【SS】はじまり/HN:いくゆみ

「母親からの通報で、子供が誘拐されたそうです」

隣で運転している相棒から事件の概要を聞いていた。

「犯人らしき人間を見た人は今のところ、いないようです」

誘拐された子供の自宅に急行した。

不思議と警察への通報は止められなかったという。

家には母親と誘拐された子供の2つ上の兄がいた。

「下の息子が…」

母親は酷く取り乱している様子だった。

「僕が家に帰る時、途中の公園で弟はモンちゃんと遊んでたんだ」

それが今現状では最後の目撃情報。

「モンちゃんっていうのは弟のクラスメイトで…」

「栗山さん家の息子さんと遊んでたのね…陽太…他に変な人とか見てない?ねぇ?思い出して…」

そう言うと顔を抑えながら泣き出した。

ピピピ

電話が鳴った。

「なるべく話を長引かせて下さい」

そう伝えると、他の警察官に傍受するよう合図した。

「も、もしもし…」

『身代金400万を用意しろ。受け渡しは後で知らせる』

当たり前だが声はボイスチェンジャーで変えられているようだった。

「よ、陽介は…」

ピッ

電話は切れた。

「陽介…陽介…」

何とか電話に出た母親だったが息子の無事すらも確認が出来なかった。

400万…

身代金にしては意外と少ないな。

「傍受ダメでした」

そんなの分かってる。

「電話機は?」

「どうやら誘拐された子供の持っていた携帯電話のようです」

最近の子供は安全の為に携帯を持たせている家も多いという。

「なら微弱電波から居場所を割り出せ!すぐにだ」

犯人は絶対に捕まえる。

俺は子供に手を出す奴は特に許せない。

「携帯の電源を切っているか、バッテリーを外しているみたいですね。場所われません」

くそっ

犯人は相当、頭の良い奴みたいだな。

「基地局はどこを経由していた?」

「ここから一番近いところです」

犯人は近場から電話をかけてきたのか。

電話を切った後か、電話をかけながらか、移動をしていたとしても…

「そう遠くない場所にはいる!」

情報が少な過ぎる。

栗山という少年にも話が聞きたい。

今は少しでも情報が欲しい。

「悪いが相棒、栗山さん家の息子さんに話を聞いてきてくれないか。何でもいい…少しでも情報が欲しい」

「わかりました。先輩」

こんなにも情報がないものなのか。

俺は焦り出していた。

ピピピ

『金を用意して、もう一人の息子に持たせろ。受け渡し場所は…近くの公園だ。時間は今から2時間後、公園の真ん中に子供が入って遊べる遊具がある。そこに来い』

ピッ

電話が切れた。

身代金にしては安い金額…

もう一人の息子…

近くの公園…

犯人は家族に近い人間。

そして身代金の受け渡しが犯人逮捕の一番のチャンス。

だが受け渡しの相手を子供に指定してきた。

それは簡単に人質にも出来る。

お金と子供を連れて逃亡の可能性が高い。

公園付近を厳重に監視した。

出来うる限りの警察官の配置。

あと1時間後が勝負。

相棒が戻ってきた。

「先輩、残念ながら怪しい人物は見てないそうです。栗山亜門くんは松山陽介くんと少しだけ話して、すぐに別れたようです」

あまり期待はしていなかったが…やはり情報はないか。

だが、これだけの警備から逃げられると思うなよ。

陽介くんの兄である陽太くんは震えているようだった。

無理もない、まだ小学生だ。

危険な目に合うかも知れない。

自分が失敗すれば弟の陽介くんが死ぬかも知れない。

歯を食いしばり泣きそうになりながらも我慢していた。

「大丈夫だ。君を守る…弟の陽介くんを必ず助け出す。おじさん達を信じてくれ」

陽太くんの肩を叩いた。

「はい…」

精一杯、振り絞った声。

俺達が守らないといけないんだ。

強く、そう思った。

あらゆる場合を想定し、何度も何度も俺達は犯人逮捕の為に連携強化した。

あっという間に約束の時間。

陽太くんがお金を持って公園へと入って行く。

今のところ犯人らしき人物は公園に近づいていない。

真ん中にある子供が入って遊ぶ遊具。

ここが約束の場所。

ピピッ

何かの音が聞こえた気がした。

「?」

陽太くんは遊具の中に入って行った。

何だ…何が起きてる…

すぐに陽太くんが出てきた。

手に持っていたはずのお金が入った袋がない。

中に置いてきた…のか。

嫌な予感がした。

さっきの音…

犯人は弟の陽介くんの携帯電話を使用していた。

そして…この周辺の事にも詳しい。

松山家の事も、もう一人息子がいる事くらいは知っている。

きっと陽太くんが出掛ける時に携帯電話を持っていくの癖だと知っていた…

もちろんアドレスは弟の陽介くんの携帯で…

「陽太くん!メールを見せてくれ」

携帯電話を差し出す陽太くん。

〔ゆうぐの中に入って

おもちゃにお金の入ったふくろを

むすべ〕

そう書かれていた。

おもちゃ…?

空を見上げるとヘリのようなものが飛び立っていた。

「し、しまった。あれはドローン!」

そうか…

目撃者がいないのもドローンを使っての誘拐だから…

受け渡しも犯人は来ない。

あれを見失ったら…手掛かりがない。

誘拐された陽介くんが帰ってくる保障もない。

「ドローンを追え!絶対に見失うな!!」

走って追いかけるのには限界があった。

車で追った仲間もいたが、犯人は周辺にも詳しい。

車が通れない道も知っていた。

「くそっ」

我々はドローンを完全に見失った。

完敗、そして絶望。

しかし数時間後には陽介くんが無事に戻ってきた。

犯人の事は見ていないそうだ。

手掛かりは何もなかった。

 
「次は銀行強盗だな。僕は捕まらない」

少年は不敵な笑みを浮かべていた。

「僕が、この世界を操り…透明(クリア)にしてやるよ…」

この時は誰も知らなかった。

彼を逃してしまった事で…

世界の終わりが始まった。

 
  • (・ω・)

    栗山亜門
    略してクリア(・ω・)

     

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