【怖い話】孤独の山/HN:ラグト

孤独の山/HN:ラグト

今回の話は前回の「幽霊道路」の話から一ヶ月ほど経った夏の暑い時期のことだったと思います。

その日、私は教育係の黒川先輩に付いて、県外の取引先に商談に出ていました。

商談はお互いにとって良好にまとまり、その後相手方の担当者におすすめのとんかつ屋に案内され、そこで遅めの昼食をとりました。

私達は出張先の仕事が終了して気が抜けたことと、ボリュームのある昼食をとったことでかなり体が重たくなっていました。

「あ~、なんだか帰って仕事する気がなくなっちゃったわね」

黒川さんは私が運転する社用車の助手席シートに深く体を沈ませながら呟きました。

「でも、今から帰ったら終業時間前についちゃいますね」

職場まで県境を超えて、約一時間かなり中途半端な時間でした。

「よし、商談はうまくいったんだし、今日はもう仕事は終わり! 珈琲飲んで時間つぶしましょう」

「え、いいんですか?」

教育係のサボリとも取れる発言に嬉しい半面驚いた雰囲気を出してみました。

「休憩を上手く取ることが仕事の能率を上げるコツよ」

確かに彼女は仕事のできる女性でしたので、そういうものなのかなと思いました。

「息抜きの行きつけカフェをもつことも大事なことよ」

そこまで言ってしまってはやっぱりサボりじゃないかなと感じましたが何も言いませんでした。

「それじゃね、〇〇(地名)に美味しいケーキと珈琲のお店があるのよ、そこ行きましょう」

私は聞く耳を疑いました。〇〇は今私たちが出張に来ている隣の県のさらに北隣の県です。

「え、いや、〇〇って、〇〇県のですか?」

「そうよ」

「遠すぎですよ」

「高速使っていけば一時間ぐらいだから大丈夫よ」

強気なことと、時々こういう残念なところがあるから、美人なのにうちの職場の中でちょっと近づき難い雰囲気があるのかなと感じていましたが、教育係の彼女の命令には従うほかありませんでした。

高速を使って訪れたカフェでは黒川さんおすすめの洋酒のケーキを注文し、お会計の時には黒川さんが家族の分のお土産も買っていました。

「ここは私が払ってあげる、高速代ね」

一瞬悪いですよと言おうとしましたが、ちょっと考えると珈琲代では往復の高速代の方が高額です。

この高速代は交通費として申請できないので、もちろん私の自腹です。

いやいや高速代足りてないしとみみっちくも思いましたが、もちろん文句は言えません。

カフェから出てしばらくすると黒川さんはもう完全に眠そうでした。

「ちょ、ちょっと寝ないでくださいよ」

「……寝ないわよ、寝ているように見えても、実は起きてるからそのように扱うように」

そう力なく話したので、それを信じて運転を続けましたが、ふと横を覗くと既にまぶたは閉じられて軽く寝息まで立てています。

どう見ても寝ているように見えました。

くそっ寝顔はさらに可愛いなあ、と憎々しく思いながら、携帯で写真を撮ってやろうかと思いましたが、実は起きているからねと言われていたので、起きてるんじゃあ写真は撮れないよなあ、と諦めました。

そして、帰りの高速のインターに向かっている際、目の前の道路案内を見ると、今通っている道から右に曲って県道に入れば県境の山脈を越えて元来た隣の県に繋がっているようでした。

「時間はまだ十分あるし、高速代も全額もらってないしなあ」

一応私は横の黒川さんに尋ねてみました。

「黒川さん、帰りは高速じゃなくて下道で帰りますよ」

反応はありませんでしたが、起きているので一応確認はしたということで、右折し山越えの道に入りました。

しかし、一時間後私は全く後悔していました。

太陽の位置から方角はわかるのですが、斜面に沿ってくねった山道は本当に元来た県に通じているのか見当がつきません。

分かれ道はなかったので、おそらく道は合っていると思われたのですが、初めて通る道なので自信はありませんでした。

県外に出るときはほとんど高速を使っていたので、あらためて日本の高速道路は山谷に関係なくまっすぐに作られているなあと感心しました。

日が長い時期とは言ってもさすがに景色は薄暗くなってきました。

「くそお、千円ぐらいケチるんじゃなかった」

今になってなんでこんな道を選んでしまったのだろうと、不思議な感じで後悔していました。途中で黒川さんが起きてしまえば、勝手にルートを変更したことを咎められることはわかっていたのにです。

助手席の彼女が起きたらなんて謝ろうと言い訳を頭の中でぐるぐると考えていたその時、不意に彼女が唸り出しました。

「もう、さっきからうるさいわね」

不機嫌そうにそう言うとゆっくりと目を開け、あれここどこというふうに窓の外の景色をぼんやりと眺めています。

しかし、数瞬後、何かに気づいたかのように叫びました。

「ちょ、ちょっと止めなさい」

「あ、ご、ごめんなさい、勝手に下道の山越えを選んでしまって……」

「え、下道、山越え?」

山越えと聞いて少し彼女は考えていました。

「いや……それはいいからとにかく車止めなさい」

何を言われるか怯えながら車を山道の脇に止めると、彼女は何も言わずにゆっくりと車から降り道路に立ってそこから周りの山をぐるりと見渡しているようでした。

怒られると思っていた私は何をしているのだろうとその光景を眺めていましたが、そのうち運転席の方に来て運転を代わるよう言われました。

言われるままに黒川さんと交代し、助手席に座ると彼女はゆっくりと車を発進させました。

何か話しかけようかと思いましたが、怒っているいる様子ではなく、運転しながら何かを探しているかのように視線の向きをあちこちに動かしていました。

今までの経験からこういう時の彼女はあまりよろしくない何かを感じている時でした。

「な、何か、いるんですか?」

「……たぶん、ね」

それを聞いて、私は余計に緊張して黙ってしまいました。

そうしているうちに山道の右手側にそこそこ広い駐車場のようなスペースが見えてきました。

「あ!」

思わず驚きの声を上げてしまいました。木々に覆われたその薄暗い広場の中にぼんやりと淡い光が見えたのです。

光を確認したからか、黒川さんはその広場の入り口付近で車をゆっくりと止めました。

私は出たと思い固まりながら、その光る物体を確認したのですが、次の瞬間、あれ?と思いました。

よくよく見るとその淡い光のもとで若い女の子が携帯電話で話をしていました。

こちらからは後ろ姿しか見えないのではっきりとはわかりませんが、高校生ぐらいに見えました。

「な、なんだ携帯の光か、びっくりした」

黒川さんが何か変な雰囲気というから警戒していましたが、一気に緊張が緩んでしまいました。

あの女の子は彼氏とドライブかな、でも車が見当たらないなと考えながら、黒川さんの方を振り向くと、彼女は張り詰めた表情で広場にいる女の子を凝視していました。

「だめね」

黒川さんが呟きました。

「逃げるわよ」

そう言うと車を緩やかに発進させました。そのまま広場を通り過ぎてスピードを上げていきます。

「え、なんですか、今の女の子がどうかしたんですか?」

「あれはやばいわ」

やばいということは少なくともこの世のものではないということでしょうか?

「いやいや黒川さん、さっきのはさすがに普通の女の子に見えましたよ、携帯電話で話もしてましたし」

訝しげに尋ねると、彼女は軽く笑みを浮かべて

「こんな山の中で誰と携帯電話で話すの?」

はっとしました。

確かにこんな山奥、完全に通話圏外です。

すぐに自分の携帯でも確認しましたが当然圏外でした。

「あんたは聞こえてないみたいだけど、さっきからずっと『だれかたすけて』、『ここはさびしい』って聞こえてるのよね」

その言葉を聞いたとたん私は耳を澄ましましたが、何も聞こえません。

しかし彼女にはこの世のものでない者の助けを求める声が聞こえるというのでした。

さっき彼女が目覚めた時にうるさいわねといった意味がそういうことだとすると、一体どれだけの範囲でその声が聞こえているのでしょうか。

「で、でも、助けを求めているんだったら、何も逃げなくても……」

脇目も振らず、さきほどの場所から逃げているのは少し薄情な気もしました。

「私もちょっとそう思って、あれを見てたんだけどね」

そこまで言って一旦彼女の言葉が止まり

「でも、あれはやばい、助けを求める思いと同時に誰でもいいから仲間にしたいというドス黒い思いも感じたわ、多分全く話にならない、下手をするとこっちがあの子の仲間入りよ」

「……あれって殺人や自殺とかの事件がらみなんじゃないんですか?」

「……余計に私達ではかかわれないわよ」

「……たすけてよ」

突然混ざる別の声。

今度は私にも聞こえました。頭の中に直接響いてくるかのような低い澄んだ女の子の声でした。

そして、明らかに後部座席から異様な気配が漂ってきていました。

車に乗ってこられたのは明白でした。

「……たすけてよ、ここはさびしい」

「振り向いちゃだめ! 取り込まれるわよ!」

黒川さんの叫ぶとおり振り向こうとした私はその言葉に体が固まりました。

「……たすけてよ、たすけてよ」

続けて女の子の声が響きます。

「私じゃどうにもできない、帰りなさい!」

「……さびしいよ、さびしいよ」

「無理って言ってるでしょ、ついてこないで!」

山道を勢いよく走行しながら、黒川さんは後部座席の女の子の話を一切受け付けようとはしませんでした。

時間が止まったかのような中でのやりとりの中、後部座席から伝わって来る息苦しさが一層強くなってきました。

その息苦しさに動揺し、私は咄嗟にミラーで後ろを確認してしまいました。

そこで私が見たものは先ほど広場で見た女の子ではありませんでした。

輪郭だけは女の子でした、しかしその姿、中身は真っ黒でした。

まるで彼女の孤独と絶望を体現したかのような闇。

「……ざんねん」

落胆した声、広場からかなり離れたからか徐々に女の子の声の響きが弱くなっていました。

私が見ているミラーの中で彼女は最後の言葉を発して消えて行きました。

「……つぎにきたら、しんでいっしょになろうね」

山道を走るうちに程なく元の県の街中に出ることができました。

「もう大丈夫でしょうか?」

女の子が消えてから、黒川さんは無言で運転し続けていました。

「……たぶんね」

「すいません、僕が勝手に変な道に入ったせいでこんなことになって」

「……いや、たぶん引き寄せられたのかしらね」

「引き寄せられた?」

「……あんたは優しいから、ついてこられやすいのかもね」

波長が合ってしまったのか、私が無意識のうちにあの女の子の声に引き付けられてしまったのではないかということでした。

「それにしても激しくはね付けてましたね、もっと優しい言い方しても良かったんじゃ」

「はっきり拒絶しないとすがりつかれるからね」

おそらく私なんかの常識では推し量ることのできない彼女の経験からの行動だったのだと思われました。

「……でも」

それでも不意に言葉がもれてしまいました。

「どうしたの?」

「あの子は……これからも待ち続けるんでしょうか?」

私の最後の質問に彼女は少し悲しそうな表情をするだけで答えてはくれませんでした。

 
  • ラグト

    毎回さまざまなコメントを頂き感謝しております。
    >紫姫様
    年末と今回のエピソードにも丁寧なコメント、ありがとうございました。

     
  • 匿名

    なかなかエロイ展開にならないな。モルダーとスカリーかよ!!わざとスキを作って誘ってるようなシーンも多々あるのにさ。
    次こそ期待(笑)

     
  • 紫姫

    相手(幽霊)のこの世の未練の念が、強いと 引き寄せられ 幽霊の仲間にされる ので 拒絶する時は、きっぱり 意思表示。 何回も 黒川さんと怪奇に 遭遇して居る 後輩君 いい加減 学習しろ! と 思う(怒) 黒川さんが、必死に 車を運転しながら 幽霊から 離れる為 冷たい 態度で 後輩君や自分(黒川さん)を守り つつ 対処していて 切羽つまり なのに… 助手席のサイドミラーで 後ろ覗く後輩君。 幾ら 幽霊に 対して 無知でも やっと 厄介&強力な霊から 逃れて 間も無いのに 変に 同情的な事 言って 黒川さんの 言い方 冷たい と ほざく 後輩君を ホンマに イラつくわ… 黒川さんを 頼るばかりで… 少しは 後輩君 機転 きかせて 黒川さんの負担&言いつけ 守れ&護れよ。 頼り無い と 優しさは、 ちゃうで~ 思わず ツッコミ。 まぁ この コンビ やから 面白いが…◎ 次回作も 楽しみに お待ちして まぁ~す。

     

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