【SS】廻り合い/HN:いくゆみ

廻り合い/HN:いくゆみ

『春』

俺はこの季節が苦手だ。

虫は多くなるし、何よりも辛いのは花粉である。

目は痒いし鼻水は止まらない。

最悪の季節である。

仕事帰り電車の車内。

俺は盛大にポケットティッシュで鼻をかんだ。

かんでもかんでも止まらない。

みるみるうちにティッシュが無くなった。

こうなってしまうと家まで我慢するしかない。

鼻をすすりつつ、目が痒いので瞼を押さえる。

そうしていると声が聞こえた。

「あの…」

車内で声をかけられるような知り合いなど俺にはいない。

「あの…よ、よかったら」

すぐ近くでまた声が聞こえた。

目を開けると見知らぬ女子高生らしき女の子がハンカチを差し出していた。

『女子高生らしき』としたのは制服を着ていたからである。

制服を着ているなら女子高生でいいじゃないかと思われるかもしれない。

だがしかし用心深い俺は彼女がコスプレ趣味の持ち主かもしれない可能性を捨てきれずにいるのである。

「いえ、大丈夫ですよ」

俺は断りを入れた。

あまりにも可愛らしい感じのハンカチだったので汚したら申し訳ない。

しかし彼女は俺の手を掴み、ハンカチを手渡した。

「遠慮せずに…」

あまりにいきなりの事だったので硬直した。

「悲しい事、辛い事…たくさんありますよね。私にもあります…お互いに頑張りましょうね」

満面の笑顔だったが、とんでもなく勘違いをされている様子。

周りからは完全に泣いている人扱いである。

俺は恥ずかしさの余りハンカチで顔を隠した。

それはまるで涙を拭くが如く。

「ありがとう…」

お礼を言って、電車を降りた。

あまり使わないようにしたが念入りに洗濯をした。

会える保証などないが、いつでも返せるようにハンカチを鞄に入れておいた。

数週間が過ぎたが彼女に会える事はなかった。

やべぇ、寝過ごした…

俺は走っていた。

電車に乗り遅れると遅刻かもしれない。

本当はいけないのだが駆け込みセーフだった。

朝の通勤時間は電車は満員である。

ぎゅうぎゅう詰めで動けるスペースすらない。

あとは目的地までゆらゆらと待つだけである。

ぼーっと前を見ているとゴツい手が見えた。

たぶん男の手である。

制服姿の女の子だと思われるスカートに手を入れていた。

痴漢なんて本当にいるんだな。

正直に言えば痴漢はアニメとか漫画、ドラマの世界の事のような感じがしていた。

男の手を掴み声を出す。

「この人、痴漢です」

サラリーマン風の男が手を振りほどこうとしたが離さなかった。

近くにいた別の男がさらに痴漢男を押さえ付ける。

次の駅で降りて警察に突きだした。

だが…良いことをした、良かった…そんな風には思えない。

俺は女の子や子供に手を出すような奴は許せない。

大人が未来ある子を傷付けるなどあってはならないのだ。

傷付いた女の子がいる。

だから…良かったなんて事はないのだ。

「あの…あ、ありがとうございました!」

後ろから声がして、俺は振り向いた。

「「あ…」」

お互いに驚いた。

「泣いてた人…」

彼女が言った。

「ハンカチの…」

俺が言った。

「「あははは」」

何故だか笑ってしまった。

「不思議ですね、名前も何も知らない私たちが運命のようにまた出会えた」

彼女は満面の笑顔だった。

「そうだね、本当に不思議だ」

鞄からハンカチを取りだした。

俺は彼女の満面の笑顔に救われていた。

その彼女を俺が助けた。

助けられ助け、世界は廻り合う。

「俺の方こそ、ありがとう」

彼女にハンカチを手渡した。

「でも、あの時…俺は泣いてないからな」

俺は子供のようにムキになって言った。

「そうなんですか?私には泣いているように見えました」

やはり彼女は満面の笑顔だった。

「そうだった…自己紹介がまだだったね」

こうして俺たちはお互いを知った。

 
  • 紫姫

    この 巡り合わせ 凄い まるで 本当に ドラマ や 漫画(少女コミ) 男女の 出逢いの キッカケ… 羨ましい♪

     

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