【不思議】俺とエプロンとキッチンの女/HN:ゼロサム

俺とエプロンとキッチンの女/HN:ゼロサム

レースのフリルが幾重に連なるその奥…
ふるふる…ぷるぷる
乳白色したマシュマロみたいな尻が見え隠れしている。

歌が聞こえた。
美しいハミング…
『いつか王子様が』…か…
Some Day My Prince Will Come…
古い…ディ●ニー映画『白雪姫』の挿入歌…

素肌に純白のエプロン一枚を纏っただけの危うい姿で、
キャラメル色の頭に、これまた純白の三角巾をまるで猫の耳みたいに結び
狭いキッチンを行ったり来たりしている。

「なんで…エプロン一枚なんだ…」

キッチンの入り口…その角から覗き込んでいる俺の後ろに答えはあった。
洗面所で洗濯機が稼働中…服から何から洗っちまったのか…
あのエプロンは確か…俺の彼女がマーキングだとか言って置いてったものだ。
着るものはないかと家捜しした結果、見つけたのだろう。
どこの姫君が着用するのか…いや、そもそも姫は料理しないか…
用途にはまったく関係のない、
無駄な装飾が施されたドレスみたいなエプロン…
あれを着た彼女…張り切ってキッチンに立ったのだが…
油が少々撥ねただけで気分を害し、途中で料理を放棄しやがって…
あれ以来、二度と着用することなく
クリーニングへ出した後、クローゼットに入れっ放しだった。

熱を加えた昆布と鰹節の香りが立ち上る。
ガスコンロ…青い炎の上に片手鍋…
脂が僅かに焦げる匂い…魚を焼いているのかグリルも動いている。
冷蔵庫に…甘塩鮭があったな…
ひとつ…不可解な…熱されて香る僅かな甘み……丸みのある…火の匂いか…
何を燃やしている…
ガラスが割れるような音…炭か…七輪を持ち出したのか。

破滅的な格好をしている割に…なかなかやるぞ、あの女…
さっきから休むことなく、どこに何があるかも分からない、
慣れない他人の家のキッチンでテキパキと仕事している。

卵を割った…白身と黄身に分けた。
別々に攪拌する…淡雪をする気か…黄身も何かするな…
ということは厚焼き玉子を作るか…オムレツ…
厚焼き玉子だ…魚を焼いていたということは大根おろしが付く…
魚をグリルで焼き…七輪で作るとするなら
絶対に厚焼き玉子だ…冷凍のバナメイ海老があった…すり身にして混ぜるか…
もし、それだけ凝るというなら…
椀物は…味噌汁とは限らない…合わせ出汁…
焼き魚と卵焼き…これにあと一品…菜があるとすれば…
確か、蓮根が残ってた筈…すり流しもあり得る!?

男の一人暮らし…冷蔵庫の中など、たかが知れている。
限られた食材で美味いものを作るには…どうするか…
あの幽霊が何を作るか…
すごく興味がある。
昨夜、俺をマウントポジションからシャワーヘッドで滅多打ち…
1999.1.4…橋本を半殺しにした小川みたいな奴が
何を作るのか…

月曜日、出勤途中の駅前通りで、俺はあの女に会った。
ティッシュ配りに混じって立つ彼女から渡された小さな包み。
その夜、怪異は起きた。
熟睡していた俺…異様な物音に目が覚めた…
俺の耳にシャワーを使う…床を叩く水音…浴室から聞こえてくる。
侵入者…忍び足で向かった洗面所…その奥の浴室…
水音と共に聞こえてくる女の歌声…
『MyFavoriteThings』…私のお気に入り…
ガラス越しに見えるシルエット…
ドアを僅かに開けて中を覗く
立ち上る湯気…それに負けないくらい日本人離れした白い肌…
ふくらはぎ…ふともも…目の前に現れた見事な脚線…
肉付きがあまり良いとは云えない腰…
水を吸って裸身に絡みつくキャラメル色の長い髪…
掌で身体についた泡を落とす…あの女が身体を洗っていた。
そして、出歯亀になっていた俺を見つけた彼女は
質量を持った暴力的な悲鳴をあげて俺を廊下まで吹き飛ばし…
そして、浴室から忽然と姿を消した。
あの女はこの世のものではない…
このアパートに居座って五日…
風呂に入り、洗濯をし、
今朝は料理…何か言ってやりたいが…
昨夜…噛みつ…食われかけたからな…
風呂場であの女にボコボコニされたし…
いくらかでも元は取り返したい。
料理に勤しむエプロン姿…むき出しの白い背中に形良くまとまった小さな尻…
俺は自動追尾機能を搭載した監視カメラと化し、
女の行動をしばらく見守ることにした。

彼女の口ずさむ曲は
ガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』…
クラシックとジャズが融合した美しくも若々しい躍動感ある旋律…
出来上がった料理を皿に乗せ
女はテーブルの上へ並べていく。

優雅で愛らしいその姿
腰に届くほど長いキャラメル色の髪…
横に突き出た子猫の耳みたいに三角巾を頭へ結び
前かがみになると胸当てが重力に従い…大きな隙間を作った。
見えた!これが天佑とでも言うものだろうか。
資本主義の神が我に手を差し伸べてくれた!
白い染みひとつ無い肌…薄い胸の先…桜色の小さな蕾のようなふたつの突起…
俺の視神経…いや、全神経がそこへ集中する。
ターゲットキャラメル色の髪した女、エプロン…との間に出来た…
仮定布の厚みmax1mm12時方向 俯角3度 距離30000…
弾速299792458m/s許容範囲誤差0.5mm未満…
つまり、俺は我を忘れた。

「あら?」

不意に、こちらへ女は顔を向けた。
垂れた前髪の隙間から…長い睫毛…赤い瞳…
俺の視線がどこに向けられているのかを…
はだけたエプロンの前…下着をつけていない…裸の胸…
はにかんだ蕩けるような笑顔が俄かに掻き曇り、わなわなと震えだす。
自らの手で抱くように身体を隠し…

「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!」

やべ!見つかった!!
じっくりと見るために顔を出しすぎた。
踵を返して逃げにかかる。

「行け!ファンネルたち!!」

突然、俺の頬が切れた。
料理が乗ったままの皿が砲弾の様に玄関のドアに当たって爆散する。
カッ!カッ!カッ!と甲高い音をさせ壁に箸が突き立つ。
寝室の扉まであと少し!
ドアノブをつかんで開き、そこへ身を滑り込ませて楯代わりにした。
危なかった!
刹那の差でドアを叩くすさまじい音が…
ここは浅間山荘か、もしくはシリアの地方都市か!?
次々と襲来する食器類!!
それとも内戦時のサラエボか、イスラエルのヨルダン川西岸か…
ガンガンと激しくドアが鳴り、衝撃が身体に重く響く。
彼女と買ったスージー・クーパーのカップが砕けて床に落ちている。
益子で陶芸体験をした時に作った長石釉の志野茶碗もどきも割れた。
鉄釉の縁がなんとも言えぬ味わいで気に入ってた唐津の猪口も割れた。
春のパン祭りでもらった白い皿も割れた。
ケサンの攻防戦がピクニックに思える有様だ。

「これはニュータイプ攻撃じゃなくてポルターガイスト現象だろうが!?」

食器棚にあった全てが自ら生命を持ったが如く浮き上がり、
ドアを楯にする俺へ向って飛んでくる!
フライパンや鍋…お玉に包丁、トングにタナーに泡立て器…
最後は電気炊飯器まで…
まさか、本気で俺を殺す気か!?
燃え盛る炎を背景にして
キャラメル色の長い髪が翻る…両手に出刃包丁をもった女の姿が
脳裏に浮かび上がった。
総合格闘技に加えてポルターガイストすら操るって
どんな幽霊だよ!?

結局、あの女は俺にとどめを刺しにこなかった。
日が高く昇ったからか…いつの間にか消えてしまっていた。

おわり

2014年07月11日(金)
ゼロサム ◆2QPJRcoE
投稿広場より掲載

 
  • 紫姫

    読んでる間 腹ペコに なり 頭の中 「どうして♪ お腹が、減るのかな♪」 あの 童謡の歌が、リピート♪した。 せっかく作った料理が… まさか 武器に変身して 彼(主人公)を 攻撃 かなりの ツン・デレ? な 幽霊 (笑) 失礼な事を お訊きします。 投稿者様は、 もしかして… こ〇さん ですか? ある方面の方が、こ〇さんの 別のハンネだと…。 文章の雰囲気 や 料理の描かれ方等 共通有ります♪ 最初 読んだ時は、気づかなかった。 今 読んだら 「あっ~」 と 思います♪ まぁ 紫姫は、どちらも ファンなのですし♪ ハンネで 作風分けてる 作家& 漫画家さんも 存在するので… 固定 イメージが、付き 過ぎると 新たな作品&ジャンル開拓 しづらい等 色々な 都合が、あるから 何かを 創る職業の方達は、大変ですね。

     
  • 紫姫

    速く 続き が、知りたい 期待して ます。 ニュタイプ と 言えば- アムロ = レイ 名台詞 アムロ 行きます。 ブライトさん 親にも ぶたれた 事 なかったのに-

     

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