赤ん坊


赤ん坊


数年前、私の先輩のFさんから聞いた話です。

Fさんが自宅のすぐ近所に住んでいる従兄弟の家へ行った時のこと。


その日、従兄弟はいつになく沈んだ顔をしていたそうです。

上がって飯でも食べて行けという話になり、そのままずるずるとお酒を飲み始めた頃、従兄弟がぽつりと話し始めました。


「一昨日、すげぇのが来たんだよ」


その夜は真夏にもかかわらずわりあい涼しかったので、今日はゆっくり眠れるだろうと思っていたところ、なかなか寝付けなかったんだそうです。


そのうち、遠くで赤ん坊の泣き声が聞こえたそうです。

もちろん近所に赤ん坊のいる家などありません。


次第に赤ん坊の声は近づいてきます。

やばいと感じたものの、逃げることはできませんでした。


やがて泣き声に混じって、ザッ、ザッ、っと畳の上を這うような音まで聞こえ始めました。

赤ん坊の声を右耳の側で聞いたその時、仰向けに寝ていた従兄弟の胸の上にずしりとした重みが乗りかかりました。


怖くて目を開けることもできずにじっとしていると、すぐにその赤ん坊は胸から降り、通り過ぎて行きました。

その間もずっと泣き声は続いていたそうです。


Fさんは、「一昨日通過したものが昨日は戻って来ていないのだから良いじゃないか」と従兄弟をなだめてその夜は終わりました。


――その夜。

Fさんはまさか、従兄弟が聞いたそれを数日後に自分も聞く、という羽目に陥るとは思っていませんでした。


従兄弟の部屋とFさんの部屋は一直線上にあり、数日がかりで這って来たようです。

その赤ん坊はFさんの家も通過してどこかへ去ったらしいです。


どこへ行ったのかは、もちろん誰も知りません。

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