【怪談】腐る日

先日、都内某所で催された怪談会の二次会で面白い話を聞いた。

自らの体験を話してくれたのは元精神科で看護士をしていた加藤(仮名)さん。彼女には、辞めて20年以上経つ今でも忘れられない患者がいるという。

「臭い臭い臭い…」

家族に付き添われ来院した当初から、そのご老人はしつこくしつこく訴えかけてきた。

「気のせいですよ」

タコができるくらい耳にしたであろうそのセリフは、最早髪の毛一本程の気休めにもならない。

「年がら年中ってわけじゃないんです。いやむしろ、穏やかな時の方が圧倒的に多いんです。ただ、一旦「臭い臭い」言い始めるともう正気の沙汰じゃないんです。異様な目をして臭いの元を探すんですよ。突然、身の危険を感じるくらいの勢いで近寄って来ては鼻をクンクン、もう、失礼ったらありゃしない。でも、しょっちゅう食べた物モドしてたんで芝居だとも思えなくて」

家族によると、精神科に頼るまでに、ありとあらゆる検査を済ませているようだった。が、脳にも、鼻にも異常は全く見られない。

街中でも赤の他人に向けて狂ったように「臭い」を連発するものだから殴られる事もしばしば。家に閉じ込めておくわけにもいかず、家族にしてみればやむを得ぬ選択だったのだ。

「霊の仕業ではないか、とも思ったんですが、病院の関係者がそれを口にするのはさすがに…そこで、苦肉の策として鼻の下に薬を塗ってみたんです。ええ、ドラマで検死官が塗るやつです」

効果覿面だった。

「とても喜んでくれて、勿論ご家族も。すぐに退院されたんですが…」
 
 
 
 
新聞紙上でその老人の氏名を目にしたのはそれから約五年後の夏だった。

『○○岳で片岡信一(仮名)さんのご遺体見つかる。捜索12日目。窪みに落ち発見が遅れたもよう』

 
 
「予知、ですかね…」

加藤さんは呟いた。

 

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