【怪文書】ママが好き

ママが好き

先日俺はツレと、地元では割と有名な〝出る〟廃屋に行ってきた。
見た目はただの古い一軒家なんだけど。よく聞く、たて壊そうとすると呪われるので壊せない、そんな噂の廃屋だ。

なにか撮れたらおもしろいと思い、ビデオカメラを用意し廃屋へ向かった。
本当に出るのか?もし出るんならテレビの心霊特集で取材にくるんじゃね?
所詮地元の人だけが噂してる程度だろうから、こんなビデオカメラ持ってきても仕方がないような気がした。

俺は半ば壊れかけの玄関戸を乱暴に開け、廃屋の中に入った。すっげー埃っぽい。
ビデオカメラを持ったツレは俺に先を行かせた。ビビりなのか?
廃屋の床なんてあって無いようなものだった。木造の廃屋は雨が降る度に木に水をため込んでいったのだろう。一歩足を進める度にギシッ、グギッと大きく音をたてた。バギッと足が床を踏み抜くこともあった。
霊感ない俺でも、怪我的な意味でここは恐ろしい場所だとわかった。

居間だったと思われる部屋、浴槽の残された風呂場。玄関から入ってきて、近い場所から順番に探索を進めていった。廃屋の中はほぼ何もなく、人が住んでた気配は感じられなかった。
こんなもんか、つまんねぇ。つまんねぇから帰ろうぜって、あのとき言っていれば…。
でもノリノリのツレはカメラ回しながら「次、あの襖開けてみようぜ」とか言ってきたんだ。

廊下の突き当たりに、襖で仕切られた部屋があった。俺はその襖だけ新しいもののように感じた。
居間もほかの部屋も廃屋にふさわしいだけ壊れていたし埃っぽくて汚かった。けど襖の向こうにだけは、今でも人が住んでいるような気配がした。

「ちょ、俺カメラ持ってるからお前開けろよ」
ビビりのツレが俺に指図してきたんだけど、この襖は、開けない方がいい。本能がそう感じ取った。
が、ここまできたんだしツレの前だし。かっこわるい姿をビデオカメラに撮られてずっとビビりとか言われ続けるのは嫌だ。
仕方ない、俺は襖に手をかけようとした。

ガタン

襖の向こう側で物音がした。物が落ちたような音だった。
「やべぇよ…やべぇよ…」カメラを持ったツレは完全にビビってる。
俺もちょっとマジでヤバいんじゃないかって思い始めた。

懐中電灯で襖を照してたから、あることに気付いた。
「なぁ、さっきまで襖、ぴったりしまってたよなぁ?」
「ん…?…あぁ、多分」
「びびってねぇで見てみろよ」
俺は襖を指差しツレに言った。
「あ、開いてる…お前、開けたか?」
もちろん俺は開けてなんかいない。

その後開けた開けてない、音がしたヤバい云々2人で言い合った後
「せっかくだからさ、隙間からでもビデオ撮ってくわ。ここまできてなにもなしじゃぁ、なぁ?」
まぁ確かに。すげぇ映像とか撮れたら皆に自慢できそうだし。

ツレは数センチ開かれた襖にカメラのレンズを押し当てた。
「中、見えんの?」
「いや、ほとんど見えない。でも…」
「でも?」
「俺霊感とか無いはずなんだけど、誰かいると思う。気配を感じる」

結局5分くらいじっとカメラを回し続けた。
怖かった怖かったと2人興奮気味に言い合いながら帰路についた。
そのときまではまだよかったんだよね。

後日。仕事終わって家でダラダラしてたら、玄関チャイムが鳴ったんだ。
めんどくせーと思いながらも玄関まで行って鍵開けた。
真っ青な顔したツレがそこには立ってた。

「どうしようこれ。俺ら呪われたかもしれん」
まぁ部屋入って話そうぜって言ってツレを部屋にあげた。
「これ、これ見て」
茶でも出してやろうかとキッチンに行ったが、ツレは俺の腕引っ張ってテレビの前に座らせた。

ツレはDVDを一枚持ってた。で、それを勝手に俺のプレーヤーで再生し始めた。
「おれ呪われたんだ、きっと呪われたんだ!」
連れは真っ青な顔して呪われたって繰り返してた。声もふるえてたし、ただ事じゃないことがわかった。

「と、とりあえずこれ、あの時撮ったやつ見てくれ」
勝手に人ん家のリモコン駆使してツレはこないだの廃屋で撮影した映像を早送りしだした。
顔とおぼしきものとかなんか映ったか?俺はまだのんきに考えてた。

「ここだ」
そう言ってツレは早送りを止めて再生。
ツレが俺に見せたかったのは、ちょうどあの襖の隙間にカメラを当てた時の物だった。
画面はほぼ真っ黒。懐中電灯で照らしてなかったからな。

どこに何が映ったか注意深く映像を見たんだけど、特になにもないまま映像は終わった。
「お前、これ、マジやっべぇだろ」
ツレは顔こそ青ざめてはいたが興奮気味に言ってきた。
俺が見た限りほんとになにも映ってなかった。なにがヤバいんだよ?って聞いたら、予想の範囲外の答えが返ってきた。

「聞こえなかったか?なんか、女の声で、歌ってる?みたいな声入ってるの」
女が歌ってる?DVDの映像だけに集中してたから気づかなかったのかもしれないと思い、もう一度再生してみることにした。音量を大きくして耳を傾けた。

「ほら、今!」
…ツレには聞こえているようだが、俺にはなにも聞こえなかった。

二回目の再生が終わった。やっぱり俺にはなにも聞こえなかった。
「え、聞こえてるの俺だけってことか?まじかよ、俺だけ呪われたのかよ」
ツレは嘘はついていないようだった。おびえ方が尋常じゃなかった。

お前にはなんて聞こえてんの?って聞いたらさ、
「…笑うなよ?女がさぁ…一休さんの歌、歌ってんだよ…」

なんだそれ!?俺は思わず鼻で笑ってしまった。一休さんの歌を歌う女の霊?…まぁ不気味ではあるが話しだけではそこまで共感できなかった。

「いや、だからさ、女が小さい声で好き…好き 好き 好き…って歌ってるんだよ…一休さんの歌に似てるけどリズムはおかしい。まじ怖ぇよ」

とツレは言うだけ言って自分が手元に置いとくのはイヤだからって、俺の部屋にDVD置いて帰ってった。

嘘ついてるようには見えなかったしマジであいつビビってたし…
俺のリスニング力の問題なのか?
だったらなにかがちゃんと聞こえるまで、一休さんの歌が聞こえるまでDVD繰り返し見てやろうって思った。
明日は休みだし、夜更かしもできる。

目を覚ましたら俺はテーブルに突っ伏していた。手にはリモコン。あんななんの変化もない映像見てて眠くならない奴の方がいないだろう。
時計を見ると0時になるところだった。まぁいいか、今日はこのまま寝ることにしようと俺はテレビとDVDプレーヤーの電源を切って、ベッドに横になった。

ザザッ…ザザッ

何かの物音で俺は目を覚ました。何時だろうと時計を見ると2時過ぎ。朝までまだまだ時間あんじゃねーか。
「ん?」
寝ぼけてたから気づかなかったが、テレビついてるじゃん。消し忘れ?
単にそう思ってリモコンで電源を消そうとした。が、消えなかった。電池切れかよ…めんどくせぇ、本体まで電源切りに行かなきゃならない。

ザザッ…ザッ…

「…なんだよこれ」
画面には、襖の隙間にカメラを押し当てるツレの姿が、斜め上から映ってた。
気味が悪い。急いでテレビを切る…切れない。コンセントを抜くも、だめ。
焦る俺。リングの呪いのビデオを思いだす。

映像は進んでいて、ちょうど俺とカメラを持ったツレが撤退するシーンになっていた。
足音が遠ざかり、俺たちが廃屋から出たのがわかった。
あのとき絶対俺ら2人しか廃屋には居なかったし、だいたいこんな防犯カメラみたいな位置から撮影するとかおかしいし、もうこれ絶対ヤバいって。
でも、映像が流れるのを止められない。

カメラの視点が切り替わり、画面には部屋の様子が映されていた。
そこにはちゃぶ台と、カメラに背中を向けて座ってる髪の長い女が映っていた。
襖の部屋だ!と、直感でわかった。

部屋は暗くなく、鮮明に映っていた。
ゆっくりカメラが女の背中に近付いていった。

ザッ というノイズがうるさい。
ゆっくり、カメラが女に近寄る。

「……ぁ…………ぁ…ま…」
ザッ
ノイズに混ざって、女の声が聞こえる。

カメラが女の背中に近づけば近づくほど、俺のテレビからは女の声がよく聞こえるようになっていく。

ザザッ「……ま………ぁ…ま」ザッ…ザザッ

女とカメラの距離は、撮影者が手を伸ばせば女の肩を掴める距離になっていた。
撮影者がいれば、の話しだが。

「ま ま  ぃ……ま、ま ま…ぁ……ま…マ マ」

どうやら女はか細い声で「ママ」と言っているようだった。

女の後ろ姿なはずなのに、よく見ると黒く長い髪の隙間から、顔が少し見える。

気付けばノイズは止んでいた。映像も、女の黒い髪だけ映ったまま静止した。
息するのを忘れてた俺は、大きく息を吐いた。

これが、本物の心霊映像か。
手のひらにべっとり汗をかいてしまった。
ダメもとで電源offを試みる。
あっさりテレビもDVDプレーヤーも、切れた。

怖くて平常心ではいられなかった。
キッチンから塩を持ってきて、盛大に部屋に撒いた。
部屋の電気はつけたままで、布団に潜り込んだ。

布団というのは人に安心感を与えてくれる。少し冷静に物を考えられるようになった。
ツレが言ってた一休さんの歌の歌詞‘好き’俺が聞いた声は‘ママ’だとするとママのことが好きという念を持った霊なのか?
…いや、そもそもおかしいだろ。
なんでツレが持ってきたDVDと俺がさっき見たDVD、内容違うんだよ。
誰が撮影したんだ?

疑問より恐怖の方が勝ってて俺はごめんなさいごめんなさいと念じ続けた。
何が悪くて何に謝ってるのかも定かではないけど。
明日お祓いに行こう。お祓いに行ったら全て大丈夫になる。
このまま朝までじっとしてよう。
 
と、いろいろ決心したとき。

「からみてるよ」

と、耳元ではっきり女の声が聞こえた。

俺は無我夢中で家中の隙間という隙間にガムテープを貼り始めた。

 
  • 匿名

    ↓なる程~怪文書っての忘れて普通に読んでた。

     
  • 匿名

    好き ママ からみてる

     
  • 匿名

    対処がいきなり隙間にガムテープ!?
    続きあるのかな?

     

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