【怪文書】小野原家の悲劇/HN:早坂正彦

私が埼玉の春日部に住んでいたのは、もう数年前になる。

近所の子どもたちが公園で遊ぶ笑い声が絶えず聞こえ、散歩している時の私に「こんにちわ。」と元気よく挨拶をしてくれるグループがいたのをよく覚えている。

そのグループの中でも珍ちゃん、珍ちゃんと慕われていた子のことは忘れられない。

公園の砂場で突然、お尻を出したかと思うと、踊り出す。

下半身を恥ずかしげもなく出し、腰を振りながら、象さんを歌いだしだす無邪気な珍之助君。

珍之助くんはすこし下品だが親しみやすく、皆から好かれるような子だった。

それから十数年経たった。

ある日突然、珍之助くんが亡くなった事を知った。

私は、若くして亡くなった珍之助君の訃報に驚きと遺憾の念を隠せなかった。

何故、珍ちゃんは死んだのか、事の顛末を私が調査した記録を元に書き綴ることにする。

それが、小野原珍之助くんへの追悼の意をこめた、私なりの精一杯の供養だと思うからだ。

            早坂正彦

 
 
(登場人物)

小野原まさし…一家の大黒柱、三葉商事の課長。

小野原ふさえ…まさしの妻、専業主婦。

小野原珍之助…ニート、事故で車椅子生活になってから部屋に引き込もっている。

小野原アジサイ…女子高生、今時のギャル。

クロ…小野原家のペット、犬。

はざまくん…珍之助の幼なじみ。

木偶ちゃん…同。

よしおくん…同。

ナナちゃん…同。

 
【小野原家の悲劇】

フサエはやつれた顔を隠すように美容パックを貼り、2人分の昼食を作っていた。

年々シワやたるみが目立つようになり、すっかりオバサンになった顔を少しでもケアすることで、夫であるマサシに振り向いてもらいたかった。

多分、マサシは浮気している。

週末になると仕事が忙しいからと言っては会社に泊まり込むことが増えたマサシを疑っていた。

明るく、一家のムードメイカーだった珍之助は数年前事故で両足の機能を失ってから、以前の陽気で親しみやすい彼では無くなってしまった。

部屋からは殆ど出ず、フサエの作ったご飯を食べ1日中ネットをしている。
フサエとの会話もまるで無いに等しい。

赤ん坊の頃、キラキラした目を輝かせながら、床をハイハイしていた娘のアジサイは女子高生になり、すっかり変わっていた。

何度も繰り返し通った日サロで小麦色の肌に、ド派手な化粧、それに1日中携帯を握りしめて離さない。

最近では朝帰りなんかもするような子になってしまった。

昔、夢に描いた幸せな家庭は脆くも崩れさり、《こんなはずじゃなかったのよ》と、フサエの心中は悲しみにひしがれていた。

庭では「くぅ~ん」とペットのクロが寂しそうに鳴いていた。

暗い影がフサエの顔に覆い被さる…。

 
小野原マサシは、部下の若い女にお茶を入れてくれと頼んでいた。

部下の若い女が給湯室に行くと、然り気無く自分も後に続く。

給湯室で若い女部下の尻を擦りながら、マサシは女の耳元に甘い声で囁いた。

「みつ子ちゃ~ん、今夜は妻に残業で帰れないと言ってるんだよ~だからいいだろぉ~。」

女もマサシの耳元に口を寄せ囁く。

「いつになったら奥さんと別れてくれるのょ~もう別れてくれるまでホテルには行かないわ。」

そう言って、そそくさと部下の若い女は給湯室を出ていってしまった。

「ちっ。」マサシは舌打ちをした…ふいに家族のことが脳裏をよぎった。

年々、夜の営みも消えシワやたるみも増え、家計のやりくりに口煩く毎日小言を言うフサエ。

事故で歩けなくなってから、感情を失い部屋に籠りっきりになってしまった珍之助。

毎晩、朝帰りをくり返しメス犬のように発情した匂いを振り撒き、臭い、臭いとマサシに対して文句を言うアジサイ。

ふと家族のことが脳裏に浮かんだマサシは呟いた。

「あのお荷物家族さえいなけりゃ俺は自由になれるんだ…」

暗い影がマサシの顔に覆い被さる。

 
その日、小野原アジサイは春日部市の繁華街をぶらぶらしながら待ち合わせのラブホテル前に到着した。

遊ぶのにも、欲しいものを手にするにも金が必要だ。

うちは貧乏ではないが、お小遣いを沢山貰えるほど裕福ではない。

アジサイが覚えたのは出会い系で体を売りてっとり早く稼ぐことだった。

今日も私を買ってくれるオヤジがいる。

「お待たせ~。」と作り物の笑顔を見せオヤジと腕を組みホテルに入る。

アジサイは行為の最中、多少演技もするがほとんどはマグロだ。

男に抱かれながら、アジサイはふと兄のことを考えた。

いつも笑顔が絶えず面白いことばかりしていた珍之助お兄ちゃん。

まだ子どもの頃、ハクション仮面の映画を観に行った時に「ほいアジサイ。」と言って売店で買ったポップコーンを一緒に分けあってくれた優しい珍之助お兄ちゃん。

縁日で、フリフリザエモンのぬいぐるみがどうしても欲しくて、何度も失敗した輪投げを「おらに貸してミジンコ~」と言って1発で取ってくれた時のかっこいい
珍之助お兄ちゃんはもういない。

今あの家にいるのは、ただの珍之助お兄ちゃんの脱け殻だ。

そんな兄ならいっその事…

暗い影がアジサイの顔に覆い被さる。

 
仲良さそうな男女のグループがそれぞれ、菓子折や漫画本や雑誌を抱えて小野原家に向かって歩いていた。

「元気かなぁ~珍之助のやつ。」

先頭を歩いていた、はざま君が口を開く。

「珍ちゃんは、きっと元気になるよ~まだ事故のショックから立ち直れないだけでまた、珍ちゃんの笑顔が見れるよ。」

ナナちゃんが答えると、よしお君も

「そぉだょね~珍ちゃんがいないと、なんだか心にぽっかり穴が開いたみたいだよ。」

よしお君はなんだか涙ぐんでいる。

鼻水をすすりながら木偶ちゃんも「きっと元気になる…」と呟いた。

 
 
それぞれが暗い影を無理矢理押し込める。

はざまは、気丈な面持ちで小野原家のチャイムを押した。

ピンポーンとインターホンが鳴り、フサエが取り次ぐ。

「あら、いらっしゃい。」

「ご無沙汰してます。あの、珍之助はいますか?」とはざま君が言うと、フサエはやつれた顔に笑みを浮かべながら

「上がって言って」と4人を家に上げた。

小野原家は珍之助が事故にあって以来バリアフリー使用の家にリフォームにしていた。

手すりのついた廊下や横にスロープが付きの階段。

珍之助が階段や廊下を移動するのに苦労しないようにとフサエがマサシに無理言って改築させたのだ。

4人は階段を上がり、珍之助の部屋の前でノックをした。

「おーい珍之助、はざまだ。」

部屋の中からは何も反応はない…

「ナナちゃんやよしお君、木偶ちゃんも一緒だぞ~開けてくれよ珍之助~。」

はざま君の問いかけに、しばらく無言の間が続いたが

「ごめん…オラ今は出たくない…」

それは久しぶりに聞いた珍之助の声だった。

「珍ちゃん。」

ナナちゃんが悲痛な声で呟く。

4人は不安そうに顔を見合わせる。

暫くの沈黙が続いた後、はざま君が「わかったよ珍之助。お前の好きなチョコビンと雑誌買ってきたから部屋の前においとくからな。」と皆を代表して言った。

「……。」

珍之助からの返答はない。

階段を降り、4人はフサエに挨拶を済ますと小野原家を後にした。

その日の夜、久しぶりに小野原家は一家全員がそろった。

普段から朝帰りを繰り返し、きちんと学校に行っているのかすら分からないアジサイ。

週末になると仕事が終わらないなどと、言い訳して浮気をしているマサシ。

部屋から全く出てこない珍之助がその日は珍しく一家の団欒に加わった。

久しぶりの家族の団欒にフサエも笑顔になる。

「今日はみんなの好きなスキ焼きよ~。」とフサエが言うと

「おっ!すき焼きかぁ~いい匂いだなぁ。」とマサシが返す。

アジサイは携帯をカチカチいじって欠伸をしている。

「ほ~らアジサイ携帯ばかりいじってないで手伝って~」とフサエがアジサイに言う。

アジサイは「はーぃ。」と気の抜けた返事をした。

珍之助は車椅子に座り、ぼんやり窓の外を眺めている。

庭には、昔二人で駆け回って遊んだペットのクロがいる。
クロは、すっかり歳をとってしまい、だらりと寝そべったままだ。

すき焼きがぐっぐっといい匂いを出しながら煮えている。

マサシはフサエに「そういえば…」と切り出した。

「そういえば、今度庭に除草剤を撒くからな~ほら草がもう生えまくってるだろ。」

不思議そうにフサエが「あら、いつもならあなたが草むしりしてくれるじゃない。」と返すと

「まぁ最近仕事も忙しくてな~それに取り引き先のメーカさんから新開発の除草剤を頂いたんだよ。」

「まぁ!!」とフサエが驚く。

「まだ試作段階らしいから瓶にはラベルも何も貼ってない。誤って飲んだりしたら危ないからな~棚の上にでもおいとくよ。」そう言ってマサシは黒い瓶をポケットから取りだし、皆に見せる。

「珍之助もアジサイも、もう子どもじゃないんだから大丈夫よ。」とフサエが言う。

「誤って飲んだら危ないもんだから、万が一だよ、万が一。」とめんどくさそうにマサシは返した。

珍之助は棚の上にあげられた、真っ黒の瓶をじっと見つめていた。

アジサイは携帯を見ている傍ら、そんな珍之助の様子を見ていた。

 
次の日、フサエが買い物に行っている間に事件は起きた。

第1発見者は珍之助君の友人である、はざま君、ナナちゃん、よしお君、木偶ちゃんの4人。

昨日の珍之助君の様子が気になり今日も小野原家を訪ねたというのだ。

この時、マサシやアジサイは既に会社や学校に行っており、小野原家には珍之助君が一人だけであった。

4人が発見した時に珍之助君の様子はぐったりしており声をかけても反応はなかった。

救急車が駆けつけた時にはかなり絶望的な状態であったようである。

死因は台所の棚にあった古い除草剤を致死量飲んでいたことが原因である。

さらに警察の捜査から、アジサイは学校をサボり一時家に帰宅していた。
その時はフサエもいて気づかれないように家のタンスからフサエのヘソクリ1万円を抜いて家を後にしている。

アジサイの証言によると棚にあった古い除草剤はまだその時そこにあり、昨日マサシがもってきた黒瓶の除草剤も棚の上にあった。

使われたのは棚の上にあった新しい除草剤ではなく、棚の下にあった古いほうの除草剤を飲んで珍之助は亡くなったのだ。

深い悲しみに包まれた小野原家は、その後、珍之助の死亡保険を受けとったマサシが会社の若い女と蒸発した。

アジサイは学校をやめ家出。
現在はどこかの風俗で働いているという。

フサエは一家が崩壊したことでノイローゼになり1年後、首を吊って自殺した。

珍之助君の死から僅か1年で小野原家は崩壊の一途辿った。

しかし果たして珍之助君は誰かに殺されたのだろうか、それとも自殺だったのか…

私の、この手記を見ていただければ、およその検討は出来るだろう。

しかしそれが真実とは限らない。
真実は小野原家の崩壊をもって深い闇へと沈んだのだから。

 

 
  • 匿名

    だから何?
    推理できるほどの情報がない。

    悪質なただのつまらぬ妄想パロディでした。

     
  • アレア

    これはクレ●ン●んちゃん!?面白いw
    珍之助を誰が殺したのかはアリバイからみて
    はざま君たち4人が共謀して家族の留守を狙い
    珍之助に無理矢理除草剤を飲ませた?
    まさしが持っていた新しい除草剤を使ってないのと
    動機として以前からおかしい事ばかりしていて
    4人は恨みを持っていたかな。

     
  • 匿名

    面白かった!けど、なんかズルい。木偶ちゃんがツボに入って五分くらい笑った。珍ちゃんの死が崖からの落下でなくてホッと胸をなで下ろした

     

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