【SS】喪失/HN:いくゆみ

奪った人間がいるという事は失った人間もいるという事。

悪い事もしていない、救いもない。

これはそういう話。

「明日香、美味しい?」

あの日から母は壊れてしまった。

「香利…」

父は母の面倒と仕事で忙しかった。

人間とは失ったものを思い続ける。

そこにあるものなど改めて見たりしないのだ。

俺はこの家族にいないのも同じである。

姉ちゃんが死んだ日から全て壊れてしまった。

姉ちゃんが悪い訳ではない。

ましてや父さんや母さんが悪いはずもない。

なのに…皆が苦しい。

誰も笑わなくなった。

何がいけなかったのか。

答えなど、ある訳がない。

あいつが憎い。

あいつはまだ子供だった。

未成年というだけで法で守られる。

大した罪にはならかった。

そんな馬鹿な事があっていいのか。

俺たちは、こんなに苦しくて辛くて…

今の俺を動かしているのは憎しみと復讐だけだ。

どれだけの時間を費やそうとも復讐を遂げる。

生き残ってしまった俺がやり遂げないといけない。

「父さん、母さん、姉ちゃん…俺が復讐を遂げる…から…」

姉ちゃんが死んで一年後に父さんと母さんは死んだ。

家に火をつけて自殺。

俺だけが救出されてしまった。

俺だけが未だに苦しみの中にいる。

人間らしさなんて捨てた。

復讐者に心なんて必要ない。

救われる必要もない。

ただ目的と意味が欲しかった。

復讐という目的と俺が生き残った意味。

成し遂げた時に全てが報われる気がした。

「秋山…聖示」

探偵を使って名前を調べた。

かなり胡散臭い奴だったし高額だったが、なかなか有能な奴ではあったみたいだ。

国の法で裁けないのなら俺があいつに罰を与える。

被害者として、それは許されない事なのか?

加害者のあいつが守られて、俺たちの事は誰も守ってくれなかった。

こんな事が正しい訳がない。

認める事なんて出来ない。

何年ぶりだろう。

俺は墓参りに来ていた。

墓の横には名前が彫られている。

『明日香』『明良』『香利』

ここに三人が眠っている。

「もう少し…もう少しだから」

墓の前には花束と線香の燃えカスがあった。

俺じゃない誰かが墓参りに来ていたのだろうか。

俺には……心当たりはなかった…

「利明…」

聞き覚えのある声がした。

振り返ると死んだはずの姉がいる。

俺もここまで病んでしまったか。

それとも俺の死が近づいているのか。

死が近い人間は死人が視えるという話を聞いた事がある。

幻だと分かっていても俺は話をかけた。

「もう少しだから。あと少しで終わる」

姉ちゃんは寂しそうな顔をしていた。

「この空が青く見えるの」

俺には姉ちゃんが何を言いたいのか分からなかった。

空は暗くて、どす黒い。

俺が見ている空と姉ちゃんが見ている空は違うのか。

「俺には暗くて黒いよ」

幻に対して真面目に返事をした。

「私もそうだったよ。希望も何も無くて…空が私の心のように暗くて黒かった」

ただの幻の癖に…

「でもね、きっと…いつか前に進めるよ。私の言ってる事も分かるはず」

俺はいつの間にか泣いていた。

その涙を姉ちゃんが拭ってくれた。

久しぶりに人に触れたような感覚。

その手が凄く温かくて、幻のはずの姉ちゃんが本当にいるような気がした。

「なんで…こんな時に…揺らがないって決めたのに。俺だけが…」

気付いた時には姉ちゃんは消えていた。

姉ちゃんの幻を視て、復讐心が薄れている自分がいる。

違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う

薄れてなんかいない。

憎い。

俺はあいつに復讐する為に生きてきたんだ。

それだけが俺の生きる意味。

俺にはそれしかない。

それなのに…俺は何で悩んでいるんだ。

どうして…なんだよ…

「うわぁああああああああ」

きっと俺も…あの日に壊れていたのだ。

自分では正常だと思っていた。

憎くてしかたなかった…あいつ…

本当は秋山の居場所は当の昔に分かっていた。

名前は知らなかったが、前に墓参りに行った時に見掛けた。

名前も知らない、そいつが姉を殺した男だと思った。

理由はない。

ただの勘だ。

でも俺は違うと思いたかった。

姉ちゃんを殺した最低な奴が墓参りなんてする訳ない。

あいつは後悔もしてない最低な人間。

復讐するべき最低な男。

追いかけて住所を調べたが表札はなかった。

「こいつに同じ苦しみを…」

探偵を雇って調べさせた。

こいつの大切な人を奪ってやろう。

俺はあいつに会いたくなくて墓参りには行かなくなった。

鈴木真琴。

この女を殺せば俺は復讐を果たす。

何を迷ってる。

何を揺らいでる。

この苦しみを和らげるのには…復讐を果たすしかない。

俺は間違ってない。

生きてきた意味があるとすれば復讐という目的を果たす事。

揺らげば俺は意味を失う。

もう前に進む以外の道は俺には残っていない。

前に進む以外の道を全て奪われたのだ。

俺はナイフを片手に歩き出した。

人は死ぬ前に走馬灯を見るという噂がある。

俺はそんなの嘘だと思っていた。

物や人の動きがスローモーションに見えて、昔の事が走馬灯のように見える。

楽しかった日々、苦しかった日々。

でも俺は安堵していた。

自分と同じ苦しみを他人に背負わせなくて済むんだ。

自分の意思では止める事は出来なかったが、こんなカタチでも…人を殺さずに済んだ。

アイツと同じように最低な人間に堕ちなくて済んだ。

「よかった…」

何故だか

やっと笑えた。

本当に俺が望んでいたのは『死』だったのかも知れない。

俺は目を瞑った。

ドガーーーン

「はぁ…はぁ…はぁ…」

荒い息遣い。

「何、満足そうに死のうとしてんだよ、アンタ」

知らない男が頭から血を流している。

「アンタがあっちに行くのは、まだ早いだろ」

俺は助けられたのか。

何で死なせてくれなかったんだ。

「利明…辛くても、悲しくても、私たちの分を全力で生き抜いて。あなたの人生を今から生きて…」

俺は目を擦った。

何で姉ちゃんが…

そんなのって…ねぇよ。

俺だけ辛い道を…

ずっと苦しみながら生きていけって言うのかよ。

気付けば、姉ちゃんは消えていて知らない男が倒れている。

「救急車お願いします。負傷者は運転手が1名と巻き込まれた人が2名です。住所は…」

ピッ

電話を切った女性が近寄ってきた。

「大丈夫ですか?あっ、動かない方がいいですよ。救急車来ますから」

ほんわかしていそうで天然というか、抜けていそうな見た目とは裏腹に、しっかりとした対応をしていた。

不思議と、どこか安心する声。

俺は彼女の事を知っていた。

写真でしか見た事はなかったが。

「そこで倒れてるのは、うちの兄ですので大丈夫です。それくらいで死ぬような柔な身体してませんので」

鈴木真琴はニコリと笑った。

それが初めての出逢い。

それが『喪失』だった。

 
  • (・ω・)

    微妙なラノベ、または韓国ドラマを見た気分になれました!
    凄い才能だと思います!

    ありきたりな設定、途中で名前を忘れさせてくれるテンポ、いきなり幻覚を見たりする躍動感…
    感動しました!(真顔・ω・)

     
    • 匿名

      (・ω・)さんのコメント好きです。
      言いたいことを代弁してくれています。

       
  • 匿名

    いくゆみさんのお話はよく出来ていて面白い。お姉さんは悲しいけど、天使みたいな人だね。結末が凄い!運命のイタズラみたいな。

     

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