【不思議】歯/HN:0.血苺

前歯が二本抜けてしまった。

…という、とても生々しい夢を見ました。
起きてからも気になって、無意識に何度も舌先で確認してしまいます。

 
「夢占いだと“散財に注意”だってよ」

職場で話すと、同僚がそう教えてくれました。

「散財?…先月二回も芝居を観に行ったから、それかな」
「先月なら違うんじゃない?夢を見たのは夕べでしょ」

たかが夢、されど夢…何故か拘ってしまいます。

「なら正夢かもよ…きっと近い将来、あんたの歯が抜けるんだ」
「え~!ヤな事言わないでよ」

同僚と話している時は笑っていましたが、その実ますます気にして、舌先が痛くなるくらい何度も歯の裏をなぞってしまいました。

心なし、グラグラして来たような…

 
家に帰ると、五年生の娘が

「あ…お帰りなさい」

自分の口元を手で隠しながら、言いました。

「!!」

まさか…私じゃなくて、娘の歯が抜けた?
自分が体験する事と思わせて、実は身近な人が…そういう警告だったのでしょうか。
もちろん、娘の前歯は既に乳歯ではありません。
女の子だし、何とかしてやらねば…

一瞬のうちにそこまで考え、

「何隠してんの?…見せなさい!」

無理矢理、手をどけさせました。

「…ごめんなさーい」
「……」

ただ、私の口紅を塗って遊んでいただけでした。

まだ未使用のヤツを開けやがって、このガキは…でも、まあ良かった。

 
 
晩ご飯の後片付けをしながらも、まだ私は悶々としていました。
抜け落ちた歯が口の中に転がる感触も、やけにリアルに思い出されます。
…私、もしくは身近な人の…

 
両親は既に入れ歯だから問題は無いはず。
では、弟?
大した事のない容姿だけど、歯並びだけは綺麗なんだよな…あいつは。
電話してみようか…

あとは…インコのけんちゃん…には歯は無いし…

その時、

「うわ~!」

旦那の叫び声がしました。

…あ、旦那の事を忘れていた!

もう…前歯は保険が利かないって聞いたのに…迷惑な。

「どうしたの?」
「痛い!千切れそうだ…早く包帯巻いてくれ!」
「……」

ビールのプルトップで指を切っただけでした。
私は無言で絆創膏の箱を差し出しました。
全く、男って意外と血に弱いですよね。
まだ大袈裟に騒いでいる彼の情けない姿に、私の不安も次第に治まっていきました。

 
…単なる思い過ごしだったのでしょう。きっと。

 
娘が悪戯したまま出しっ放しにしていた口紅をドレッサーに片付けていた時、ふと気になって、奥にしまってあった小箱を開けました。

あ!…

それは、半月型をした塗りの櫛。
時代劇なんかで町娘が髪にさしているようなフォルムが気に入って、大事にしていたものでした。

その、櫛の歯が二本、折れています。
ちょうど真ん中の…

 
この櫛は、結婚前に浅草で、旦那が買ってくれたものでした。

ああ、これだったのか…

 
 
お風呂に入ろうとしている旦那に

「染みるから指、なるべく湯船につけないようにね」

そう声を掛けると、旦那は仰け反りました。

「何、お前…いつになく優しいじゃん」

 
うっさいよ。

……ごめんね。

 

世にも奇妙な怖い話や都市伝説から不思議体験スピリチュアルまで…オカルト小説投稿/2chまとめサイト。1万3千話超えの厳選物語を貴方に★