【SS】我儘/HN:0.血苺

我儘/HN:0.血苺

…三日続けて、大学時代の友人の夢を見てさ…

いや、それ程親しかったわけじゃないんだ。卒業後は全然会って無かったし。
年賀状のやり取りはしていたけど、携帯の番号も知らなかったから…連絡取ろうとは思わなかったんだけどね。
だって、ただ夢を見ただけだから。

そうしたら、彼と同郷だった知り合いが報せて来たんだ。
彼が亡くなったって…

葬儀は家族内でひっそり行ったとかで、どうも…自殺だったんじゃないかって言うんだ。

彼とは学部が一緒でさ、アパートも偶然、隣同士だったんだ。
大したことない私大だったけど、彼は凄く頭が良かった。
講義も真面目に受けていたし…最初は俺とは到底相容れない、面白味の無い奴だと思ってた。
雰囲気も…いつも何かこう、無表情でさ。機械みたいだったし。

でも、ある時…切っ掛けは忘れたけど、喋った事があって…思いのほか面白い奴だって分かったんだ。
別に、ユーモアのセンスに長けていたわけじゃ無い。俗っぽい言い方だけど…“天然”って意味で。
そう、本当に真面目な奴なんだよ。俺が軽い気持ちで言う冗談を、全部真に受けちゃうくらいね。けど、その反応がもの凄く面白くて。

彼、家が超厳しかったらしくてさ、大学生になるまで、漫画も読んだ事無かったんだよ。勿論、アニメも見た事無し。
今は一人暮らししているんだから何しても良さそうなものなのに、杓子定規に言いつけを守り続けていた…そんな奴だった。

俺は、部屋にあった子ども向けの漫画を彼にやったんだ。
いや…大学生になるまで愛読していた訳じゃないよ。実家で荷造りしていた時、適当に持って来た中に紛れ込んでいただけ。
新聞の4コマくらいしか見た事無かった彼に、どういう順番に読み進めたら良いかまで説明してやってさ。

彼は本当に楽しそうに読んでいた。子ども向けの漫画を、目を輝かせて…

『ロボットなのに、泣いたり笑ったりするんだね』

なんて、おかしなところに感心したりしてさ。

…後から気付いたよ。彼は自分の事、ロボットみたいに思ってたんだなって。
だから、喜怒哀楽のあるロボットに惹かれたんだと思う。

俺から見たら、彼は羨ましいくらい頭が良かったけど…実は彼、常に劣等感を感じていたらしい。

何せ、うちの大学は三流だったからね。彼の両親からしたら、彼は出来損ないの駄目息子なんだよ…彼の兄貴が一流大出のエリートだから、子どもの頃から矢鱈と比べられていたみたいでね。
よくもまぁ、グレもせずに生きて来たものだよ。

俺、最初は彼を、俺の友人たちに引き合わせるつもりだったんだ。

でも、それはやめておいた。
アホ揃いの友人共の事だ…今まで成績の良さで一目置いていた彼が天然だと知れば、ここぞとばかりにおちょくり倒すだろう。
そんな目に遭わせるのは忍びなかったんだ。

…否…本当はそうじゃなかった。
彼を友人たちに引き合わせなかったのは、実は俺のエゴだったんだ。

…若い頃ってさ、人の話なんかまともに聞かないじゃない?自分が喋るのに夢中で。
一生懸命聞いてるのは、居ない奴の悪口くらいでさ。
そんな中、興味深げに話を聴いてくれる彼を、俺は独占していたかっただけなんだ。

俺のつまらない冗談を面白がってくれた彼…誰かからの受け売りに過ぎない哲学じみた理屈に、心底感心してくれた彼。
馬鹿な俺は、そんな彼の姿に驕り高ぶってたんだよな…自分はなんて徳の高い人間なんだ!なんて…思い出すと恥ずかしくて悶絶死しそうになるよ。

そのくせ、俺は彼の話を全然聴いてやらなかったなあ…

『この漫画に出てくる秘密道具…君だったら何が欲しい?』

一度、こんな風に訊かれた事があった。
でも俺は、笑ってとりあわなかったんだ。
だって、そんな話題で夢中になるなんて、せいぜい小学生ぐらいだろう?

そう受け流したら、彼もそれ以上言わなかったっけ…

彼の実家に確認するのは躊躇われて、俺は取り敢えず彼が住んでいたアパートに行ってみた。
亡くなっているなら行っても仕方ないのに、何故か足が向かったんだ。

漸くたどり着いたアパートは、俺の所よりは家賃も高そうな外観だった。
部屋は、確か二階だった筈…と思いながら外から見上げていたら、一つの部屋のドアが開いていて、どうやら中を片付けているみたいだった。

中に、荷物を整理しているらしい二人の人物が居たんだ。面差しと年恰好から、彼の母親と兄だと推測出来た。
二人とも、仏頂面で作業していて…でも、それは俺の勝手な見解だよな。
肉親の死を悲しまない訳無いんだから…きっと、悲しみを抑えて、敢えて淡々と作業していたんだろう、きっと。

ふとゴミ置場を見たら、俺がやった漫画が無造作に置かれていた。

…ああ、ずっと持っていてくれたんだ…俺は思わず、その漫画を持ち帰った。

帰ってから、何年振りかでページを開いたよ。
手垢の跡も落書きも、ページの間に挟まっていた煎餅のカスも、みんな俺の痕跡だった。
俺は彼の面影に問いかけてみた。

…おい、お前はどの道具が欲しかったんだよ…

途端に涙が止まらなくなったよ。

どうして俺は、彼の話をきちんと聴いてやらなかったんだろう。

「ごめんね…長々と辛気臭い話しちゃって」

その客は、照れ臭そうに言いながら、こっそりと涙を拭った。
私は微笑んで、新しいお銚子を置いた。

「お友だち…漫画を持ち帰ってほしくて、夢に現れたのかしらね」
「…俺もそう思ったよ。あの漫画は少なくとも、俺よりずっと大事な、あいつの友だちだっただろうからね」

客は目のふちを赤くして言った。

「…どうも、あれから色々考えちゃうんだよ。あの世へ行ったら、まずはあいつに謝りたい…だけどそれって、単に自分の印象を良くしたいだけの自己満足かな?…とか」
「……」

「昨日読んだ、好きな作家のエッセイに“生きている人間が拘るほど、死者は生きている人間に拘ってはいないものだ”ってゆうフレーズがあってさ、それ見て俺、救われた気がしてんの。ああ…じゃああいつも俺のチャチな講釈なんか忘れちまってるんだ…って。
「ホント、俺ってつくづく…都合の良い事しか考えない人間だなあ…」

「でも、都合良く考えられるから生きていけるんじゃないの?人って…」

私は言ってみた。
…おそらく、亡くなった彼は都合良く考える事の出来なかった人だろうから。

「すっかり長居しちゃって…また来るね」
「はい、ありがとうございます。気をつけてね」

おぼつかない足元で帰って行く客を見送りながら思った。
都合良く考えるなら、私は“輪廻転生”を信じたい。
亡くなった彼が、今度はもっと我儘を言える環境に生まれますように。

不意に、店の奥から息子が顔を出した。

「晩飯まだなんだけど」
「ああ、そうだっけ?…じゃあ、オデンが残ってるからそれで食っちゃいな」
「え~!オデンなんかオカズになんないよ!」
「我儘ゆうんじゃないよ!厭なら生の大根でも齧ってな!」

ぶつぶつ言いながらオデンをよそう息子を見て、苦笑する。

…我儘言える環境と、我儘が通る環境とはまた違うのだけど。

 
  • 紫姫

    O・血苺様! 申し訳 ありません。 土下座m(__) 何と初歩的最低な ミスを しでかしました。 毎回 素敵&面白&恐い等 楽しませて 頂き 有難うございます♪ これからも ヨロシク お願い申し上げます。

     
  • 紫姫

    色んな ジャンルの お話し 有難うございます♪ 沢山読めて 嬉しいデス。 お疲れ様です(^o^)v

     

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