【怪異】涙そうそう(卒業写真③)後編

 
 
 
 
「先輩、そろそろ行きますよ」

「マジで行くのかよ……」

数時間前には、先生の自宅リビングから眼下に望めていた美しい鹿児島湾が、今は、ほぼ黒く塗り潰されて、イカ釣りだろうか、そこかしこに漁船の灯火がちらついているだけだ。踏切の件が無ければこれもまた情緒的で、美しい景色だと言えるのだろうが、今の俺には、闇夜にユラユラ明滅する蝋燭の灯りにしか見えない。

応援してやろうなどと息巻いていた自分はとうに消え失せ、俺は完全にへたれていた。やはりホラーは暗闇とセットなんだな、とつくづく思う。

「車で行くのか?」

「歩きです。20分くらいすかね」

「無理!!先生、それだけは無理!!車じゃないんなら俺は行かねえ」

「だって停めるとこ無いし」

「おま、鹿児島ごときが偉そうに言ってんじゃないよ。もう1時半だぜ?」

「あ~鹿児島馬鹿にした~」

「これだけは譲れねえよ。俺は車ん中から様子見とく。異変感じたらすぐ助けに行くからよ」

「仕方ないなあ……分かりました。ま、それが正解すかね。何かあったらすぐ動けるし」

「あとさあ、何かオヤツになる物ねえ?食いながら見とく。ジュースとな」

「(笑)ありますよ。お袋が焼いたクッキーがある筈です」

「ヤッター!!美しいお母様の焼いたクッキー最高!!」

「やめて下さいよ……」

「だって綺麗じゃん。さすがミス」

「桜島(苦笑)」

 
 
 
 
 
 
その踏切は、狭くはない普通の二車線道路にあった。向こう側にはセブンイレブン、その手前の線路脇には○○商店街と書かれた看板が見える。

まず最初に覚えたのは何とも言えない違和感だった。自殺するのに、こんな、人通りの多い場所を選ぶだろうか?

到着してすぐに、俺はその第一印象を指摘したのだが、先生は、それこそが彼女の強い意志の表れだと言った。

違うんじゃないか?

俺には、その生徒が恐ろしく病んでいるようにしか思えなかった。嫌な予感しかしないのだ。先生のやろうとしている事は、実はとんでもない愚策なんじゃないか?

不安が刻々と色濃くなっていく。フロントガラス越しに見えている先生に、今のところ、おかしな挙動は無い。すぐ飛び出せるようにドアノブに掛けた手がいつの間にか汗ばんでいる。そういえば、美味いに決まってる手作りクッキーを、まだ一欠片も口にしていない。

30分が経過した。

喉が異様に渇く。俺は残り少なくなったアクエリアスのペットボトルに手を伸ばした。

(え!?いない!!)その、目を離した僅かな隙に先生がフロントガラスから消えていたのだ。

(マジかよ!!)ドアを開けたと同時に飛び込んで来たのは、先生の泣き叫ぶ声だった。(何が起きたんだ!?)薄明かりの中うずくまる先生の後ろ姿が見える。

「先生!!どした!?」

駆け寄った俺に気付いてさえいない様子で、先生は号泣を止めない。憑かれているのは明らかだった。パニックに陥りそうになるのを懸命に堪えながら、脳内のオカルトデータから最善の策を見つけ出す事に集中する。恐怖を感じる暇も余裕も無かった。

俺は一か八か先生の背中をバンバン叩いてみた。いつかの心霊番組で霊能者がやっていた記憶があったのだ。

効果は、あった。

先生はふっと泣き止むと涙でぐちゃぐちゃの顔をゆっくりと上げた。

「あ、先輩……僕、自殺の原因……分かりました」

「いいから車に乗れ。話はあとだ」

「ヤバいかも……僕が踏切から解放したばっかりに」

「だから、話は後で聞くつってんだろうが!!」

「彼女、殺すかも……」

「殺す!?誰を!?」

「お兄さん、彼女の」

「な!?」

 

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