【怖い話】苦狂日記 叫びの詩⑥/HN:忍冬

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彼の部屋の前まで来ると、部屋の中から僅かだが物音が聞こえた。
帰って来てるのだろうか?
呼び鈴を鳴らしてみた。
だが返事もなければ、物音も消えてしまった…
何回か呼び鈴を鳴らし、ドアを叩いて名前を呼んでみた。
一向に返事も何もない…
さっきまで物音が聞こえ、気配もあったのだが…

それでもしつこくドアを叩き、名前を呼んでみた。
すると五月蝿かったのか、隣の部屋から中年の女性が玄関ドアを少し開け、怪訝そうにこちらを見つめてきた…

「あ、すみません…五月蝿かったですか?」

「村瀬さんの友達かい?」

私は会社の先輩だったと説明し、彼と連絡が取れない為、心配になり訪ねたという事を伝えた。
すると信用したのか、それともただの話好きなのか色々話をしてくれた…

「村瀬さんなら、3日位前に見たわよ、お姉さんと一緒だったわ」

「お姉さん?確か彼は一人っ子ですよ」

「そうなの?30前後の綺麗な人が体を支えながら付き添ってたわよ」

「体を支えながら?」

「なんか村瀬さんがゲッソリしてフラフラしながら、その女の人に付き添われて歩いてたのよ。
それでいつも会ったら挨拶してたから、大丈夫?って声をかけたの。
そしたらその女の人が弟は原因不明の病気になってしまって、これから病院に連れて行くんですって言ってたわ」

「そう…ですか…」

「でも入院とかはしないで部屋に帰ってきてると思うわよ…
たまに村瀬さんの部屋から物音や笑い声とか聞こえるから」

「そうなんですか…」

「でも具合悪くて出てこれないんじゃないかしら?
別人のようにゲッソリしてたから…」

「そうですか…」

私はその女性にお礼を言うと、自分の車に戻り、そのまま自宅に帰った。

多分姉と名乗ったのは継母ではないだろうか…
何故姉と嘘をついたのか解らないが、村瀬とは年齢が8つしか離れていないため、継母と名乗るより姉と名乗った方が面倒くさくないと思ったのだろう…

しかし取り敢えず村瀬が生きてる事は確認出来た。
でもこれ以上は何も出来なかった…
本当に彼が病気になっているのなら、何回も訪ねるのは迷惑だろうし…
逆に継母に何らかの薬を飲まされ、病人のような状態になっていたとしても、何も証拠はない。

どうすれば村瀬を助ける事が出来るだろう?
彼から何らかの形で連絡があれば良いのだが…

それからも私は日記を読み続けていった。
何か継母とアーちゃんが同一人物という確信を得れる事や、村瀬を助ける事が出来るヒントがあればいいと思いながらも…

―井上陽子の日記―

平成23年9月17日 (土)

電話が停まってしまった…
何故だろう…
アーちゃんどうなってるの?
お金は全部あなたに任せてるのに…
教会の人も来ないし…
食料ももうないし、薬もない
頼れる人はアーちゃんしかいない…
体も動かない…助けて…

平成23年9月19日 (月)

残ったお菓子と水はなんとか夏美の部屋に置いてきました。
夏美は死んだように寝ていました…
薬はもうありません…
私はお茶しか飲んでいません
お腹がすきました
家中食料を探してみましたが、食べれそうな物はほとんどありません…
アーちゃん何をやっているの?
体が痛くて動けません…

平成23年9月25日 (日)

お腹がすきました…
もうしばらくまともな物を食べていません…
夏美は大丈夫でしょうか?
私達はどうなるのでしょう…
体が痛くて動けません
アーちゃんが来なくなってどのくらいが経つでしょう…
全身が痛くてしょうがありません
頭もグルグルしていておかしいです
お風呂もしばらく入っていません…
誰かに助けを求めたくても呼べません…
助けてください
どうすれば良いのでしょう…

『もう何も見えない…
このまま闇に溶けていけたら楽なのに…
軋む体を温めるものはもう何もなくて…
淡い夢さえ見えなくて
果てる事も許されず
モノクロの部屋で枯れた花を握っている
擦り切れた人形のように願いは枯れて声にできなくて…
風化した機械のように思いはひび割れて…
バラバラと音を立てて崩れてゆく…
明けない空の下 私はこの体を引き摺って彷徨い続ける…
まだ息ができるから…
まだ動かす事ができるから…』

平成23年10月4日 (火)

窓から人が見ています
誰だか分かりません
助けてくださいと言うと消えてしまいます。
朝からずっとです…
怖いです…

・・・・・・・・・・・・・・

ついに究極の状態に追い込まれた事が記されてある。
金も食料もない状態というのは、かなりのストレスと不安を感じただろう…
本当に可哀想だ、日記の続きを読むのが辛くなってくる…

しかしこうなる前に、電話が繋がるうちに警察等に助けを求めれば良かったのに…
それだけアーちゃんを信じていたか、薬のせいでまともな考えができなかったか…
どちらにしても可哀想なものだ…

そして私は日記を読み続けようとした時、変な事に気が付いた。
10月5日 (水)の日記がないのだ。
正確には10月5日の日付はあるのだか、内容がないのだ。

デジカメで撮ってきたデータなので分かり難かったが…
よく見ると内容の部分だけ、3~4行位ハサミか何かで切り取られていて、次の次のページに書かれている日記の内容が見える状態なのだ…

切り取られた10月5日の裏側が気になり、次のページに書かれている日記を見てみた。
すると…10月9日 (日)の日付の部分だけが切り取られなくなっていた…

これはどういう事なのか…
何故切り取ったのか…
少なくとも10月9日の日記を書いた後に切り取った事になる…
わざわざ10月9日の日付の部分を、どうにかする為に切り取った訳ではないだろう…
という事は10月5日の内容の部分をどうにかしたくて切り取ったのだろうか…

しばらく考えていると、ある事を思い出した。
それは親子の遺体が発見された時に枕元にあった遺書の事だ。

確か村瀬はこう言っていた。
遺書と思われる物はノートか何かの切れ端で、『疲れました、夏美を楽にしてあげたい、私も楽になりたい』と一行だけ書いてあり、裏には日付が記してあったと…

この遺書は10月5日の日記の内容と、次のページに記してあった10月9日の日付ではなかったのではないだろうか…
もしそうなら、遺書に使う為に切り取った事になる…

多分切り取ったのは陽子以外の人物だろう…
もし陽子が遺書に使うなら、自分で新しく書いた方が手っ取り早いし、他の者が遺書のように見せる為に使ったのなら、筆跡も陽子のものなのだから、もし筆跡鑑定されても怪しまれる事もない…

という事はやはり陽子は自殺ではないような気がする…

私はそのまま日記を読み進めた…

―井上陽子の日記―

平成23年10月8日 (土)

もう動けません
日記を書くのも辛くなってきました
このまま私達は死ぬのでしょうか?
助けてください
夏美の笑い声が聞こえます
何がそんなに可笑しいのでしょうか?

平成23年10月10日 (月)

夏美、こんなお母さんを許してください
何もしてあげられないお母さんでした
私が死んでも夏美は助かってほしい。

平成23年10月11日 (火)

夏美の笑い声が聞こえます
何か食べているのでしょうか?
もう体が動きません
心配です

平成23年10月12日 (水)

今日も夏美は笑っています
何がそんなに楽しいのか解りません
笑い声が四方八方から聞こえます
夏美が沢山いるように感じます

平成23年10月14日 (金)

最後の水を飲みました
もう部屋には食べる物も、飲める物もありません。
水道をひねればまだ水は出るでしょうが、もう動けません
夏美は生きてるのでしょうか?
声は聞こえなくなりました
寝てるだけならいいのですが
心配です

・・・・・・・・・・・・・・

最後まで娘の夏美を心配してる事が記されていた。
そして所々に夏美に対して謝罪の言葉を残していた…
最後まで母親として娘が気になったのだろう…
しかし、よく夏美の笑い声が聞こえると書いてあるが、これは本当に聞こえていたのだろうか?
それともただの幻聴なのか?
第一この時点で夏美が生きていたかも判らない…

―井上陽子の日記―

平成23年10月16日 (日)

今日夏美が楽しく踊ってる夢を見ました
私も一緒に笑いながら踊った
楽しかった
本当に楽しかった

・・・・・・・・・・・・・・

これが最後の日記となっていた。
10月17日から死亡するまで日記も書けず、動く事もできず、横になり続けていたのではないだろうか?

こんな状態で自ら首を吊り、死を選んだとは到底思えなかった。
やはり親子が死亡した後に、誰かがこの家に入り、自殺に見せかけたのではないだろうか?
この家に自由に出入りできるのは多分アーちゃんだと思うが…

そして村瀬が言ってた通り、アーちゃんと継母は同一人物で間違いないだろうと思う。

この日記が遺体と一緒に発見されていれば、多分簡単に無理心中として処理されなかっただろうし…
第一継母がこの日記を持っていた事がなにより怪しい…

目張りの件も日記には記されていなかった。
多分親子が死亡した後に何者かが目張りをしたのだろう…
腐臭を漏れにくくし、遺体の発見を遅らせる為だろうと思うが…

早く発見されて解剖なんてされれば、一発で薬物反応や他の事まで色々発見されてしまう…
そうしたら、面倒くさくなってしまうだろう…

骨だけになっても調べ方によれば薬物反応は出るらしいが…
自殺に見せかければ、詳しくは調べないと思ったのだろう。

そして、思った通り自殺で処理された。

あと気になったのが日記には、お金がありませんと書かれていたが、村瀬の話だと遺体が発見された寝室には数万円の現金が発見されている。
これも謎だ…

しかし何故、アーちゃんと継母が同一人物ならば、この日記を処分しなかったのだろう?
こんな日記を持っていたら、怪しまれる事は判っているだろうし…
何か処分できなかった理由でもあったのだろうか?

どっちにしろ今となっては、もうこの日記が継母が所持してたという証拠は何もない…
私が村瀬の実家にこの日記があるのを直接見たわけじゃないし、日記のデータを持ってきた村瀬があんな状態じゃ、もうどうしようもないだろう。
警察が直接、村瀬の実家で日記を発見すれば話は別だが…
今はもうそこまでもっていく事も難しいだろう。

村瀬に相談に乗ってくれと言われた時点で、警察に行かせていれば、こんな事にはならなかったかもしれない…
村瀬も無事で今でも一緒に働いていたかもしれない…
考えれば考えるほど、後悔の念に駆られてしまうだけだった…

◇◇◇◇

それからたまに村瀬のアパートには行ってみたが結局1度も会う事はなかった…
だが村瀬が会社を辞めて、1ヶ月以上経った頃だろうか…
彼について話を聞く事ができた。

それは私が、何気なく村瀬のアパートの前を通った時の事。
村瀬の部屋の隣の住人、あの中年の女性がコンビニの袋を持ってアパートの前にいたのだ。

私は何か話が聞けるかなと思い、車を降りてその女性に声をかけてみた。

すると、一瞬誰?みたいな顔をされたが、直ぐに「確か村瀬さんの会社の方でしたっけ?」と思い出してくれたみたいだった。

私はそうですと言おうとしたが、その前に女性の方から一方的に話をしてきた…

「村瀬さんなら引っ越ししたみたいよ。
3日位前に引っ越し業者が村瀬さんの部屋から荷物を運び出してたから…
実家にでも帰ったんじゃない?」

「そうなんですか?」

「多分ね…
だって村瀬さん相当体調悪かったみたいだから…
ずっと部屋に引き込もってたみたいだったけど…
たまに村瀬さんの部屋から苦しそうな呻き声が聞こえてきてたわ…
あと気味が悪かったんだけど、たまに奇声を発したり、一人で大笑いしてる声も聞こえるのよ…
本当に気持ち悪かったわ…
あとたまにお姉さんみたいのが来てたみたいよ。
女の人の怒鳴り声も聞こえてくる時があったから…
お姉さんも大変よねぇ…」

「イヤ、だからお姉さんではなくて…」

「でも居なくなってくれて内心ホッとしたわ、夜中とかに奇声とか上げられたらたまったもんじゃないわよ…
気の毒だと思うけど、まるで精神病患者みたいな感じだったし…
あのまま住まわれたら、隣に住んでる私まで気が狂っちゃうわよ」

「そう…ですか…」

私は話の内容に驚愕し、しばらく呆然としてしまっていた…

「私これからお昼食べるところだったから、部屋に帰ってもいいかしら?」

「あ、すいませんどうぞ」

私は女性にお礼を言って、一応村瀬の部屋の前まで行ってみた。

するとやはり引っ越ししたみたいで、玄関ドアの横に置いてあった彼の私物が綺麗さっぱり無くなっていた。

私は自分の車に戻り、ダメ元で村瀬の携帯に電話をかけてみた…
すると、現在使われておりませんというアナウンスが返ってきた。
どうやら携帯も解約したみたいだった…
結局村瀬がセミナーに参加してから今まで一度も連絡はなかった…

今村瀬は何をやっているのだろう?
元気に生活してるのだろうか?
それすらも今では分からない…

そしてそれから数日が経った頃…
私は夜中に突然激しい痙攣に襲われ、救急車で病院に搬送された。

色々な検査を受けてはみたが、結局原因は分からなかった…
その後も頻繁に原因不明の痙攣が起き、入退院を繰り返すようになってしまった…

今では働く事もできなくなり、ほとんど寝たきりの状態だ…

難病を患ってから、いずれはこんな状態になるのではないかと思ってはいたが…
まさか別の原因不明の病気でこんな形になるとは思ってもいなかった…

イヤ…
本当にこれは病気なのだろうか?
最近ではまるで、村瀬や日記の中の親子のような状態に日に日になっていくような気がしてならない…

私も知らない内に洗脳されたとでもいうのだろうか?
それとも、あの日記の親子の呪いとでもいうのだろうか?

今ではもう調べる事もできないし…
どうする事もできない…

今は苦しみと戦う毎日と、言いようのない不安があるだけ…

―井上陽子の日記―

平成23年10月15日 (土)

『何を信じればいい?
何を恨めばいい?
声が届かない闇が広がり
また心を潰してゆく
一緒に過ごした日々を覚えておいてほしい…
時間が戻るなら 心を抉り取ってあげる
これは叫びの詩
あなたに聞こえるかしら…
涙を辿って見つけてほしい…
私達の切望を…
心が酷く空っぽで
錆びた身体を動かす事はもうできない…
時を見失い 私達は消えてゆく…
全てが曖昧な現実に叩きのめされ 失望し盲目の朝を迎える
これは滅びの詩
あなた達に聞こえるかしら…
最も暗い夢が始まる時 私達は此処で待っている…
涙を辿って見つけてほしい…
これは叫びの詩
逃げる事はもうできないから…
偽りの優しさが私に執着な憎悪と哀しみを生んだ…
だから…
ずっと待っている 夢から覚めるまで…
だから…
ずっと待っている 想いが枯れるまで…』

苦狂日記 叫びの詩 終

そして…
滅びへと続く…

2014年09月02日(火) 03:55
忍冬 ◆JXoSs/ZU
投稿広場より掲載

 
  • 忍冬

    全てのコメント読ましてもらいました。
    本当にありがとうございます。

    今続きを書かせてもらってますが…
    似たような話や、作りにしても面白くないので今考え中です。
    ですが…
    なかなか良いアイデアが浮かんでこないので、最終的には同じような作り方になってしまうかも(笑)

     
  • くるみちゃん

    忍冬さん、超長編お疲れ様でした。
    3ヶ月もかけて作られたんですね。
    大変読みごたえありました。
    なんだろ…リアルにゾクゾクしました。そして、長いにも関わらずスラスラ読み進められたのですごく楽しめました。

     
  • くるみちゃん

    忍冬さん、超長編お疲れ様でした。
    3ヶ月もかけて作られたんですね。
    大変読みごたえありました。
    なんだろ…リアルにゾクゾクしました。そして、長いにも関わらずスラスラ読み進められたのですごく楽しめました。

     
  • 匿名

    宗教団体、洗脳、薬、殺人、心霊…
    実体験が軸になってるからか、今そこにある危機って感じでリアルに怖かった。

     
  • 忍冬

    コメントや感想ありがとうございます
    嬉しかったです。
    そして読んでくれた人もありがとうございます。

    この話は私の実体験や実際にあった事件等をヒントに作ってみました。
    実際に私は難病を患っていますし。
    怪奇現象も実話(PCの話は作りましたが、コップと窓ガラスは粉々に砕けた事があります)です。

    そして村瀬や継母にはモデルになった人がいますし。
    日記もある方の日記をヒントに作りました。

    ですから、皆さんが言うように実際にありそうと言われるとちょっと嬉しかったです。

    続きも書くつもりですが、完成は未定です。
    この話を作るのに3ヶ月位かかってしまいましたので(笑)
    予定は未定です。

    でも大体の話はもうできてます。
    次もなるべく実体験や実際にあった話を元に作ろうと思ってますし、次で完結させようと思ってます。

    ちなみに私はタバコも酒もやりませんが、難病を患う前はコーラ中毒(カフェイン中毒)でした(笑)
    カフェインも一応ドラッグの中に入るらしいですよ…
    大量に摂取するとしっかりトリップするらしいです(笑)

     
  • 0.血苺

    おお…バッドエンドですね。
    アーちゃん自身が一度も出てこないから、よけいに不気味です>_<

    いい感じに後味悪かった。

    作者さんはお酒もタバコもお嫌いなのでしょうか…
    私は喫煙者なのでちょっと耳が痛かったσ^_^;
    …やめられないですが。

     
  • 匿名

    部屋に忍び込む霊?生き霊?の正体が気になる…

     

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