【SS】変わってしまったもの/HN:いくゆみ

「あ、あ、あ、当たっ…た。うそっ…当たってる」

何度も確かめた。

間違いない。

宝くじの前後賞込み6億円が当たった。

未だに信じられずに当選番号が発表されているサイトに繋いだ携帯電話をずっと眺めている。

信じられない事が起こると人間は、ボーッとしてしまう。

そして…

ガタッ

「た、宝くじの券、宝くじの券。銀行行かなくちゃ!」

ふと我にかえる。

こんな金あれば一生遊んで暮らせる。

俺は勝ち組だ。

宝くじの券を大切にカバンにしまい家を出る。

こんな貧乏アパートとも、お去らばだな。

鍵を掛けていると

「あら~高橋さん、顔色悪いけど大丈夫かい?」

いきなり声を掛けられてビックリした。

大家のお婆ちゃんだ。

いつもは声なんて掛けてこないのに…何故このタイミングで。

「だ、大丈夫ですよ。いってきます」

そそくさとカバンを抱えながら歩き出した。

あんなタイミングで…普通はあり得ないだろ。

あれか…アパートの壁はボロいし防音なんて、しっかりしてない。

当たったって言ってたのがバレたのか…。

今まで世話してやったんだから、優しくしてやったんだから少しくらい金よこせってか。

くそっ

テレビとかで見た事あるぞ。

高額当選すると家族や親戚、友達や知人が優しくなって…金を…。

ふざけんなよ。

俺の金だ。

いや…換金するまでは安心出来ない。

知られれば奪い取ろうとする奴も現れるかも知れない。

取られたら俺の宝くじの券だなんて証明出来ない。

ここから銀行に行くまで…人間の皮を被った悪魔共を相手にしなくちゃいけないんだ。

気を引き締めろ。

気を許すな。

換金してからが俺の金だ。

カバンを持つ手が震えている。

これが6億の重み。

たった紙切れ3枚くらいが…普通のサラリーマンが生涯に稼ぐ金の3倍。

「ははは…ははは…ははっ」

考えるな。

考えたら不安に囚われる。

平常心だ。

機械のように任務を全うしろ。

「あれ、高橋くん?」

ビックリした。

何なんだ、今日に限って。

「え、えっと…鈴木さん……」

同じ大学の鈴木さんだ。

こんな底辺にいる俺にも普段から優しい。

「顔色悪いけど大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。ははは…」

きっと彼女だって俺が6億持ってると知れば態度が変わるだろう。

金に目が眩むに違いない。

………もしかしたら。

こんだけの金があれば…。

今まで自信なかった俺だって…女を好き放題出来るんじゃ。

「もしもだけど鈴木さんはさ、何億もお金積まれたら好きでもない相手に身体を許す?」

聞いておいて自分が最低だと思った。

そして、それは希望を込めた願いなんだとも思った。

「お金なんていらないかな。欲しければ自分の力で稼ぐよ。家族がいて友達がいれば十分幸せ」

求めていた答え。

たぶん鈴木さんなら、そう答えるだろうと思っていた。

でも…そんなのは…実際に金を見てないからだ。

人は金の魔力には逆らえない。

金さえあれば手に入らないものなんてない。

「そ、そうだよね。大切なのは心だよね。愛だよね」

思ってもいない事を口にして俺はその場を後にした。

お金…お金……お金。

狙われてるぞ…気を許すな。

俺は6億という大金を手にした。

誰もが羨む程のお金。

豪邸に住み、綺麗な妻と子供たち。

誰もが羨む程の生活。

それでも俺は何一つ満たされていなかった。

誰も信用出来ず、妻や子供ですら信じる事が出来ない。

皆が俺に求めるのは金だけ。

俺は幸せだったのだろうか。

狂ってしまった世界。

変わってしまった世界。

求めた答えが分かっていたはずなのに…

最初から世界なんて変わっていない。

恐ろしい魔力にあてられて変わってしまったのは…

他ならない俺だった。

何も信じられない自分が巻き起こした悲劇。

「あの時…俺は…唯一のチャンスを…」

流した涙。

「喪った」

最高の幸運は最大の悲劇だった。

 
  • 匿名

    宝クジが当たった結果、人生が狂った。
    このありふれた話をそのまま書いただけだよね(´・_・`)

     
  • 匿名

    (・ω・)さんのコメント、おもしろいです

     
  • (・ω・)

    こいつの間違いはドローンを使わなかった事。ドローンを使っていたら全ては変わっていたはずだ。この鈴木が多いSS世界で銀行強盗や誘拐事件の身の代金を運べるドローンは優秀な存在である。なのに使わなかった!そりゃ登場人物死ぬわ!

     
  • 匿名

    一文ごとに改行するのは癖かな

     

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