【怪異】厠

ベタな話ながら、子供の頃の体験をひとつ。

夏休みに父の田舎の実家で過ごしていたときのこと。

夜中に尿意を催して便所に行きたくなった。

その家は古い造りゆえに母屋と便所が別棟になっており、茅葺きの便所建屋は、まさに掘っ立て小屋と呼ぶにふさわしい佇まいで、まして夜だから、気味の悪いことこの上ない。
裸電球のスイッチを入れ、小便器で用を足していると、突然うしろからギィ〜と軋むような音がした。

ハッと振り返ると、大便所(もちろん汲み取り)の扉が半分近く開いている。

風もないのに何故と思うと、用便姿勢のまま動けなくなってしまった。

もしも何かが現れたらと考えたせいか、恐怖のあまり体が硬直したのだ。
視線も扉に釘付けだが、ここからは大便所の内側は見えないし、それきり物音ひとつしない。

しかしダッシュで逃げようと意を決した次の瞬間、頬に冷たい手が触れ、声にならない悲鳴を発しながらへなへなと腰を抜かしてしまった。

見上げるとそこには叔父がニヤニヤしながら立っている。
ひとつ俺を脅かしてやろうと忍び足で近づいてきたのだと笑う。
そんなお茶目な?叔父にブチ切れると同時に心強くもあったので、彼に大便所の件を話しながら改めてそちらに顔を向けると、開いていたはずの戸がピタリと閉じていたのだ。

中を覗いてもらったが、変わった様子はないと首を捻る。

断じて目の錯覚などではないはずなのに、おかしな事もあるもんだなと、その場は一応収まったのだが…。

それから歳月が流れて久しぶりに父の実家を再訪し、相変わらず元気な叔父と酒を酌み交わしていると、ふと前述の夜の思い出話になった。

あの時、叔父は本当は便器の縁から汚物まみれの女性が這い上がろうとしているのを目撃していたようだ。
俺を怖がらせないよう黙っていたが、時折起こる怪異だったとのこと。

経緯を要約すると、祖父(故人)が若い頃に囲っていた愛人が三角関係の縺れからその便所で首吊り自殺を遂げてしまい、第一発見者の祖父は、気が動転していたのか死体を便壺に埋め込んでしまう。

糞尿の回収業者が見つけた時は既に白骨状態で、祖父は逮捕されたが、以来化けて出るのだと言う。

幽霊の登場パターンとしてはありがちとはいえ、身内の不祥事が絡んでいるのもあって、他人事でなく怖いのは無論だが、むしろその女性が不憫に思えてきたのだった。

家は10年くらい前に新築され、便所のあった場所は更地になって小さな祠にお地蔵様が鎮座している。

ねんごろな供養を行ったおかげで今は現れないとの事だが、きちんと成仏できたのだろうかと心配だ。

 

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