、簡易的ではあるが小さな祭壇が儲けられ、中央部分に一枚の写真が立てられていた。

「ま、マモルーーーー!!!」

顔から涙と鼻水が同時に吹き出し、俺の両足は力が抜けてしまいその場に膝を着いてしまった。

あれはマモルが三歳の時だったろうか? 親父もまだ健在だったあの日。

家族全員で出掛けた海水浴。

暑さに弱いマモルはずっと日傘の中で母親に抱かれていた。

「俺も泳ぎてーよー!」と言わんばかりに海を見つめるマモルを激写した一枚。

一番可愛い時のマモル…

まだ俺に抱かれてもそれ程嫌がらなかった時代のマモルの一枚が、祭壇に飾られていた。

「なんで…何で逝っちまったんだよマモルーー!!!」

『 寿命だよバカ! 』

突然、前のめりに塞ぎ込む俺の耳元で声がした。

「…えっ?!」

鼻水と涙でグショグショになった顔を拭いながらそちらを見ると、半透明のマモルがお座りしていた。

「…ま、マモルか?!」

まだ涙で視界がボヤけているせいか、マモルが二重に見える。

『 そうだよ夏っちゃんがお前を呼ばなかったらボクの死に目にも遭えない所だったんだよ…ほら感謝しねぇと! 』

「…えっ?!」

マモルが前を見ろと合図を送った瞬間、坊主の読経は止み、喪服の連中も一瞬で姿を消した。

そしてマモルはトコトコと歩いて、祭壇の前に立っている幼い夏美の足元に静かに腰を降ろした。

「ま、マモル…」

『 ねぇ…兄貴… もうすぐマモルが死んじゃうんだよ…はやくかえってきてあげてね… 』

夏美はマモルの頭を撫でながら、とても悲しい表情を浮かべそう俺に言った。

「わ、分かった!すぐに帰るよ!」

くあぁあぁあああ…

マモルは俺の言葉にかぶす様に、物凄い欠伸をしながら夏美の足をカリカリやった。

「…………… 」

幼い夏美は優しくマモルを抱き抱えると祭壇に向かって歩き出し、フゥと二人の姿は消えた。

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